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───ダイヤモンドノヴァ…!!
宝石のように輝く氷の礫が、まるで銀河のように美しく、そして煌びやかに宙を舞い放たれる。
「さ、オリヴィエ。次はお前の番だ。」
「は、はい!」
───アイシクルスペース!!
っと、格好良さげに言ったはいいものの…
…
自分の周りの温度が2度下がっただけなんだよなぁ。
『え?弱すぎない!?!僕って一応父さんの子だよね!?
もしかして母さん、まさか父さんとは別の…!?』
そんな現実を受け入れられない時期が僕にもありましたわ。懐かしい。
「オリヴィエ!!とにかく能力というものは日々の訓練を怠らないことでいつか必ずその真価を発揮する。初めから完璧な人間などいない。それは神様にのみ許された特権で、我々人類に努力という試練を与えて下さった神様からの寵愛でもある!」
あー、はいはい。上級階級で才能に恵まれた父さんには僕のことなんて理解できるはずないですよ。
もう生まれてから何度同じ事を聞かされたか、思い返すだけで反吐が出る。
そもそも、この世界の大人は『努力=神様が我々に与えて下さった試練』なーんて都合のいい解釈ばかりするけど、そもそも平和な世界に試練なんて与えないで欲しいものだね。
元はと言えば悪魔に負けた自分たちの失態を、都合よく僕たち人類に押し付けているだけじゃないか。
なーんて反逆思想を口に出来るはずもなく…
「すみません!父さん、次、お願いします!」
「その意気だ!来い!!」
はぁーあ、何回やったって同じだってのになぁ。
───アイシクルスペース!!!
「オリヴィエ!凄いぞ!」
す、すごい…!?まさか…ついに努力が…!!!
「ああ!これは快挙だ!今回は周囲の温度が3度も下がった!フェル様がお前の努力を見ていてくれた証拠だな!」
…
いや、父さん。
それ自分の息子に言ってて悲しくならないのか?
僕は少しでも自分に期待してしまった自分が恥ずかしくて反応に困っているよ。
それと仮にフェル様が僕の努力を認めた結果がこれなら、僕は神様を軽蔑してしまいそうだよ。
「よぉし、オリヴィエ!今日はここまでだ!明日はマイナス4度を目指して頑張ろうな!努力は確実に毎日一歩ずつ、愚直に取り組むことでいつか必ず花が咲く!以上!家に帰ってメシを食うぞ!」
「は、はあ…。」
僕の名前はオリヴィエ・クローマン。
ここ、都市ゴルゴンに住む14歳の初級能力者だ。
能力は氷雪属性の氷河一帯【アイシクルスペース】。
理論上は自分の周囲の温度を急激に低下させる事で氷河空間を作り出す能力なんだけど、初級の僕が使ってもせいぜい周りの温度が少し下がる程度にしかならない。
ま、いわゆる落ちこぼれってやつだ。
14にもなって階級が初級のままなことも勿論問題だけど、これにさらに拍車をかけているのが父さんの存在である。
父さんはゴルゴンギルド所属の上級能力者で、能力は氷雪属性の氷礫銀河【ダイヤモンドノヴァ】。
無数の氷の礫を生成して、それらを自在に操る。
それぞれの氷の礫がまるでダイヤモンドのように激しく輝き、それぞれが集るとまるで銀河のように美しく煌めくことから名付けられたらしい。
そして見た目の美しさだけに限らず、火力も範囲も汎用性も、折り紙付きの操作精度と共に爆発的な能力値を誇る。
ま、いわゆるエリート能力者ってやつだ。
そんな父さんの実の息子がこの僕…
なんというか…苦しい。
「あら、おかえりなさい。あなた、オリヴィエ。」
「セルヴィア!聞いてくれ!今日オリヴィエが────」
父さんは謎に自慢げな口調で僕との練習結果について母さんに話し始めた。
「オリヴィエ、凄いじゃない。やっぱりあなたもやれば出来る子なのよ。」
母さん、それを本気で言っているのかどうかだけ教えてください。
もし本気で言っているなら今更ながら僕は今後この家庭に合わせていける自信がありません。
ただ逆にわざと慰める為に言ってくれているとしたら…
…
それもそれで悲しいな!八方塞がりじゃないか!
「ところであなた。明日の迷宮攻略はいつものメンバーで挑む予定なの?」
「ん?ああ。普段のパーティで挑む予定だよ。それがどうかしたか?」
「いえ、普段のパーティで行くなら良いのよ。ほら、最近は即興パーティっていうのが流行り出してるでしょう?お互いをよく知らない同士で組むのって、私はあまり賛成できないのよね。」
「ははは、なるほどな。俺も何度か経験したことがあるが、案外悪いものでもないぞ?普段と違う能力者と組むことで自分の知らなかった一面を発見することにも繋がるんだ。」
「それはそうかもしれないけれど…まあとにかく、固定にしても即興にしても、迷宮が危険なことには変わりないから気をつけてね。」
どうやら父さんは明日の朝イチからギルドの指示で迷宮の攻略に出かけるらしい。
とは言っても特段珍しいことではない。
迷宮の発生は毎日どこかで必ず起きることだし、放置しておくと地上にまで被害が加わるからその前に制圧しなければならないというだけだ。
僕みたいな初級能力者だとC級すら攻略出来るか怪しいが、母さんのような中級能力者ならB級が適正クラスになるし、父さんのような上級能力者はA級の攻略に呼び出されることも少なくない。
「父さん、明日の迷宮のランクは?」
「ん?明日はB級だな。お前も来るか?オリヴィエ」
「ちょっとあなた!」
「ははは、冗談だよ笑」
いや、地味に傷つくタイプの冗談なんだよなぁ。それ。
「それと明日はもしかすると早く帰れるかもしれないから、その時はどこか外に食べにでも行くか!」
「あらあら、じゃあ明日の晩はとーっても楽しみにしておくわね!」
外食か、いつぶりだろうな。
父さんが上級に昇格してからというもの、迷宮攻略以外にもギルドから要請を受けることが多くなって必然的に家族で一緒に過ごす時間も格段に減った。
客観的に見たら確かにめでたいことだが、家族と過ごす時間が減るというのは恥ずかしながらやはり同じ家族としては少し悲しくもある。
〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜
「それじゃあ、行ってくるよ。」
「うん、気をつけてね。」
「行ってらっしゃい。」
っと、僕も学校に行く準備をしなきゃ。
確か今日は実技の講義もあるし、たまには少し肩慣らしでもしてから行こっかな?
───アイシクルスペース!!
…
うん、相変わらず少し周囲が涼しくなる程度だ。
能力名を「冷風機械【エアコンディショナー】」に変えたいくらいには情けない効果だよな…これ。
───だが…!
───アイシクルスペース…!!
…
って、かっこいい風に試してみても無理か…
まぁ、そりゃそうに決まってるんだけど…
「あ!オリヴィエじゃん!何してるの?」
「げ…っ!!サラ…!」
「なっ!なによ!その虫を見るみたいな反応は!」
「い、いやぁ…なんていうか、サラは今日も朝から元気だなあって!」
「ん。文句ある??」
拳に溜まるビリビリとした何か…。
「ななな、ないですないです!」
彼女はサラ・エルメス。
かなり付き合いの長い幼馴染であり、今のクラスメイトでもある。
彼女のハツラツとした態度には場を明るくする影響力がある一方で、こんな感じで頭を悩まされることも少なくない。
「で、何してたのよ?」
「今日ほら、実技の講義があるでしょ?だから一応肩慣らしを〜と思ってさ。」
「肩慣らし?オリヴィエが?…いやいや、ないない。」
自分で言ってて悲しくもなるが、僕への世間的評価は基本こんなもんなのだ。
「っていうかもう行かないと遅刻するよ?」
「うぇ…!?もうそんな時間…!?」
僕たちはそのまま急いで学校へと向かった。