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レイブとヴノの和やかな会話を微笑ましそうに見つめていたバストロに嫁フランチェスカが声を掛ける。
「懐かしいわねバッソ」
「ああ、そうだな」
ゆるりとした笑顔を浮かべるバストロを右手からじっと見つめるフランチェスカ。
五年間別居だったとは言え、嫌い合っている訳では無いらしい。
寧(むし)ろ、見えない右側に彼女を座らせている事から類推すれば、全幅の信頼を置いている事が窺(うかが)い知れる。
夫婦って色々だからね、他所(よそ)の者には判らない関係性が有るんだよね。
うっとりと旦那の横顔を見ていたフランチェスカがうっかり口から垂れた涎(よだれ)に気が付くと、はっと我に返った態(てい)で言葉を続ける。
「じゅるっ! そ、そう言えばあの頃アナタが教えてくれた秘密基地、あったわよね? アタシにだけ教えてくれるって言ってよく二人で行ったじゃない? ほら、ここから程近いアカシアの巨木に出来た室(むろ)の中、懐かしいわねぇ、あれまだあそこにあるのかしら?」
バストロは口に含みかけていた果実水を盛大に噴出した直後、ヴノと笑顔で談笑を続けていたレイブにやや厳し目の声で告げる。
「おいっ! レイブっ! えっとぉ、ま、薪が少し足りない様だぞっ! 二人で取りに行こう! ほらほら、早くしろよっ!」
「えっ? 薪だったらさっき取ってきたばかりじゃ――――」
「良いから行くぞっ! さっさとぉっ!」
「う、うん…… ?」
首を傾げながらも腰を上げたレイブの肩を抱いたバストロは、足早に鍾乳窟の外へと向かったのである。
まだ入り口付近だったにも拘らず腰を屈めてレイブの耳に自分の口を寄せ、慌しい口調で言ったのである。
「れ、レイブ、さっきの指示は無しっ! 森の室はセスカが覚えて居やがったからな! えーとっ…… そうだっ! お前達は滝壺の隠れ家に向かえ! あそこだったら知ってるヤツは皆無だからな! いいな、滝壺の裏の洞窟だぞ? 判ったか?」
「あ、うん、滝壺の穴だよね、判ったよ」
「良しっ!」
なるほどね、誰にも知られていないと思い隠れているように指示した森の室は、バストロがうっかりフランチェスカに教えてしまっていたらしい。
それで慌てて別の隠れ場所、誰にも教えていなかった滝壺の洞窟に指示を変更した、そう言う事だろう。
いいな? いいよ! 判ったな? 判ったってばっ! そんな小声を交し合いながら、一応言い訳がましく数本の木の枝を拾い集めた二人は、頷き会った後意気揚々と鍾乳窟の最奥に位置する広間、所謂(いわゆる)リビング的な場所に戻って来たのだが……
居間の中から明るいペトラの声が聞こえてきた。
『ええぇー、誰も知らない滝壺の裏に有った洞窟でプロポーズぅ? 何かロマンチックで素敵じゃないですかぁー?』
答えるフランチェスカの声も少しだけテンションが強めに掛かっているようだ。
「まあねぇ~、アタシがガイランゲルとザンザスを連れて独り立ちする為に旅立つ二日前、本当にギリギリだったんだけどさぁ~、夕食前に無理やり連れ出されてねぇ~、あの洞窟の中でさ、アイツ跪(ひざまづ)いてね、『け、結婚してくれ、セスカぁ!』ってねぇ、だから思い出の場所でねぇ、今でもちょいちょい寄ってみたりしちゃうんだぁ♪ えへへぇ♪」
『ろ、ロマンスチックぅ~』