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あれから遅い時間に帰ってきた私を店主がとても心配していた。
申し訳ない気持ちもあるがそれ以上に心配されることに少しだけ嬉しく感じた。
ミーン…
夏休みも残り3日、私は相変わらず居候の身であるにも関わらずダラダラと過ごしていた。
涼香「それにしても暇だな〜」
現在店主は町内会の集まりで店を空けており、私が代わりに店番をしている。
涼香「あ……」
アイスを食べながらふと祖父母に渡された物を思い出した。
祭りで頭いっぱいで忘れていた。
涼香「確かこの辺りに…あった!」
鞄の奥からあの時渡された物を取り出した。
結び目を解くと中から通帳と判子それと手紙が入っていた。
通帳の中身を見た瞬間思わず咥えていたアイスの棒を落とした。
涼香「い、いい…1000万?!遺産じゃん……」
急いで手紙を開くとそこには祖父母からの謝罪の言葉が綴られていた。
最後に両親が結婚する前から貯めてきたお金を私に使って欲しい。罪滅ぼしのつもりで渡したと手紙には書いていた。
涼香「……」
手紙を読んでいるうちに必死に母を止めていた祖父母の顔が頭に浮かんだ。
私は静かに膝を抱え、うつむいたまま、涙をこぼす。
それは音もなく、ただ涼やかな風鈴の音にまぎれて消えていった。
店主「ただいま」
涼香「おかえりなさい」
店主「目赤いけどどうかしたのかい?」
店主が帰ってくるまで冷やしていたがそれでも店主にはちょっとした変化にも気付かれてしまう。
涼香「ちょっと目にゴミが入って擦りすぎちゃったんです」
店主「そうなのかい?治るといいね」
通帳のことは言わなかった。
(こんな事を言ってもただ困らせるだけかもしれないから)
その日は泣き疲れたせいか死んだように眠りについた。
障子の向こうから差し込むやわらかな光が、畳の上に斜めの模様を描いていた。
どこかで店主が米を研ぐ音。味噌の匂いが台所から微かに漂ってくる。
(お腹空いた…)
食欲に負け布団から這い出る。その姿はまるで冬眠から目覚めた熊のようだった。
私はまだ眠たげな足取りで居間へと向かった。
ちゃぶ台の上には、店主が用意してくれた朝ごはんが並んでいる。湯気の立つ味噌汁に、焼き魚、ぬか漬け、炊きたての白いごはん。どれも素朴で、でも家に居た時よりも一段と美味しく感じるのだ。
涼香「おはようございます」
店主「おはよう。あら、凄い寝癖ね(笑)もう出来てるから食べようか」
涼香「いただきます」
私は黙ってひと口ごはんを頬ばる。ふわっと口の中に広がるあたたかさに、思わず目を細めた。
ただ、それだけの朝だった。けれど、それで十分だった。
朝食を済ませいつもどおり店先で掃き掃除をしていると双葉がやって来た。
涼香「あれ?双葉どうしたの?」
何やらとても深刻そうな顔をしていることに気付き私も箒を握る手に力が入る。
店主に掃除を終わらせたことを報告し店横のベンチに腰掛ける。
涼香「何かあったの?」
ずっと服の裾を握っていた手がピクリと動いた。
双葉「実はね、最近モリピーが痩せてさらにかっこよく見えるの!」
涼香「………え?」
一瞬、脳が処理を拒んだ。深刻な家族の問題とか、誰かの秘密を聞かされる覚悟までしていたのに。
双葉「…///」
双葉が無言で照れくさそうに写真を見せる。そこには海をバックに写る2人の姿があった。
しかし、双葉の隣にいるこの爽やか青年は誰だ。
私が写真に写る彼を凝視していると双葉がポツリと呟いた。
双葉「モリピーだよ…」
涼香「ごめんもう一回言って」
双葉「モリピー」
衝撃過ぎて言葉が出ない。
(だってあの特徴的なくるくるパーマは何処へ?あのゆるキャラの様な体型も写真に写る青年は色白シックスパックじゃないか!)
双葉「衝撃的だよね。でも皆で海に行った時から頑張ってダイエット始めたらしくて本当凄いよね」
涼香「2人って付き合ってるの」
ようやく出た言葉がこれか。
双葉「夏祭りの時に告白されてそれから…///」
(成功したんだな…良かった…頑張ったなモリピー!)
涼香「他の皆には?」
双葉「まだ」
それから話を聞くうちにモリピーは双葉の隣に自信をもって立てる様痩せて背を伸ばしチャームポイントであるパーマも縮毛してサラサラにしたという。
ここまで変われるのは相当好きな相手でないと出来ない事だろう。
双葉「それでね他にも聞いて欲しくて…」
そこから10分惚気話が続いた。
うんうんっと相槌を打っていくうちに実物を見てみたくなったので明日皆で集まることにした。
双葉「明日皆に報告する。どうしよう緊張してきた」
涼香「私も皆がどんな反応するのか楽しみ」