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渋谷の街が夕陽に照らされる頃、街の散策を終えた私たちは、最後に映えスポットの一つの言われる有名なオープンカフェに来ていた。 街並みが眺められるのが売りなテラス席に案内され、オシャレな木目テーブルと椅子に、みんなのスマホから放たれるシャッター音が鳴り止まない。
ようやく座れて注文し、ローファーで痛くなったかかとを撫でていると、三人は円テーブルの片側に寄ってスマホを操作し、今日撮影した写真をメッセージアプリのグループアルバムに貼り付けていく。
「どれがいっかなぁ?」
「あっ、これとか?」
「これぇ、最っ高に映えるじゃん!」
テンションの高いやり取りに、テラス席からの景色を楽しんでいる場合じゃないと、私もスマホに視線を下ろし操作していく。
なんとか話に入ろうと一から写真を見るけど、それらは全て同じ背景とポーズばかりで、間違い探しを連想してしまった。
そうしている間に友達三人は写真に目星を付けたのか、押し黙り無表情でスマホを触り続けていて、聞こえてくるのは軽快なBGMと隣の女子高生と思われる三人の笑い声と手を叩く音。
盛り上がってるなぁ。
「あ、のさ。こないだの中間テスト、ボロボロでさぁ。数学の公式覚え間違えちゃって、全滅~みたいなぁ」
ハハッと笑いながら髪をクシャクシャとさせて、あえてピエロを演じてみる。
「あ、分かる~」とか「バカだなぁ~」とか、軽く返してくれるのを期待して。
だけど三人は聞こえていないのか、興味ないのか、私の話に眉一つ動かさずスマホをタップする音のみが返ってきた。
「ねえ、聞いてる?」なんて言えるはずもなく、また小さくハハッと乾いた笑い声を出し、乾いた口元に冷水を流し込む。
ザワザワとした気持ちも一緒に。
「お待たせしました」
「あ、きたぁ!」
なんだ、聞こえてるじゃん。
そう言いたい気持ちを噛み砕いた氷と共に飲み込み、何とも言えない空気を払拭してくれた若い女性店員さんに小さく会釈する。
目の前には細長いグラスに、トロピカルアイス、生クリーム、色とりどりのフルーツが盛り合わせて彩られたタワーパフェと呼ばれる夏を先取りしたメニューが置かれていて、トロピカルな香りにスイーツが大好きな私は目はキラリと輝いた。
本当はスプーンを持って、今すぐに頬張りたい。
だけど、持つのはスマホだった。
「すごぉ! マジで映えるぅ~!」
そう言い、また撮影会が始まる。
角度を変え、光を入れ、スマホの設定を変えてパシャパシャと撮っていくけど、どう撮っても美味しそうなものには変わりなく、それより暑さも相まってせっかくのアイスがデロデロに溶けていく。
「そろそろ食べない?」
空気を壊さないようにやんわりと、だけどそれが災いしているのかその声は届いてなく、写真を撮り続ける三人。
一人だけ先に食べたら? と思われそうだけど、そうはいかない。四つ並べた写真も撮りたいそうで、それをジャマすることはできないから……。
「これ、100いいねとか狙えるんじゃな~い」
キャハハハと笑い声が響き、ようやくパフェに向けられたスマホカメラが離れたけど、アイスは半分以上溶けていて生クリームとフルーツに混ざり込んでいた。
なのに三人は慌てることもなく急に黙り込んだかと思えばスマホにのみ視線を向けていて、先ほどまで向けていたパフェへの魅力は完全になくなってしまったようだった。
……またか。
私は手前にあったパフェを引き寄せ、ベチャベチになり美味しさが半減したアイスなのか生クリームなのかよく分からないものを口に入れ、ネチャとしたものを飲み込みながら、心で溜息を吐く。
三人はSNS映えだけ考え、注文したものを食べない。
そうゆう人が一定数居て、社会問題となっているというネット記事を中学の頃に見たことがあったけど、本当に目の当たりにするとは思わなかった。
「さ、帰るよ」
「あ……、うん」
莉乃の醒めた声に顔を上げるとどこか顔が引き攣っていて、パフェはグラスの半分ほど残っていたけど、まだ食べたいなんて言えるはずもなく、最後に大きな塊を口に入れて席を立つ。
完全に溶けて見る影もなくなった、何と呼べば良いか分からない物たちを後にして。
オシャレなカフェに、美味しそうなパフェ、街を見渡せる絶景に、心地よい風。
キラキラと輝いているはずなのに、私には全てが霞んで見えた。