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――そうだ。それからどうなった?



桃源郷処か、それから先の記憶が無い。



「あっ!」



そして目の前の女を見詰め、ようやく理解した。



「やっと思い出してくれたみたいね」



女は既に鞭を止め、その溢れんばかりの胸元を支える様に腕組みし、勝ち誇った笑みを向けている。



あのやけに妖艶な黶、間違いない……。



髪こそ結い上げて、しかも異常な状況も相まって最初は気付かなかったが、こいつはあの時の女だ。



だが、どういう事だ?



あの時は情事の真っ最中だったはず。



しかも昨日出会ったばかり、それ処か助けて貰っといての感謝奉仕は当然として、この様な事をされる云われは無い。



「何故だ? 何故こんな事をする!?」



恩を仇で返すとはこの事。俺は理不尽な仕打ちに叫んでいた。



「何故って? ジョンを私のものにする為よ」



女は『それの何がおかしいの?』とでも言わんばかりに、目をきょとんとさせている。



「ふざけんな!! この二階堂玲人にこんな事、許されると思ってんのか!?」



俺は崇められこそすれ、恨みを買うような事等有り得ない。



これは正に神への冒涜だ。



この女、もはや只では済まされない。



この懺悔は奴隷や無制限銀行でも、とても賄いきれまい。



「あらあら、ふざけてなんかいないわよ。それに、この運命の出逢いは偶然じゃないわ」



「ああっ!?」



何を言っている?



昨日は単なる偶然だったろ?



「私はずっと、この時が来るのを待ってたのよ……」



女は何処か遠い目で、これが全て計画の内だった事を語り始めた。



「私は退屈だったわ……」



お前の身の上話なんて聞いてねぇんだよ!



そんな事より、この枷をなんとかせねば。



本来俺は如何なる時でも冷静沈着なのだが、それは時と場合によりけりだ。



「ぐっ!」



しかし押せども引けどもびくともしない。



このミオスタチン関連筋繊維を持つ、俺の超人的パワーを以てしてもだ。



「親が遺してくれた莫大な遺産はあってもね……」



何だと?



俺は遺産のキーワードに反応してしまった。



セレブだとは思っていたが、そんなに金があるのか?



それは全部俺に奉納せねばならない。



しかし今の状況では虚しいだけだった。



「周りは皆、凡人ばかり……」



女はそんな俺の足掻きには目もくれず、一人で勝手に喋り続けている。



しかし気になる事があった。



凡人だと?



こいつ……俺と同じ思考を。



もしかしたら、こいつは俺と同様、1%の存在なのかもしれない。



だがこの仕打ちは許される事ではない。



俺はその1%の中でも、更に特別な存在なのだから。



「そんな退屈な日々を過ごしていた時だったわ……。モデルとして雑誌の中で佇む貴方を見たのは」



突如女の目が輝き、興奮に満ちていくのを――



「正に神の申し子! 全てが芸術的な、絵画のようだったわ!」



まるで玩具をプレゼントされた子供の様にはしゃいでいた。



その気持ちも分からんではない。



俺は全てに於いて、芸術の域に在るのだ。二階堂玲人という存在そのものがな。



「私の心を一瞬にして奪ってしまうなんて……。ホント罪なひと」



だがそれはお前だけじゃない。全ての者が抱く憧れだ。



「ふふふふ」



女は流し目で近付いて来ると、俺の首筋に滑らかに舌を這わせてきた。



「うっ……!」



瞬間、痺れる様な感覚が背筋を走った。



この様な状況じゃなければ、昂りもしていただろう。



この感覚はきっと悪寒だ。



「このギリシャ彫刻の様な身体……」



女は首筋から胸元へかけて、愛おしそうに舌を這わせていく。



「うぅっ!」



鞭により蚯蚓(みみず)腫した箇所に、唾液による感触が染み渡った。



それは痛覚だったのか、それとも……。



「完璧だわ!」



名残惜しそうに舌を離し、女は歓喜の声を上げるが当然だ。



一切の無駄の無い、完璧なるこの肉体美。



だがその芸術の彫刻も、今や見るも無惨に腫れ上がってしまった。



「昨夜も本当はもっと味わいたかったけれど、あのチャンスを逃す訳にはいかなかったのよ」



女は本当に残念そうに項垂れる。



あのチャンス?



「本来はあの三人に貴方を傷めつけさせて、私が介抱して此所に連れてくる、というシナリオだったのだけどもね」



全く言ってる意味が分からない。



あの三人? あのゴリラ共の事か!?



「まさか……やらせだったのか全て?」



「そうよ。これも計画の内」



なんという策士だ、この女。



だが俺がそんな演技にみすみす引っ掛かるはずが……。



「貴方の性格まで全て調べあげたわ。貴方は傲慢で女好き……」



「ぐっ!」



俺は言い返せなかった。



確かに俺以外は99.99%が屑だ。それは認めよう。



だが一つ間違っている。



女が俺を好きなんだ!



全ての女は俺に身体を捧げる義務がある。



俺は善意で協力してやってるだけに過ぎない。



「貴方の近くで襲われた振りをしてると、貴方は必ずその独りよがりな正義感から私を助けにくると踏んだわ」



確かに……。こいつでなくとも助けを求められたら、女限定で俺は行動を起こすだろう。



だが独りよがりとは何事だ!?



これはゴミ掃除の一環も兼ねている。



その全てが俺のジャスティスだ。



「腕っぷしの強そうなそこら辺の三人に、お金を握らせてひと芝居打ったけれど……」



そう言いながら女は何処から取り出したのか、手に札束を三つ見せびらかす。



一束が恐らく100万。なら300万ごときで俺を何とかしようと思ったのか?



馬鹿が! 俺には億が必要だろうに。



まあそれでもあのゴリラ共にとっては豚に真珠ならぬ、ゴリラにオリハルコンだ。



「貴方の強さ……予想を遥かに超えていたわぁ。武力まで完璧だなんて、惚れ惚れして濡れちゃったわ……」



女は俺の神の演舞を思い出したのか、目がトリップしていた。



それも当然。



俺の武は一騎当千ならぬ万夫不当だ。



お前は神の領域を見てしまったのだ。



濡れる処か、凡人ならそれだけで絶頂に達してしまうだろう。



「あの三人は糞の役にも立たなかったけど、私の計画に支障は無かったわ。だって強い貴方も望んでいたのだもの」



それで俺はまんまと、この女に乗せられてしまったという事か……。



だが待てよ?



こんな非力な存在に、何故俺はこんな状況になった?



それは不思議だった。



神の耐久力さえ誇る俺の鋼鉄の肉体に、この女一人の力でどうこう出来ようはずがない。



「貴方は無類の女好き、という点も利用させて貰ったわ。事の最中なら、きっと隙が出来るとね」



確かに快楽を前にした俺が無防備だった事は認めよう。



しかし全てに耐性のある俺が、仮に薬を盛ったとしても――



「うふふふ……」



俺も今気付いたが、女は手に持つ札束を、用意がいいのか隣の白い簡易移動式テーブルへ置き、代わりにクロス内から何かを取り出した。

二階堂君を堕落させる方法

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