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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第146話:都会からのシニカルな刺客。アポ無し監督と、需品科の対ゲリラ防衛線
真夏のピークが過ぎ去り、どこか涼しげな秋の気配を孕んだ風が、十勝の限界集落を吹き抜けている。
世界中を震撼させた夏祭りの狂騒から数日、俺が山ごと買い上げた古民家には、本来あるべき静寂が戻っていた。
縁側では、純白の神獣シロ様が「冷感マイナスイオン」の出力を秋仕様に微調整しながら、座布団の上で丸くなっている。
その足元では、キタキツネのコン吉とコン次郎が、日向ぼっこをしながら互いの尻尾を追いかけてグルグルと回っていた。
「はぁ〜、お祭り騒ぎの後は、こういう普通の静かな朝が一番落ち着きますねぇ」
麦わら帽子を脱いだ小春ちゃんが、縁側に腰掛け、冷たいほうじ茶を飲みながらホッと息を吐いた。
「ああ。部隊の作戦行動(夏祭り)が成功裏に終わった今、最も重要なのは戦力の再編成と、平時における防衛体制の維持だ。平和な時こそ、警戒を怠ってはならない」
俺は折りたたみチェアに深く腰掛け、いつも通りのフラットな思考で周囲の索敵を行っていた。
その瞬間、俺の需品科仕込みの超高精度・対ゲリラ警戒センサーが、敷地境界線(防風林の入り口)を突破する『不審な足音』を検知した。
ザッ、ザッ、ザッ……。
限界集落の静寂を破り、古民家の庭に堂々と踏み込んできたのは、見慣れない都会の衣服をまとった三人組の集団だった。
先頭を歩くのは、ボサボサの髪に無精髭を生やし、鋭くシニカルな眼光を放つ中年の男。
その後ろには、肩にバズーカのような業務用大型カメラを担いだカメラマンと、長いガンマイクを掲げた音声スタッフが控えている。
「ふん……ここが例の『聖域』か。大自然の楽園を気取っている割には、随分と古びたボロ家じゃないか」
男は手に持ったクリップボードを叩きながら、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「あの、どちら様ですか!? うちは現在、突撃取材やアポ無しの訪問はお断りしているんですけど……!」
小春ちゃんが咄嗟に立ち上がり、警戒の声を上げる。
男はフッと鼻で笑うと、懐から高級そうな名刺を取り出し、俺たちの前に突きつけてきた。
「私は黒岩 徹(くろいわ とおる)。国内外で数々の賞を受賞してきた、ドキュメンタリー映画監督だ。ネットの安っぽい欺瞞を暴き、剥き出しの『リアル』を映像に収めるのが私の仕事でね」
黒岩と名乗った監督は、カメラマンに手で合図を送り、アポ無しであるにも関わらず、問答無用でレンズを俺たちの顔に向けてきた。
「黒岩監督……。国際的な映画賞の常連で、ネット上のヤラセやフェイクニュースを徹底的に糾弾するスタイルで有名な、あのシニカルなアンチおじさんですか!?」
小春ちゃんがタブレットで検索しながら、驚きの声を漏らす。
「ハハッ、アンチとは人聞きが悪いな。私はただ、現代社会に蔓延する『嘘』が嫌いなだけさ。特に、この【日常チャンネル】……君たちの配信だよ。体長三メートルのヒグマが人間に懐くだの、盆踊りを踊るだの、特撮映画のCGじゃあるまいし、世の中の情弱を騙すのも大概にしたまえ」
黒岩は縁側の傍らで完全に野生を忘れてスヤスヤと眠っている巨大ヒグマを一瞥し、冷酷な笑みを浮かべた。
「どうせドバイの石油王やスイスの銀行家と結託して、ハリウッド製の超精巧なロボットか着ぐるみを運用しているんだろう? 今日はその『ビジネスもふもふ』の化けの皮を、私のカメラで完全に剥ぎ取りにきた。覚悟したまえ、元社畜のペテン師くん」
都会の冷徹なエゴイズムを隠そうともせず、圧倒的なシニカルさでヤラセを決めつける黒岩監督。
カメラの赤い録画ランプが非情に点滅する中、小春ちゃんは「ロボットなわけないでしょうが!」と怒りを露わにする。
だが、俺は一切の表情を動かさない。
元・陸上自衛隊需品科としての、どんな罵倒や挑発にも動じない『鋼のポーカーフェイス』を発動した。
「……なるほど。アポ無しの突撃取材(強行偵察)か。面白い。小春ちゃん、どうせならこの『報道の自由』を自称するドキュメンタリーの現場を、こちらからも逆照射(カウンター配信)しよう」
俺はジンバルに固定されたiPhone miniの電源を入れ、即座に【日常チャンネル】のゲリラ生配信を開始した。
通知が飛んだ瞬間、チャット欄にはあっという間に五百万人ものリスナーがなだれ込んできた。
『お、ゲリラ配信きた!!』
『ん? なんか古民家の庭に物々しいカメラ持ったおじさんたちがいるぞ?』
『テレビの突撃取材か!? ヤラセを疑うアンチ監督じゃん!!』
『黒岩監督だ! ネットのフェイクを絶対許さないマンが、ついに主の聖域に攻めてきたww』
『主、逃げてー!! この監督の論破はガチでエグいぞ!!』
チャット欄がザワつく中、黒岩監督は俺のiPhone miniを鼻で笑い、縁側のシロ様に近づいていった。
「まずはこの白い猫だ。神獣などと崇められているが、どうせ中に最新のマイクロドローンでも仕込まれているか、あるいは特殊なプロジェクションマッピングだろう。おい、そこのカメラ、この『フェイクの象徴』をアップで映せ。剥き出しの現実を突きつけてやる」
黒岩がシロ様に向かって、自身のクリップボードを突き出した、その瞬間だった。
『……ミャウ(無礼な人間ね。身の程を知りなさい)』
座布団の上にいたシロ様が、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――をスッと開いた。
彼女が黒岩を冷徹に見据え、ほんの微かに、プラチナ色の神獣オーラ(威圧バフ)を放出したのだ。
ピキィィィン……!!
古民家の庭の空気が、一瞬にして絶対零度の氷点下へと凍りついた。
「っ……!? あ、が……っ!?」
シロ様の圧倒的な神聖さと、世界を平伏させるほどの絶対的な階級(ヒエラルキー)のオーラの直撃を受け、黒岩監督は息を詰まらせ、その場にガタガタと崩れ落ちた。
カメラマンも音声スタッフも、業務用機材を抱えたまま、あまりの霊的プレッシャーに全身の震えが止まらず、歯をガチガチと鳴らしている。
さらに、そのオーラに反応して、縁側の傍らで寝ていた巨大ヒグマが「ルォォォ……(大将、敵襲か?)」と、地響きを立ててゆっくりと起き上がった。
ブラッシングされて一回りスッキリしたとはいえ、立ち上がれば三メートルを超える、本物の野生の絶対王者だ。
その肉体が放つ暴力的なまでのリアルな質量と、鋭い爪、そしてドスの利いた咆哮が、黒岩たちの至近距離で爆発した。
「ひっ……あ、あああ……っ!!」
黒岩監督はクリップボードを放り出し、プライドもシニカルさも一瞬で消し飛ばして、情けない悲鳴を上げながら庭の地面を這いずり回って後退した。
「ほ、本物……!? CGでもロボットでもない……っ! この野生の圧倒的な恐怖、そしてこの白い猫の、魂を鷲掴みにされるような神々しさは……一体、何なんだ……っ!?」
都会の高慢な映画監督が、大自然の奇跡と、神獣の絶対的癒やし(物理的威圧)の前に、完全にプライドを粉砕されて涙目を浮かべている。
一千万人を超えた同時接続のリスナーたちは、画面越しに伝わる黒岩たちのガチすぎる恐怖と、シロ様の圧倒的な美しさに、大爆笑と喝采の渦に包まれていた。
『アンチ監督、一撃で完全敗北キタァァァァァ!!!』
『シロ様のワンクリックでメンタル崩壊してて草www』
『ヒグマさんのリアルな質量(三メートル)の前に、都会のシニカルが消滅したww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! A foolish director! Did you think my sanctuary was a fake? Welcome to the ultimate reality!“(ハハハ! 愚かな監督め! 私の聖域が偽物だと思ったか? 究極の現実へようこそ!)』
世界のトップVIPたちもチャット欄で大笑いし、極彩色のスパチャが庭に舞い散る秋の木の葉のように画面を埋め尽くしていく。
そんな、超有名ドキュメンタリー監督が地面にヘタリ込んで腰を抜かしているカオス空間のど真ん中で。
俺は一人、静かに折りたたみチェアに座り、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出した。
中身は、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートと秋ナスの味噌炒め』である。
「……よし。前線の防衛戦は終了した。これより、指揮官の通常エネルギー補給を開始する」
俺は、涙目でガタガタ震える黒岩監督を背景に、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに大豆ミートを咀嚼し始めた。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 都会からの超大物アンチ監督が、シロちゃんたちのオーラに圧倒されて完全にアイデンティティ崩壊を起こしてる最高のタイミングで、なんで一人だけ真顔で秋ナスの味噌炒め食べてるんですか!!」
小春ちゃんがパニックを起こし、黒岩の部下が震えながら抱えていた『音声用の長いガンマイク(もふもふの大きな風防付き)』をいつの間にか奪い取ってツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「当然だ。突撃取材という予期せぬイレギュラー(奇襲)に対処した直後だからこそ、速やかに植物性タンパク質とビタミンを摂取し、自律神経を平時(日常)のモードへと復旧させる。いかなる敵を前にしても、己の兵站(ロジスティクス)を最優先する。これが需品科の鉄則だ」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、都会のシニカルな監督が本物の野生の脅威に怯え、ヤラセ説が論破されたと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『アンチ監督を目の前にして、まだ言い訳する気かこの男は!!!』
『主の限界言い訳タイム・都会からの刺客編ww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、彼らが本物の自然に圧倒されたわけでも、神獣の奇跡に屈したわけでもありません。地元の観光協会が導入した最新の『超音波式・害獣忌避装置』の電波が、たまたま彼らの持っていた業務用カメラの基板と干渉し、突発的な『低周波音(サイレント音波)』を発生させただけです。それにより、彼らの脳内が一時的な平衡感覚の乱れと錯覚(パニック)を起こしたに過ぎません。ええ、すべてはただの『音響工学のバグ』と『電波干渉による集団幻覚』ですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、奪い取った大きなガンマイク(もふもふ仕様)をフルスイングし、俺の背中に完璧なクリーンアップ・スマッシュを見舞った。
「音響工学のバグでヒグマさんが三メートルになって起き上がるわけないでしょうが!! 集団幻覚じゃなくて、監督さんたちの心が、シロちゃんたちの圧倒的な本物の尊さに完敗したんですよ!! 素直に『うちのモフモフたちはヤラセ抜きの最強家族だ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのもふもふマイクスマッシュ炸裂www』
『低周波音による平衡感覚の乱れ(シロ様の圧倒的威圧バフ)』
『電波干渉による集団幻覚(ただの三メートルのリアルヒグマ)』
『適応力バグおじさん、ついに突撃取材の論破まで音響工学のせいにするww』
『言い訳のキレが放送倫理委員会スレスレで草ww』
俺の理不尽極まりない音響学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのマイクツッコミに、地面に這いつくばっていた黒岩監督たちも、恐怖を忘れて呆然と俺を見上げ、一千万人の視聴者たちは腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ふふっ、相変わらず言い訳だけは一流の下僕ね)』
シロ様が縁側で満足げに目を細め、再び優雅に丸くなって眠りについた。
ヒグマも「グゥ……(なんだ、掃除か)」と退屈そうに鼻息を漏らすと、元のクッション状態に戻って昼寝を再開した。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の安全が確認され、不審者が無害化されたなら、それでいい」
俺は背中のもふもふマイクの衝撃をさすりながら苦笑し、十勝の高く澄み切った秋の空を見上げた。
聖域のヤラセを暴きにやってきた、都会からのシニカルな刺客。
だが、その剥き出しのリアルと、ブレない需品科の『大豆ミート』の前に、アンチすらも圧倒される『オペレーション・アンチドキュメント』の幕開けは、大爆笑と神獣の輝きに包まれながら、最高に熱く始まろうとしていた。
コメント
1件
読み終わりました!今回も最高でした🤍 「アポなし突撃取材」という刺客が来て、シロ様のワンクリックで秒で崩壊するところ、何度も笑っちゃいました。そして肝心なタイミングで真顔で大豆ミートを食べ始める主さんに小春ちゃんのガンマイクツッコミが炸裂して、もうお腹がよじれるかと……。 「すべては音響工学のバグです」っていう限界言い訳、毎回キレッキレで大好きです。自然の圧倒的なリアルに都会のシニカルが敗北する流れ、すごく痛快でした!