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第34話 「甲子園の土」
2021年 三月。
兵庫県西宮市。
阪神甲子園球場。
柳城高校のバスが到着した。
選手たちは窓の外を見る。
誰も声を出さない。
テレビで見ていた場所。
高校球児なら、一度は夢見る場所。
甲子園。
バスを降りる。
見上げるアルプススタンド。
銀傘。
そして、あのスコアボード。
「……でかいな」
誰かが呟く。
舞も思わず足を止めていた。
去年。
ここへ来るはずだった。
兄たちの代が立つはずだった場所。
その思いが胸をよぎる。
開会式。
行進が始まる。
「福岡県代表 柳城高校」
場内アナウンス。
選手たちが胸を張る。
福間監督はベンチ前から見守る。
長かった。
本当に長かった。
甲子園から遠ざかり続けた十数年。
何度も負けた。
何度も諦めかけた。
それでも、ここへ戻ってきた。
その夜。
宿舎。
選手たちは興奮していた。
「甲子園やぞ!」
「テレビで見たまんまや!」
笑い声が響く。
だが福間監督は言う。
「観光に来たんやない」
空気が締まる。
「勝ちに来た」
全員が頷く。
翌日。
センバツ一回戦。
相手は大阪代表・浪速学院。
全国屈指の強豪だった。
試合前。
整列。
校歌紹介。
スタンドには柳城の応援団。
おっちゃんとおばちゃんの姿もある。
舞はスコアブックを抱えてベンチへ向かう。
春の日差し。
甲子園の土。
白線。
歓声。
すべてが特別だった。
主将・柴田が声を張る。
「行くぞ!!」
ベンチが応える。
「おう!!」
福間監督がゆっくり前へ出る。
そして静かに言った。
「柳城の野球、見せてこい」
選手たちは力強く頷く。
主審が右手を上げる。
「プレイボール!」
甲子園に帰ってきた柳城高校の、新たな物語が始まった。
第34話 終
#高校生