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ゆゆゆゆ
#Paycheck
ゆゆゆゆ
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さっきまでの“駆け引き”が、
もう形を保っていない。
マフィオソの視線が、完全に変わっている。
理性じゃない。
もっと直接的な――欲。
「……逃げるな」
低く、押さえるような声。
チャンスは笑う。
「逃げてねえだろ」
その一言で、
最後のブレーキが外れる。
マフィオソが、一気に距離を詰める。
掴む。
今度は手首じゃない。
肩。
そのまま引き寄せる。
完全に、密着する距離。
「……お前は」
言葉が続かない。
代わりに、
触れる距離がすべてになる。
さっきのキスの“続き”を求めるみたいに、
迷いなく踏み込む。
チャンスも、避けない。
むしろ、ほんの少しだけ応じる。
それが、さらに火をつける。
「……だから、やめとけって言ったんだよ」
かすれた声。
だが、もう遅い。
マフィオソは止まらない。
距離も、呼吸も、全部詰める。
完全に“捕まえにいく”動き。
――なのに。
ふと、
力が抜ける。
「……?」
マフィオソの動きが、止まる。
腕の中の重さが、
さっきと違う。
ぐらり、と。
チャンスの体が、完全に預けられる。
「おい」
反応がない。
顔を覗き込む。
目が、閉じている。
呼吸はある。
ただ――
完全に、落ちている。
「……は?」
間の抜けた声が漏れる。
さっきまで、
あれだけ張り詰めていた空気が、
一瞬で崩壊する。
「おい」
軽く揺らす。
反応なし。
「……寝ているのか」
信じられない、という顔。
この状況で。
この距離で。
この流れで。
――寝る?
マフィオソの思考が、
完全に止まる。
数秒。
静寂。
やがて、
「……ふざけるな」
低く、呟く。
だがその声に、
怒りはあまりない。
困惑と、
ほんのわずかな――
“抜けた何か”。
腕の中の体は、完全に無防備だ。
さっきまであれだけ
食らいついてきていた男が、
今は何も返してこない。
「……」
マフィオソは、しばらく動かない。
このまま、どうするか。
選択肢はある。
離すことも、
そのまま続けることも、
――好きにできる。
だが。
「……つまらん」
ぽつりと、落とす。
違う。
これは、求めていたものじゃない。
反応。
抵抗。
揺らぎ。
それがあって初めて、
成立する。
マフィオソは、ゆっくりと力を抜く。
だが、完全には離さない。
支えるように、
そのまま体を預けさせる。
「……勝手に落ちるな」
小さく、呟く。
返事はない。
当然だ。
それでも、
視線は外せない。
無防備な顔。
さっきまでとは、まるで別人。
「……お前は」
低く、呟く。
「どこまで、崩すつもりだ」
答えはない。
だが――
確実に、何かが深く入り込んでいる。
賞品なんて、もうどうでもいい。
勝敗すら、意味を持たない。
ただ一つ。
「……次は、最後まで付き合え」
それだけが、
残っていた。
静かなバーに、
二人分の呼吸だけが残る。
ゲームは終わったはずなのに、
まだ、終わっていない。
—-_END?