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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第147話:チャック捜索戦。巨大ヒグマのホールドと、脳を焼かれたシニカル監督
「は、離れろ……っ! 来るな、来るんじゃない……っ!」
都会からアポ無しで突撃してきたシニカルな大物映画監督・黒岩徹は、無様に地面を這いずり回っていた。
彼の目の前にそびえ立つのは、体長三メートルを超える我が家の門番(ただのでかい猫)、巨大ヒグマである。
直近の換毛期ブラッシングによって一回りスマートになったとはいえ、その圧倒的な野生の質量と威圧感は、都会のコンクリートジャングルで生きてきた人間の精神を一撃でへし折るに十分だった。
ヒグマは「グルォ?」と気の抜けた声を出し、巨体を揺らして再び縁側の傍らへとドスリと寝転がった。
その頭の上では、純白の神獣シロ様が、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――を細め、美しい毛並みを整えながら、ふん、と鼻を鳴らして再び目を閉じている。
「ハァ、ハァ……。ば、馬鹿な……。こんなことが、あってたまるか……っ!」
黒岩監督はスタッフに抱き起こされながら、額の汗を拭った。
だが、国内外で数々の賞を受賞し、ネットのヤラセを暴き続けてきた彼の狂気的なまでの『シニカルなプライド』は、ここで壊れることを拒絶した。
彼の脳内は、目の前の圧倒的な現実を否定するため、凄まじい速度で都合の良い自己防衛(パラドックス)を構築し始めていたのだ。
「そうだ……そうに決まっている! 本物の猛獣が、人間に大人しく従うわけがない! 騙されるものか!」
黒岩監督は目の色を変え、ガタガタと震える脚を無理やり動かして、昼寝を始めたヒグマへとジリジリと近づいていった。
「監督!? 危ないですよ! 何する気ですか!?」
小春ちゃんが止めようとするが、黒岩の耳には届かない。
「フフフ……。見つけたぞ、ヤラセの証拠をね。この信じられないほどリアルな毛並みのどこかに、必ず『着ぐるみのチャック』か『メンテナンス用のハッチ』が隠されているはずだ!」
黒岩監督は完全に狂気に憑りつかれた目で、ヒグマの分厚い背中の毛並みを両手でガシガシと掻き分け、ジッパーのつまみを探し始めた。
「おい、カメラ! ここを映せ! 私が今から、このペテン動画のチャックを引き裂いて――」
その必死な捜索活動が、昼寝を邪魔されたヒグマの『あるスイッチ』を押してしまった。
「グルォ?(ん? またブラッシングしてくれるのか?)」
ヒグマは嬉しそうに目を輝かせると、のそりと巨体を反転させた。
そして、背後からチャックを探していた黒岩監督の身体を、丸太のような太い両腕でガシッと正面から力強く抱きしめたのだ。
「ひぎゃっ……っ!?」
黒岩監督の口から、映画監督人生で一度も出したことのない、潰れたカエルのような悲鳴が漏れた。
体長三メートルの猛獣による、完全なるベアハグ(捕獲ホールド)。
カメラマンも音声スタッフも「監督が喰われる――!?」と絶望し、その場で腰を抜かした。
だが、次の瞬間、黒岩監督の身体を襲ったのは、死の痛みではなかった。
「……っえ?」
そこにあったのは、この世のあらゆるストレスと絶望を無に帰す、圧倒的なまでの『究極のモフモフ感』だった。
先日、俺がデッキブラシと馬用コームで徹底的にメンテナンスし、シロ様の豊穣のオーラを24時間浴び続けたヒグマの毛並みは、シルクやカシミアを遥かに凌駕する、極上の最高級絨毯のような柔らかさへと進化していたのだ。
さらに、黒岩監督の鼻腔を、強烈な『良い匂い』が突き抜けた。
獣臭さなど微塵もない。
十勝のどこまでも澄み切った秋晴れの太陽の香りと、大自然の深い緑、そしてシロ様のマイナスイオンが触媒となって生まれた、脳の視床下部を直接メルトさせるような『宇宙一清らかなお日様の匂い』。
ぎゅぅぅぅぅぅ……と、ヒグマは大きなぬいぐるみのように、黒岩監督の身体を優しく、だが力強く包み込んで離さない。
「あ……あぁ……っ」
黒岩監督の、常に世界を斜めから見ていた鋭い眼光が、一瞬にして光を失った。
いや、光を失ったのではない。その瞳は、生まれて初めて本当の救済を得た赤子のように、潤み、そして完全にトロンと蕩けていた。
長年の激務、映画界のドロドロとした人間関係、ネットのアンチとの果てしない打撃戦。彼が心の奥底に抱えていた全ての精神的疲労が、ヒグマの圧倒的なモフモフ感と極上の香気によって、一瞬にして限界突破(オーバーフロー)を起こし、脳細胞ごと消し飛ばされたのだ。
「あったかい……。なんだ、この安心感は……。私は、ずっと……ここに、いたかったんだ……」
都会のシニカルな鬼監督は、巨大なヒグマの胸に顔を埋め、信じられないほどの至福の笑みを浮かべて完全に幼児退行(脳融解)していた。
この、アンチの急先鋒が一瞬でマスコットの奴隷と化した衝撃映像に、一千万人を超えて爆発し続けるリスナーたちのチャット欄は、腹筋崩壊の弾幕で完全に埋め尽くされた。
『チャック探そうとして抱きしめられてて草wwww』
『監督の目が完全に逝っちゃってるぞwwww』
『シニカルなプライドが、もふもふの引力に敗北した瞬間ww』
『主の家のヒグマ、どんだけ良い匂いするんだよ!! 嗅がせろ!!』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Hahaha! Welcome to the fluffy dimension, Director! Nobody can resist the Master’s pet!“(ハハハ! もふもふ次元へようこそ、監督! 主のペットに抗える者などいない!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Oh my God! The cynical director turned into a happy baby! That’s the power of the Sanctuary!“(なんてこと! シニカルな監督が幸せな赤ちゃんになっちゃった! これが聖域の力よ!)』
世界中の超富裕層たちが、アンチの脳がとろけていく歴史的瞬間に大喝采を送り、画面を極彩色のギフトで埋め尽くしていく。
そんな、三メートルの猛獣に抱っこされた映画監督が「あへぇ……」と恍惚の表情を浮かべているカオス空間のど真ん中で。
俺は一人、静かに折りたたみチェアに座り、おもむろに保冷バッグからいつものタッパーを取り出していた。
中身は、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートの甘辛生姜炒め』である。
「……よし。不審者の行動不能(無害化)を確認した。これより、指揮官の通常エネルギー補給を開始する」
俺は、ヒグマの胸の中で完全に魂を抜かれている黒岩監督を背景に、一切の感情を排した元・社畜の顔で、ストイックに大豆ミートを玄米の上にバウンドさせて咀嚼し始めた。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 都会からの刺客だったはずの監督さんが、ヒグマさんのハグで完全に脳を焼かれて廃人一歩手前になってる最高のタイミングで、なんで一人だけ真顔で生姜炒め食べてるんですか!?」
小春ちゃんがパニックを起こし、黒岩の部下が驚きのあまり地面に落としていった『撮影用の木製カチンコ(映画のシーンを区切る板)』をいつの間にか拾い上げ、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。強行偵察(突撃取材)を仕掛けてきた敵に対し、我が方の防衛戦力(ヒグマ)が適切な近接格闘(ホールド)を適用しただけだ。作戦が次のフェーズに移行した今、指揮官が速やかに植物性タンパク質を補給し、次なる出荷作業に備えるのは当然のロジスティクスだ」
俺は熱いほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、シニカルな映画監督がヒグマの愛の力によって改心し、蕩けているように見えているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『ヒグマに抱かれた人間が脳を焼かれてる現場で、まだ言い訳する気か!!!』
『主の限界言い訳タイム・チャック捜索編ww』
『さあ、この完全なる幼児退行をどう論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「あれは、ヒグマが人間に懐いて抱きしめているわけではありません。アニマトロニクス(着ぐるみ)の内部構造における『高圧密着固定プロトコル』が作動し、外部からの不正なアクセス(チャックの捜索)を検知したため、対象を安全に拘束しているだけです。監督が良い匂いに脳を焼かれているのも、内部の冷却システムから漏れ出た、基板防錆用の『芳香族炭化水素化合物(工業用防錆剤)』のガスを高濃度で吸引した結果、一時的な急性麻酔状態に陥っているに過ぎません。ええ、すべてはただの『機械の安全防衛プログラム』と『工業用ガスの吸引による一過性の恍惚状態』ですね」
「んなわけあるかあああ!!! はい、テイク2!!!」
パァァァァァンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていた木製のカチンコを全力で鳴らしながら、俺の背中に完璧な直撃スマッシュを見舞った。
乾いた快音が、十勝の秋の空に虚しく響き渡る。
「防錆用ガスで人間がこんな幸せそうな顔になるわけないでしょうが!! 安全防衛プログラムじゃなくて、ただアキヤさんにブラッシングされて綺麗になったヒグマさんが、嬉しくておじさんを抱っこしてるだけですよ!! 自分の家のモフモフたちの圧倒的な癒やしパワーを素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのカチンコスマッシュ炸裂www(いい音)』
『高圧密着固定プロトコル(ただの極上ベアハグ)』
『芳香族炭化水素化合物(ただの宇宙一いい匂いのお日様の香り)』
『適応力バグおじさん、ついにヒグマの抱擁を工業用ガスと防犯プログラムのせいにするww』
『言い訳が無理矢理すぎて今日も腹筋が崩壊したww』
俺の理不尽極まりないメカニカルな限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのカチンコツッコミに、一千万人を超える視聴者たちは、黒岩監督の蕩けきった表情を見ながら腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、言い訳だけはカットがかからないわね)』
シロ様が、ヒグマの頭の上で呆れたように尻尾を揺らし、心地よさそうに喉を鳴らした。
ヒグマの胸に包まれた黒岩監督は、今や「うへへ……もふもふ……」と呟きながら、都会の尖ったプライドを完全に消滅させていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。陣地の不審者が無力化され、今日も平和が維持されたなら、それが一番だ」
俺は背中のカチンコの痛みをさすりながら苦笑し、ほうじ茶を飲み干した。
聖域を暴きにきたシニカルな刺客すらも、一瞬で蕩けさせる圧倒的な癒やしの力。
最強のモフモフたちと、どんな奇跡も科学のせいにする元需品科の『限界言い訳タイム』は、一千万人の大爆笑に包まれながら、新章の日常へと力強く続いていくのだった。
コメント
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第147話、めちゃくちゃ面白かったです!笑 「チャック捜索」するためにヒグマに近づく黒岩監督の執念が悲痛で笑えたのに、まさかベアハグで一瞬にして「あへぇ…」と蕩けちゃうとは…。都会のシニカルがモフモフに完敗する瞬間、最高でした。そして、その光景を真顔で「機械の防衛プログラムです」と言い訳するお兄さんの社畜根性にも笑わせてもらいました。小春ちゃんのカ♡♡♡ツッコミも気持ち良かったです! あのヒグマの匂い、本当に嗅いでみたい…。