――疲れているところ申しわけないのですが……
――妊娠したから腹が痛いんだろ。大げさなんだよほんとに!! うっとうしいなあ、優しくしてりゃつけあがりやがって!!!!
ドン、と鈍い音が響く。
「いやこれは違うのです! おい止めろって! 止めろおおおおおおおお!!!!!!」
――使えないクズ嫁に僕の貴重な時間を使うと思う? 病院行くなら勝手に歩いて行けよ。お前みたいな無駄飯食いの治療費なんか一切出さないからな!
「あああああああああああ――――」
大声でかき消そうとするが、音響がボリュームをマックスにした。大音量で幹雄のクズ発言が流れた。
――お前っっ、今日の夜から出張に行くって今朝伝えただろうっ! なぜなにもできていない!? この無能がっ!!
――すみません……
――謝罪なんかいらないよっ。お前みたいなできそこないの嫁、見ているだけで腹が立つよ!! ああもうイライラするぅっ!!!! このゴミクズがっ。僕の前から消えろ!!
もうおしまいだ、と幹雄はその場に崩れ落ちた。父親からどんな叱責が待っているのだろうか。そして松本家の行く末は――
しんと静まり返った会場から、ひとつ、またひとつとフラッシュの音がしたと思ったら、どんどんとその音が大きくなっていく。各マスメディアのカメラが一斉に幹雄を撮影を始めた。更に今の様子をスマートフォンで撮影していた招待客が、次々に自身のSNSにアップする。
スクープ映像はあっという間にリアルタイムでネットニュースに流れた。瞬く間に大炎上だ。
代々先祖が大事に築きあげて来た松本家の信用や実績は、一瞬で陥落した。
その夜、『#松本家炎上』というハッシュタグのトレンドニュースがSNSで話題となり、大きく取り上げられた。幹雄の愚かな行為が、一般人にも知れ渡ることとなった。『#ビッチとクソ』『#お似合い松本家♡』『#赤ちゃんプレイ』などのハッシュタグが大いにSNSを沸かせ、公の場で真実が明らかにされたことにより、幹雄に対する社会的制裁が始まった。
会計事務所は社員やスタッフが全員辞めてしまい、誰も出勤せず、幹雄一人で対応するも散々な電話ばかりだった。
「あんたの爺さんの代から懇意にしてきたのに、こんな仕打ちはないだろう! もうおたくの所には頼まないよ! 取引停止だ!!」
「ま、待ってください! 取引停止なんてッ!!」
「奥さんをあんな目に遭わせて子供を殺すようなおしゃぶり人間に、うちの大事な会計は任せられないっ!!」
有無を言わせず電話はガチャンと切られる。次も、次も、その次も、契約解除の電話と文句の電話しかなかった。
顧客から一斉に契約を打ち切られ、さらに婚約者のこずえもやり玉に挙がった。
幹雄が起こした騒動によって松本家の社会的キャリアはいよいよ終焉を迎え、彼ら一家は公の場から姿を消すこととなった。
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