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(――予想外。彼がここにいるのも、彼らがこうしてここで出会うのも何もかも)
ラヴァインと、グランツが本格的に絡み始めたのは、災厄の後だった気がする。といっても、途中から、アルベドが、ラヴァインに成り代わって行動していたわけだけど、彼らが理解し合い、共闘し合うのはもっと先だ。そもそも、出会って、相手の記憶にすら残っているか分からないのが、“本編”までの二人の関係だった気がする。
(物語が変わり始めてるのはいうまでもないけれど……)
もし、今後も、このような改変があったらどうなるのか。それらを、エトワール・ヴィアラッテアは対処しているのか、何もかも非常に気になるところではあったけれど、私が把握できるような問題じゃないと考えることを諦めた。さっきも思ったけど、わっては入れるほどこの二人を飼い慣らせていない。
自分より年下ということしか、分からないし、いや結構な時間関わってきた仲ではあるけれど、それでもあわなさそうであいそうな二人を一変に対処できるほど、私は出来た人間じゃなかった。これは、最悪の出会いといっても良いんじゃないかと思うほどに……
「まあ、とどめはアンタが刺したかも知れないね。でも、一人で倒したわけじゃないのに、手柄を独り占めって趣味が悪いよ。アンタ」
「とどめを刺したのが俺だってのは分かるんですね」
「分かるに決まってんじゃん。こんな綺麗に切り刻むことができるのは、騎士ぐらいでしょ。それも、普通の騎士じゃない。かなり鍛錬つんでるか、相当の天才。アンタは隠してるだろうけどさ、かすかに感じる魔力もそうだけど……」
「……っ」
「てか、思い出した。アンタのこと……あーなるほど、ステラに隠したいわけがよく分かる」
そうラヴァインがいうと、グランツはふとこちらを振向いた。自分の秘密について知られたくなくて、動揺しているんだろうけれど、申し訳ないことに、それら全て知っているわけで、逆に、こっちが気を遣っていることに彼は気づいていないだろう。
それでも動揺して揺れる翡翠の瞳を見ていると、可哀相で可愛く見えてきて、笑いを堪えるのが必死だった。彼が抱えている秘密というのは、こっちも抱えきれないほどのものだから、笑ってはいけないんだろうけど、分かっている側と、分かっていないと思って隠している側ってこんな感じなんだろうなと思ってしまう。
(まあ、ラヴァインは気づくだろうね……グランツが、滅亡した王国の第二王子で、ユニーク魔法を持っているってことに)
ラヴァインが気付かないはずがない。というか、グランツは、私に対して早々ユニーク魔法を持っていることを打ち明けた。なのに、何故今回の世界では、それを打ち明けてくれないのだろうか。エトワール・ヴィアラッテアに止められているからなのだろうか。それとも、他に理由が……?
(いや、それしか考えられないんだけど。じゃなきゃ、普通に教えてるんじゃない?)
魔法を切ることができる魔法を使えるグランツは、魔道士の天敵だ。教えた方が、抑止力にもなるだろうし、暴露しておいた方がいいのではないかと。ラヴァインや、アルベド、リースなんかのユニーク魔法は、多分切り札的な存在だから、いってしまうと、手の内を明かすようなもので、使いにくくなるものなのではないかと。でも、グランツのは違う、普段使い出来る奴だろうし、何より――
「ぐ、グランツってユニーク魔法使えるの?」
「……っ、とそれは」
「教えても良いんじゃない?てか、どうせバレるでしょ。ステラ、聖女に匹敵するほどの魔力あると思うし、魔力探知でアンタからかすかに匂う魔力も感じ取れるんじゃない?」
「ステラが、聖女に匹敵するほどの魔力?」
グランツは私の方を再度振り返り、信じられないものを見るような目で見つめてきた。ラヴァインもまた、余計なことをいう、と唇を噛みつつ、私は首を横に振る。しかし、ラヴァインがいったことの方が、何故か信じられてしまい、グランツは「ステラは、何者なんですか?」と私にたいしてなのか、ラヴァインにたいしてなのかよくわからない質問を投げてくる。
これは、私が答えなければならないことなのか、それとも、ラヴァインが勝手に考察して答えるのか。どっちにしろ、グランツは、ずっと前から私の存在について疑わしく思っていたので、追求したい気持ちで一杯なのだろう。
「ありえない……いや、でも、フィーバス卿に認めて貰えるほどの実力者であれば、当然とも……」
「俺も、気になってはいたんだよね。ステラの正体」
どうやら、ラヴァインは、私の正体までは気づいていないようで、というか、記憶が封じ込められているのだから、当然といえば当然であり、彼が私が普通ではないこと以外は何も知らないのだろう。それは、好都合なのか、不都合なのか。
ともかく、この二人に疑われ、探られるという状況は、居心地が悪く、今すぐにこの場を逃げ出したい気分だった。でもそうすると、また話が拗れてしまう気がするので、魔物が倒されたことを確認しにきた、ラヴァインだけでもどうにか対処しようと思った。
「それで、あ、アンタは何しにきたのよ。魔物が倒されたって、ヘウンデウン教の仕事?」
「うーん、まあ、そんなところ。それで、よく知った魔力を感じたから。それが、ステラだったわけだけど」
「なんでこの村が、魔物に狙われたの?」
私は、一番疑問に思っていたことをぶつけた。何故この村が狙われなければならなかったのか。そして、何故この村が狙われるに至ったのか。彼が、ヘウンデウン教の幹部であるなら、ここに来たというのなら、その理由が、何かしら分かるのではないかと思った。しかし、ラヴァインはうーんと、首を傾げるばかりで、答えをいおうとしなかった。いや、ろくでもない答えが返ってくると分かっていたから、私は、あえて、言及しない方がいいと思った。どうせ、いうだろうから、最悪の状況で。
グランツも、ラヴァインに視線を向け、早く言えといわんばかりに目を細める。握っている手にも大分力が入っているようで、柄のところが、ギチギチと肉がすり潰れるような音がしていた。また痕になりそう、と思いながら、私は焦らすラヴァインを見る。彼の鮮やかな紅蓮では無いものの、ラヴァインを見ていると、すぐに彼が頭に浮かんでくるのはもはや病気だろうと思った。いや、単純に兄弟だから似ているというのは全くその通りであり、それ以上理由は必要ないのだが、理解して悪行を行っているアルベドと、理解しつつも無邪気に悪行を行っているラヴァインとでは、差が生れてしまうもので、そこもあって、彼とアルベドがすぐに仲直りできない理由でもあるのだろう。まあ、もっと、その理由は根本的なものにあるんだけど。
「ヘウンデウン教の幹部なのに、もしかして知らないの?それとも、この魔物の実験には手を貸してないから、教えて貰っていないとか?」
「いうねえ、ステラ……煽ってるつもりなんだろうけど、そんな挑発に」
「なら、答えて。私も、この村に愛着があったの。なのに、こんなめちゃくちゃにされて、黙っているわけにはいかない。アンタが、敵だってことは分かってるからね」
「ステラ……」
「ふーん、まさかステラがそんなにこの村のこと気に入ってたなんて思わなかったなあ。でも、それって、ある意味嫌がらせが成功したってことだよね」
と、くすりとラヴァインは笑う。それが、本当に心から楽しいというように。いたずらに成功した子供の顔を見て、私は恐怖感を覚えた。
人だと分かるのに、嫌がらせの範疇が、小学生のそれを余裕でこえているわけで、嫌がらせの単位で、彼は、人が死ぬかも知れない……人の生活区域を踏み荒らしたというのだろうか。
(知ってる、分かってる……優しい面があることも……でも、彼は、こいつは――)
彼のことを知っているといっても、一面だけ、広い面で見れば、彼は大量殺人鬼の中に居る一人で、人の命を何とも思わない極悪人の一人。
感情がごちゃごちゃと掻き乱されて、知っているからこその、擁護の気持ちと、知っていて尚、彼を恨む、怒りがわき上がってきた。なんともいえない感覚に、気持ちに、名前なんて付けられないだろうけれど、彼がこの状態で、記憶を取り戻したら……いいや、彼は、きっとこれまでの悪行に対して謝りはしないだろう。そこは、人間の本質、変わらない。
「アンタ……サラッと言うけどね……アンタのやってることは」
「人殺しだね。ステラ、怖い顔してる」
怖いのはアンタだ、と叫びたいくらいには、私の周りには冷たい風が吹き乱れ、そうして、顔を上げた瞬間に漂っていた魔力が形をなしてラヴァインに飛びかかった。