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第27話 鋼鉄のキッチン奮闘記!
サテライトキャノンが放たれた後の砂漠は、勝利の証であると同時に、ゼストの乗組員たちに拭い去れない「恐怖」を植え付けていた。あの光の柱を見た後では、これまで頼もしく思えていたガンダムの白い装甲が、死神の鎌のように見えてしまうのも無理はなかった。艦内を流れるどこか重苦しい空気を察してか、艦長が下した命令は意外なものだった。哨戒任務をカイルとジュードに任せ、ゼロとミラ、そしてセレスの三人に「夕食の炊き出し当番」を命じたのだ。
「……はあ!? なんで俺が包丁なんて握らなきゃいけないんだよ! オッサン、人使いが荒すぎるだろ!」
赤いジャケットを脱ぎ捨て、不格好なエプロンを首にかけたゼロが、厨房で吠えていた。目の前には山のように積まれたジャガイモと、戦艦の厨房らしい巨大な鍋。隣では、ミラが同じようにエプロン姿で、ジャガイモをじっと見つめていた。
「……ゼロ、これ、どうすればいいの……?」
「皮を剥くんだよ、皮を! じっと見てても勝手に剥けたりしねえぞ」
「……わかったわ。……観測……開始」
ミラはまるで精密機器を扱うような手つきでピーラーを握ると、ミリ単位の精度でジャガイモの皮を削り始めた。その動きはあまりに慎重すぎて、一個剥き終わるのに日が暮れてしまいそうだった。
「遅いんだよ! もっとこう、ガバッと……ああっ、クソッ、指切りそうになった!」
ガンダムの操縦桿ならミリ単位の回避をこなすゼロだったが、慣れない小刀に四苦八苦し、ジャガイモは見る見るうちに多角形へと削られていく。
そこへ、業を煮やした様子で現れたのがセレスだった。
「ちょっとあんたたち、何やってんのよ! 敵を殲滅するより先に、食材を全滅させる気!?」
セレスは呆れたように腰に手を当てると、ゼロから包丁を奪い取った。
「どきなさい、素人は。ミラ、あんたもそんなに丁寧じゃなくていいの。皮なんて剥ければいいんだから」
そう言うなり、セレスは目にも止らぬ速さでジャガイモを刻み始めた。トントントン、と軽快なリズムが厨房に響く。
「……すげえな、セレス。あんた、そんな特技があったのかよ」
「当然でしょ。故郷じゃ、弟や妹たちの分を毎日作ってたんだから。あんたみたいに、拾い食いばっかりしてたヴァルチャーとは年季が違うのよ」
少し誇らしげに胸を張るセレスの姿は、いつもの刺々しいパイロットの顔ではなく、年相応の少女、あるいは「姉」の顔をしていた。その姿を見て、ミラが小さく微笑んだ。
「……セレス、すごい。……温かい音がする」
「ふん、あんたに褒められても嬉しくないわよ。ほら、ゼロ! 突っ立ってないで鍋のアクを取りなさい!」
「へいへい、分かりましたよ、女房殿」
「だ、誰が女房よ! 叩き斬るわよ!」
そんな喧騒の中に、哨戒から戻ったカイルとジュードが顔を出した。
「お、いい匂いがするねぇ。新入りの手料理かと思ったら、セレスが仕切ってるのか。道理で毒の匂いがしないわけだ」
ジュードの軽口に、ゼロがお玉を振り回して応戦する。
「うるせえ! 食いたくねえなら俺が全部食ってやるよ!」
「まあまあ。……しかし、いいものだな。こうしてガンダムの呪いも、過去の実験も忘れて、ただの飯の心配をするというのは」
カイルが眼鏡の奥の目を細めて、静かに呟いた。サテライトキャノンへの恐怖も、未来への不安も、煮込み料理から上がる湯気が少しずつ溶かしていく。
出来上がったのは、ゼストの乏しい備蓄を工夫して作った特製の大鍋シチューだった。
食堂に集まった乗組員たちは、最初こそゼロやミラを遠巻きに見ていたが、セレスとミラが並んで配膳する姿を見て、少しずつ表情を緩ませていった。
「……美味しい」
ミラが、自分で切った(形の悪い)ジャガイモを口に運び、ぽつりと呟いた。
「だろう? 隠し味に俺がスパイスを入れたからな」
「あんたが勝手に入れたのは、ただの塩コショウでしょ! 余計なことしないでって言ったじゃない!」
セレスの怒声と、ゼロの笑い声。そして、それを見守る艦長の静かな微笑み。
ゼストという鋼鉄のゆりかごの中で、彼らは一時だけ、兵器であることをやめて「家族」になっていた。
食事の後、ゼロは一人で格納庫へ向かった。
月光が差し込むハッチの側で、プロト・ウイングエックスが静かに佇んでいる。
「……おい、相棒。今日の飯は美味かったぜ。てめぇにも食わせてやりたかったけどな」
機体の脚部に寄りかかり、ゼロは夜空を見上げた。
艦長が話したミラの過去――道具として扱われてきた彼女の痛みを思うと、胸が締め付けられる。自分たちが振るうこの力が、いつか彼女を本当の自由へ連れていけるのか。それとも、さらに深い闇へと突き落とすのか。
「……俺が壊したのは、敵だけじゃなかったのかよ……」
昼間のクレーターを思い出し、ゼロは呟いた。守るための力が、誰かの恐怖に変わる。その矛盾を抱えながら、それでも彼はこの機体を降りるつもりはなかった。
その時、背後から足音がした。
「……ゼロ」
ミラだった。彼女は手にした毛布を、ゼロの肩にそっと掛けた。
「……風が、冷たいから」
「……ああ。ありがとな、ミラ。……お前、明日の当番もやるか?」
「……ええ。……ジャガイモ、次はもっと早く剥けるように、練習するわ」
ふたりは並んで、遠い月を見上げた。
その穏やかな空気の中に、目覚めた「漆黒の髪の少女・ノア」の不気味な気配は、まだ届いていなかった。しかし、ルカスの狂気は着実に、このささやかな平穏を飲み込もうと動き出している。
それでも、今この瞬間のシチューの温かさだけは、何者にも奪えない真実として、彼らの心に刻まれていた。
**次回予告**
ルカス軍の追撃を振り切るべく、岩礁の影へと姿を消したゼスト。
エンジンの鼓動を止め、二日間の偽装潜伏という静寂が艦を包む。
だが、その闇を裂くように、ミラの脳裏に刺さる未知の感応波。
「……誰? 私を……呼んでいるの……?」
鏡の向こう側から迫る、黒い少女の影と深紅の瞳。
次回、『深淵からの呼び声』
「隠れてたって無駄だ。……俺たちが、闇の中から引きずり出してやるよ!!」