テラーノベル
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お久しぶりです!
今回の露日はロシアの文化を絡めて書いてみました。
とりあえず、フォロワーさん100人記念で頂いたリクエスト(小説)は前回ので終了です!
思ったよりも多くのリクエストをくださったので、採用できないものもありました。
なので、また別の機会にコメントしていただければ嬉しいです。
イラストのリクエストは描いてる最中です…
すみません…
…仕事が遅すぎてフォロワー様が300人越えてますよね
本当に申し訳ない…
チャットノベルのお話と記念部屋は近々動かそうと思ってます。
色々遅くて申し訳ない…
話が長くなってしまった…そろそろ始めます
会議室の扉をそっと開けたとき、部屋を見渡し日本はほっと息をついた。
(……よかった。誰もいない。)
会議の日は、予定より早く来て準備を整える──それが私の日課だ。
照明の落ち着いた白さと、無機質なテーブル。
整然と並ぶ椅子に囲まれたこの部屋は、静寂を抱え込んでいるようで、少しだけ息苦しくもあった。
誰の気配もない会議室で、日本はそっと奥の席に腰を下ろす。
(会議の資料……よし。あとは……)
『ガチャッ』
「…!」
カバンからファイルを取り出して並べている手が止まり、ぴくりと体が跳ねる。
開いた扉の方へと視線を移すと、深い冬の夜を映しているような薄明の瞳に引き寄せられた。
「……ああ、日本。いたのか」
低く抑えた声が響く。
(……ロシアさん)
緊張が喉をつたって降りてくるような感覚。
日本は反射的に姿勢を正す。
しかしロシアさんは特に何も言わず、彼もまた静かに、隣の席へと腰を下ろした。
会議室は、ふたりきり。
広さばかりが無駄に強調される空間に、沈黙が落ちる。
時計の針が、やけに規則的に音を刻んでいた。
(……どうしよう……話しかけた方がいいのか、黙っていた方がいいのか……)
何気なく資料をめくる。
紙の擦れる音がひどく大きく聞こえて、わずかに眉を寄せた。
ふと、その静けさを破るように、穏やかな声が降ってくる。
「……日本。何か、飲むか?」
「えっ……!?」
思わず裏返った声に、自分自身が驚いた。
彼は特に気にした様子もなく、淡々とした口調で続ける。
「日本の仕事が長引くなら、何か飲み物があったほうがいいと思ってな」
「あ……では……コーヒーをお願いします」
「分かった」
椅子がきしむ音。
立ち上がるロシアさんの背を見送りながら、小さく息を吐いた。
(……やっぱり、気のせいじゃない)
彼の言葉や、目線の柔らかさが、少しずつ、以前とは違ってきている気がして──
けれど、心に引っかかった何かは、まだ名前をつけられずにいた。
戻ってきた彼は、紙コップをひとつ差し出した。
「熱くないか?」
「……っ、ありがとうございます」
手と手が、触れそうになってとっさに指を引いた。
それをごまかすようにコーヒーに口をつける。その温度が心地よくて、揺れた心にやさしく沁みていく気がした。
「……あの」
口を開いたのは、反射だった。
「ロシアさんって、よく……私の名前を呼ばれますよね」
「……そうか?」
「はい。……でも、私、ロシアさんがアメリカさんの名前を呼んでいるところ、見たことないです」
「アイツの名前は意地でも呼ばないからな」
その一言に、小さく笑ってしまう。
「……まあ。でも」
ロシアさんは、カップの縁に指を添えたまま、低く呟く。
「日本の名前を呼ぶのは、わりと好きかもしれない」
「……えっ」
思わずコーヒーの香りが遠ざかる。
心臓が、ひとつ跳ねた。
「……そ、そうなんですか?」
「……ああ。俺と日本の間にある“壁”が、少しだけなくなる気がする」
「壁……ですか」
そんなつもりはなかった。
……でも、言われてみれば。
きっかけがないから。理由がなかったから。
そんな小さな言い訳で、境界線を引いていたのかもしれない。
その瞬間、じわっと何かが胸に刺さった。
小さな沈黙が流れたあと、彼がぽつりと口を開く。
「それに、俺が日本に話しかけようとすると、アイツが割り込んでくる……」
“アイツ”というのは、恐らく、例の陽気な彼のことだろう。
「……あはは……確かに、そういう場面はよくありますね」
今になって思う。
ロシアさんは、何度も話しかけようとしてくれていた。
……でも、私はどうだっただろう。
消極的で、臆病で。
もしかしたら、彼の優しさに、ちゃんと向き合ってこなかったのかもしれない。
考え込むように視線を伏せたあと、ようやく言葉がこぼれた。
「……じゃあ、その壁を少しでも除くために……」
「愛称で……お互いを呼んでみる、というのは……どうですか?」
彼が、ほんのわずかに目を丸くする。
「……どういうことだ?」
「たとえば、そうですね……」
鼓動に合わせるようにじわじわと火照る顔を背けて、言葉を絞り出した。
「ろ、ロシアくん……とか……」
気まずい沈黙が、そっと二人の間に落ちる。
私が言葉を探すよりも早く、ロシアさんが口を開いた。
「……もう一回呼んでくれ」
「ぜっ、絶対に嫌ですっ……!」
一気に赤くなる顔を手で隠したい衝動。
けれど、なんとか堪えて話を戻す。
「つ、次は……ロシアさんの番ですよ!」
「……じゃあ──」
「Японичка」
「……え?」
聞き慣れない響きに、日本は反射的に聞き返した。
「……やぽーにちか? ロシア語……ですか?」
「ああ。ロシアでは、大切な人に親しみを込めて、名前に“チカ”をつけて呼ぶことがあるんだ。他にも呼び方はあるがな」
「へぇ……そうなんですか……」
──へっ……
言葉の意味がゆっくりと理解に追いついた瞬間、頭の中で小さく爆発音が鳴った。
大切な人という音が心に絡みつく。
日本は思わず紙コップを持つ手に力を込めた。
頬だけじゃない、首筋まで熱くなるのがわかる。
「…気に入ったなら、これからそう呼ぼうか?」
彼は、変わらない表情のまま、淡々と事実のように言う。
だけど、その瞳はどこか甘く、悪戯に揺れていた。
「っ、遠慮しておきますっ!!!」
思わず跳ね上がるような声になってしまって、日本は両手で顔を覆いそうになるのを耐えた。
けれどその代わりに、視線をそっと落としながら、コーヒーを一口。
それだけで、熱はどうしようもなく広がっていった。
会話の余韻がふっと消えたあと、今度はやわらかな静寂がふたりを包み込む。
目の前に広がった資料を見つめながら、
じんわりと広がる熱を逃すように、小さく呟いた。
「……ふたりっきりのときなら……いいですよ」
「……恥ずかしいので……」
その一言に、彼の目がわずかに揺れる。
そして、ほんの少しだけ、口元が──柔らかく、緩んだ。
「……反則だろ、それは」
今度は、日本の心臓が、本当に耐えられそうになかった。
日に日に遠のいていた互いの距離が、
こんな小さなことで変わるのだとしたら──
少しだけ、救われる気がした。
ほんの少しだけ和らいだその“壁”は、
私たちのちっぽけであたたかい変化を表していた。
コメント
17件
かわいい2人をありがとう… クロネコちゃんの小説、言葉がやわらかくてほんと大好き🫶 300人↑おめでと〜!
あらやだ尊いわ(?)愛称か〜…グヘヘヘこれは他のカプでもいいかもな〜というかロシアの性格めっちゃ可愛い(*´ω`*)ほんと神ってますね☆凄すぎます。神作家さんはどうして神な文章思いついて書けるんだろう…。不思議。失敗がない。あ〜日本の照れ顔も絶対かわいい。というか可愛くなかったらそれは日本じゃない。別の何かだ。(?)ロシアって意外とまともなとき多いんだよな〜。
読みました、つづきが楽しみです。