テラーノベル
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#恋愛
#長編
それはブリジットが知っているメロディーだった。有名な吟遊詩人の歌をオルゴール型懐中時計にして売り出したのは、祖国の技術だ。
そして懐中時計の蓋の裏に刻まれた文字を見て、ルティの態度も全て理解した。
(そう、だからルティは……)
「シズク……」
不安そうな声音を出すので、私はルティに微笑んだ。
「素敵な音色だったわ。でもこの懐中時計は私が持っているよりも、殿下に持っていてほしいです」
「うん。それがいい」
「もし懐中時計が気に入らないのなら、祖国に戻った時に改めて慰謝料及び感謝の気持ちを──」
「必要ない。お前はシズクを危険に晒した上に、切り捨てた側だ。そんな連中に冬の滞在を許したのは、シズクとの関係が良好になるキッカケを齎したからにすぎない。これ以上囀るようなら、国ごと滅ぼすぞ」
膝枕されていて本来なら格好がつかない筈なのに、凄まじい威圧でそれを成しているってすごい。私的には可愛いだけだけど。尻尾もモフモフしているし。
「(で、でも国一つって、洒落にならないような。そんな心配しなくてもいいのに……)ねえ、ルティ」
「なんだい?」
「ルティは世界各国の情勢に明るい?」
「まあ、それなりに独自の情報網はありますよ。各国にいくつか拠点もありますし」
(途端に犯罪臭が……)
本当に時間をかけて準備していたのだろう。すごい愛と執念だ。重いと思うけれど、私はその思いが今は嬉しくもある。
「ではカシミロ殿下に、小国の様子を教えてあげるのはどうです? もちろん対価は払って貰いましょう。そうすれば冬を過ごす間に、今後どのような生き方を選ぶのかの指針にはなるでしょう?」
「シズクが望むにならなんでも叶えたいですが、この男に力を貸すのは嫌ですね」
「(不貞腐れている。うう、可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだから?)……ルティ、ここで方針を決めさせておかなかったら、春が来ても居候するかもしれませんよ? そしたら私と一緒に暮らす時間が短くなるかもしれないのに、いいのですか?」
ピクリとルティのモフモフなケモ耳が揺れた。尻尾も逆立っている。
「それは嫌です。……ふん、それなら冒険者ギルドに行って今すぐに身柄の保護を依頼すれば、住みこみで働けるだろう。推薦状を用意するので、それを持って三人で早々に家を出て行くといい」
(うん。言っていることはキリとして威厳ある風なのだけど、膝枕で寝転がっているので可愛い)
思わず頭を撫でてしまった。これでは格好がますますつかなくなってしまうと思ったのだけれど、ルティは嬉しそうにしていて、離れた指先に視線を向ける。
「撫でるのが気に入ったの?」
「ええ。シズクは私を喜ばせる天才だと実感したところです」
「それはよかった。……ところでルティ、空竜鳥族のジーナ王女が《片翼》関係で暴走したら、ギルドからルティに連絡が入るのでは? それで建物や被害が出るって危なくない?」
沈黙。
ルティは少し考え、苦笑する。
「シズクが無事なら些末なこと……ですが、シズクはそれが嫌なようですね」
「ええ。事前に危険な可能性があって放置するのって良くないわ。それに昨日の段階で冬の間は面倒を見ると言ったのだから、約束を反故するのも良くないと思うの」
「う……」
約束は大事だもの、と言葉を添えるとルティは顔を青ざめる。
「でも国に戻るにも旅費や先立つものは必要だから、昼間は冒険者ギルドで働いてお金を稼ぐのも大事だと思うわ。その間に私とルティは二人の時間が取れるでしょう?」
「シズクが傍にいるのなら良いですよ」
惚れた弱みを駆使してルティから承諾をもぎ取った。話を聞いていたカシミロ殿下は、何故か目を輝かせて私を見ていた。殿下に有利になるように交渉を手伝ったから、尊敬の眼差しを向けているのだと──そう、勘違いをしてしまった。
「ああ、僕はなんて罪深いのだろう。《片翼》となった彼女まで、僕の虜になってしまったのだから」
「は?」
「はい?」
唐突にこの王子は、何を言い出しているのだろうか。ルティの機嫌が良くなったというのに、空気を読んでほしい。そう思ったのだが、カシミロ殿下の勢いは止まらない。
「分かっています。僕が目配せしたのがいけなかった。なんて罪作りなのだろう。ああ、なんという悲劇。僕が美しくて、高貴な存在だったせいで……」
「シズク。少しの間、目を閉じていてくれるかい。すぐに済ませますので」
「ルティ、殿下のことを消し炭にする気でしょう!?」
「いいえ」
にっこりと笑っているが、目が一切笑っていない。モフモフだった尻尾も逆立っているし。
「消し炭なんて生ぬるい。私のシズクによくもそのような戯れ言を……妙な術式が掛かっているので警戒していましたが、こうなったら──」
「(ん? 今なんかすごく重要なことを言っていたような!?)ルティ、術式って──」
「大丈夫、すぐに終わります」
「る、ルティ! 早まらないで!!」
「──っ!?」
私は咄嗟にルティの腹部に抱きついた。一瞬尻尾が小刻みに震えていたけれど、イマはそれどころではない。
「ああ、今すぐにでも僕が抱きしめてあげたい。しかし君は囚われのお姫様」
「シズク殿、ルティ殿! 殿下から何かを受け取っては────って、遅かった!」
「ひゃあああ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
(なにごと!?)
ドタバタとエリオット様とジーナ様が階段を駆け下りて来た。意味深な発言も聞こえたし、しかもなんだか手遅れっぽい。
今にも殿下を灰燼としようとするルティに縋り付いたら、ちょっと機嫌が良くなっていた。なんで!?
ちょっと、いやかなり可笑しくなったカシミロ殿下はエリオット様とジーナ様が取り押さえてくれた。二人の話をまとめると殿下は《大鴉の魔女》に呪われているという。
コメント
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第42話、拝読しました!ルティの「国ごと滅ぼす」発言からの膝枕での威圧、可愛すぎて笑いました😂「惚れた弱み」を巧みに使うシズクさんの交渉術、すごく好きです。殿下の勘違いにルティが本気でキレそうになるシーンもツボでした。そして最後に明かされた「大鴉の魔女の呪い」…これは気になります!また続き、楽しみにしています📖