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工業区の会長の館、その会議室でも話し合いがされていた。
それはまだ、日が暮れてすぐの薄明の頃。
完全な夜が来るまでの、数十分程度は明かりが残る。
二人はその光を受けながら、明日に控える模擬戦の様子を思い描いている。
「レモンド。本当にあれを使う気か」
「当然だウレイン。試験運用にゃ丁度いい。そう言っとるだろうに」
「しかし……あまり奥の手を見せるのはなぁ……」
ウレインは、レモンドに不安を見せていた。
すでに何度も同じ事を話し、同じ結論を出しているにもかかわらず。
「大丈夫だぁね。実弾はゴムに変更したし、レーザー兵器の出力はまぁ、指に当たるとあぶねぇかもだが最小にしてあるで」
「他のマズいものは使ってくれるなよ、本当に」
「核融合炉は街で使ってんだし、飛空装置も車で見せてる、マズいもんなんてねぇよ」
「あの実験のものは? 後になって取り付けていただろう」
「ありゃあ保険だ。もしも本体に傷が付いたら、目も当てらんねぇ。んでも、自動発動だし模擬戦レベルの火力じゃ、発動なんてせんせん」
「しかしな……第一王子はろくなことを考えん人だからな……」
考えや作戦に抜け落ちがないだろうかと、ウレインはとことんまで思案する男だった。
専門外であるからこそ、レモンドの気楽さが仇になるのではと、そう考えている。
「だけんど、軍に出回ってる兵器の火力じゃ、ビクともせんのだから。杞憂だ、ウレイン」
「転生者対策は、本当にしてあるんだろうな」
「んなの当然だぁねウレイン。あの勇者と賢者のレベルでねぇと、あれは発動せんだろうから」
「不参加か?」
「その様子だよ。よっぽど前のがこたえたんだろなぁ」
聖女に挑み、卑怯な手を使った上で全力を尽くしてなお、敗北した勇者達。
彼らは、命尽きる所に情けをかけられた事で、さすがに恩を感じたらしい。
「ふむ……」
「なんにしても、あれの装甲は破れねぇってば」
「しかし魔王はどうだ。彼の力は未知数じゃないか」
「んまぁ……。んでもよ、開幕に斉射しといたら、いっくら魔族達や魔王が凄いっても、たまらんだろうし。怯んだところでもっかい斉射すれば、降参すんでねぇか?」
二人があれと呼ぶ物は相当に堅固なようで、そして斉射というからには、それなりの数を用意しているのだろう。
魔王の力を見た事がないとはいえ、二人は文献などから推察はしている。
その上で、大丈夫とレモンドは言う。
そして二人共が、防御に関して魔族は、聖女無しでは並みの生物と同じだろうと踏んでいた。
「まぁ……それはそうだろうが……」
「んだね。どっちが早く降参すっかってぇ、そういう勝負になんだろうから」
**
そして魔王城では、聖女が魔王の考えに不満を漏らしていた。
二人の話し合いはいつも、寝室のベッドの上と決まっている。
そう決めたわけではなかったが、いつからかその縁に腰かけ、横になるまでの少しの時間がそのようになっていた。
「魔王さま。ほんとにお一人で参加するんですか?」
「他に居ても居なくても、変わらんからな」
「それはそうでしょうけど、何か、心配です」
「何が心配だ?」
魔王は、この話は何度もしただろうと、愛する聖女にさえ冷ややかな目を向けた。
「お怪我をされないか、とか」
またそれか。と、魔王は辟易とした態度を取る。
しかし、以前ならそれで怯んだ聖女も、今ではそれさえ、愛おしいと感じるようになっていた。
つまりは少々熱があるという事で、それは魔王にとって、面倒この上なかった。
彼も彼女を愛するがゆえ、無碍には出来ないからだった。
「するはずがない。それに、一瞬で治るんだから大丈夫だ。何度も言っているだろう」
「あの王子が、絶対何か企んでますよ。模擬戦に紛れて、ぜったい直接、攻撃してくると思います」
「だとしても、人間の力では俺に傷ひとつ負わせられんぞ」
「う~ん……女神の封印を施した物が、実はまだ残ってるとか」
それを言われると、魔王は弱かった。
一度は女神の封印にしてやられた身では、強くは出られない。
「あれか……だがまぁ、あれの発動から完全に作動するまで時間がかかるからな。その時はお前が助けてくれ。そこは頼りにしているぞ、サラ」
「えっ……はいっ! お任せください魔王さま。私、魔王さまをお護りしますっ!」
ここで不意に、聖女は何を喜んだのか、魔王への態度を変えた。
不安をぶつける様子が消え、嬉々としてお支えするのだと、目を輝かせている。
「ハハハ。ああ、それに今からも、お前の頑張りを見せてもらおうか」
「ふぇ? きょ、今日もなさるんですか? 明日に備えて早く寝たりは……」
「冗談だろ?」
この雰囲気になると、聖女は途端に大人しくなる。
従順で、素直で、魔王のすることを全て受け入れるという、深い愛を示す女になる。