「髪被喪?聞いたことないな」
「まあ、わかんなくて当然だと思うよ。ともかく、箱を探さ___」
ないと、と言い切る前に私は全身の動きを一時停止した。バスティンも何か感じたのか、私を素早く背に庇い、周りを警戒している。私は辺りに貼り巡らされている気配を辿り、この事件の元凶である髪被喪の場所を特定した。気配が今も動いているという事は、恐らく動物が髪被喪をつけたのだろう。
『私、死んでいるはずなのに寒気がするわ。ほら見て、鳥肌』
「…幽霊って鳥肌になるのか?」
『なるみたい』
「わあ新発見、じゃないのよ。この気配、封印が解かれたっぽい、場所わかるからついてきて!」
「わかった」
どうやら主の方で何かトラブルが起こった模様。木の上から女を観察していたが、先程より攻撃が強くなっておる。恐らく箱の封印を解かれた事によって力が増したのであろう。私とあの猫の結界があればわざわざ退治する必要もないと思っておったが……どうやら少し遊んでやる必要があるらしい
《本当ならばもっと強固な結界を貼れば良いのだが…それは主の体に触る。早くあの女をなんとかせねばならんな》
《おい猫。早うあやつを結界から遠ざけねば破られるぞ。なにをモタモタとしておる》
《お前に言われずともわかっている。そんなに焦らずとも、弱い結界だとはいえ我が貼った結界だぞ。そうそうあの結界を壊せるわけなかろう》
《私も貼ったわ!何手柄を自分一人のものにしようとしている》
《ふん、いちいち細かな事を。そもそも主は我1人を呼ばれていた》
《あ?あの女よりもまず貴様を殺してくれようか》
《そんな無駄な事をしている暇はない。あの女を放っておく理由は無いし、さっさと祓うぞ》
無駄というのなら先程のやり取り全て無駄だ。サッサと下へ降りていった白虎にチッ、と舌打ちをする。この鬱憤を発散させるべく私も下へ降り、女の後ろへ立つ。
《そこの女。遊び相手が欲しいのならこの私が相手になってやろう。どこからでもかかってくると良い》
《悪趣味な。一気に終わらせればいい物を…弱き者をいたぶって何が楽しい。ここはお前1人で大丈夫だろう、我は主の助太刀をして参る》
《なっ、そうはさせんぞ!それならお主がこいつの相手をしてやれば良い!!》
《この屋敷にいる者達は主の大切な存在だ。そいつらを守ったのなら褒められるに違いないぞ》
《何をしているサッサと主の所へ行かんか》
《……そうさせてもらう》
なんだ、彼奴もたまにはいい事をするではないか。死んでも口にはせんが。そんな事を片手間に考えながら私は目の前にいる女を見やる。目玉というのがないのであろう、真っ黒な暗闇が私を見つめ返す。
本来霊というのは自分の感情に正直だ。それが恨み辛みで作り上げられる怨霊は誰彼構わず殺しにかかる。あのに、此奴は動こうとしない。理由は簡単だ。目の前にいるのは格上だと、本能で察しているのだろう。もし万が一が起こったとしても私が此奴に負ける訳が無い。これは自信でも慢心でもない、揺るがない事実。それ故に、此奴は動けない。だがこのままではつまらんな。
《なんだ、攻撃してこんのか?そちらが来ないのならばこちらから行けばいいのみ。ほれ、これなら嫌でも動くだろう?》
『ゥアアアアゥウイアアア゙アアア゙ア゙!!!!!!』
閉じたままの扇子を横に振り、妖力を使って無数の斬撃を繰り出す。霊力は操れはするが、式神の私は主の霊力を借りなければ霊力を使えない。ので、私達は基本妖力を使用する。妖力とは自らが持つものである為、主の霊力を使わずとも戦えるのだ。
《貴様が弱過ぎると主にあまり褒めて貰えなくなるだろう。惨めに足掻いてみよ》
「こっち!!動物はもう髪被喪に侵食されてる、襲ってくるだろうから構えておいて!!!」
「了解した」
「ヤバくなったら私がカバーするから、バスティンは動物の首を切り落として!できる?」
「ああ、できる」
「ひゅうかっこい!!じゃあ一応マキもついでに守ってあげて!」
「わかった。マキ、俺の後ろにいろ」
『あら、かっこいい騎士様ね。ポッ』
頬があったであろう所にに手を当てて言う。そうそう、バスティンはかっこい……おい待て今自分でポッて言った???
まぁそれはおいておくとして、本格的に髪被喪の破壊に臨む。予め持ってきていた御札を懐から出すと、木々の間から気配した。視線をずらしてそちらを見れば、そこには耳に三角形を切り取ったような傷を負った、グルルと低く唸りながら涎を垂らしている野犬がいた。
「バスティン、あの犬の首を切り落として。早くあれから解放させてあげないと」
「わかった」
バスティンがこくりと頷き、己の武器を構えた。大剣を持っているとは思えない程のスピードで距離を一気に詰め、野犬が反撃する隙すら与えずにスパンと一線を描きその首を切断した、次の瞬間。切断面から血が絡みついた黒い髪がバスティン目掛け飛び出した。
「ハァッ!」
「バスティンにそんなしょぼい攻撃が当たる訳ないでしょ!まぁ、無機物には、わかんないかなぁっ!!!!」
バスティンは持ち前の反射神経でその攻撃を難無く躱し、伸びてきた髪を素早く切り落とした。私はその隙に髪被喪本体目掛けて御札を貼り、霊力を込めた金槌を叩きつけた。亀裂が入った所から外に瘴気や怨念が流れ出すが、御札がそれらを瞬時に浄化する。これでこの事件は終わりだ。
「はい、一件落着。さーて早く帰ろ」
『あら、随分あっさりね』
「まぁ普通こんなもんよ。というか、今回の髪被喪は結構怨念が強かったな……あの御札貼らなかったら壊した時ここら辺瘴気まみれになって怪異化するとこだったよ。一応強いの持ってきておいてよかった」
「ふむ…見たところ怪我はないみたいだな。良かった」
「バスティンもありがと!助かったよ」
『それにしても…何故かあの犬を見ていると親近感が湧くのよね。何故かしら』
「それは……多分首から上がないからではないか?」
『あ、それね』
「いや首から髪が出てる犬を見た感想がそれかよ……」
野犬に土をかぶせ、その上に木の枝を刺して埋葬し、手を合わせる。私はこの犬が来世はいい所で飼われる事を祈りながらこの場を去った。
きゃんきゃん、と元気に吠え飼い主の回りをくるくると嬉しそうに回る子犬がいた。
「ねぇパパ、このわんちゃんおみみ、おけがしてるよ?いたいいたい?」
「このわんちゃんはね、産まれた時からこのお耳のの形だから痛くないんだよ」
「そうなんだ!よかったねぇ」
その声に答えるように、耳に三角形を切り取ったような耳の形をした子犬はわん!と吠えた。
おまけ:だいたいいつも喧嘩する2人
白狐《お主、主の助太刀に参ったのではなかったのか?》
白虎《そのつもりだったが、それよりも先に主が終わらせていた》
白狐《役ただず》
白虎《……我の足元にも及ばない雑魚しか相手にしてなかった者がよく言えたな。あの雑魚相手にあんだけ時間を使ったお前の方が役ただずだ》
白狐《ほう?今回ろくに退治もせず主の助太刀にも行けなかった奴がよくほざくものよな。貴様が今回やった事と言えば私と共に結界を貼ったくらいだろうに》
白虎《主が我を呼んだのにも関わらずお前が出しゃばってきたからであろう。貴様なぞ居なくても我一人で出来ていた》
白狐《……………》
白虎《……………》
七鬼「いい加減そこらへんで喧嘩やめないとこれから2人とも喚ばないよ」
白狐《嫌ですね、喧嘩なぞしておりませんよ♡》
白虎《そも、この狐に興味ありませんので喧嘩するも何もないですぞ》
白狐《あ???????》
七鬼「ダメだこりゃ」
コメント
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ずっと見たかったので、ついに見ました!めっちゃ私の好きな世界観?です!続き出るか分かりませんけど、楽しみに待ってます!
やーっと見れた!1週間にテスト2回あるとか正気じゃないわ! いやもう白虎と白狐の絡みが最高すぎるわぁ、ワンちゃんいい人に飼われてる来世の描写があって「良かったね。」って思った!結論!今回も神!
主様がもうほんと最ッ高にかっこ良くて惚れます(?) 今回も面白かったです!!