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「あ、さっきの…」
ほんの少し低い位置からきょとんとした顔で見つめてくる。夕日に照らされる桃色の髪と、影の差す深い青の瞳はコントラストも相まって綺麗だ。
「ウェンは?何してたん」
「…大したことじゃないよ」
「ふーん、ほんとに?」
ウェンは嘘を付く時、すぐに目を逸らす。目を合わせようとしない。じっと、ウェンを見つめていれば、気まずそうに顔を上げた。
「ほんとに、そんな大したことじゃないから」
なるほどな、まだ伝えないつもりか。なら、
「…」
「っ〜…なんだよ、その顔は」
「… 」
「あー、もう、わかったよ」
目を瞑って呆れたように後頭部をガシガシと掻きながら渋々話す。呆れたいのはこっちだがな。どうせ隠そうとしてることはわかってる。
「ただ、告白されてただけだよ。それだけ」
「はい、この話終わり」と背を向けようとする目の前の存在に苛立ちを覚える。それだけ。そんなわけない。こいつにとって告白はほぼトラウマみたいなものだ。現に、震えている手は隠せてない。
ウェンは告白されるのが嫌いだ。原因は本人の優しさと小学生の頃の告白。赤城ウェンという男は口煩いし煽りもするが誰よりも優しい男だ。もし、嘘だと言われるなら、幼馴染の俺が証人になろう。…話を戻すが、ウェンは小学生の頃女子に告白されたことがある。しかし、幼いウェンにはそんな感情は分からなかった。だから勿論断った。その結果、告白した女子は大泣きで走り出し、ウェンはその場に一人取り残された。仲のいい女子を泣かせた。その事実は幼いウェンの心でさえも苦しめたんだ。そこからだった。誰にでも優しかったウェンは女子と一定の距離を取るようになった。必要以上に女子と関わるのをやめ、男子とばかりつるむように。手助けすらも拒むほど。そんなに優しいウェンがだ。それだけあの出来事は相当心に来たのだろう。自分に対する好意を聞く度に微かに手が震えてるのをこの数十年間、何度見たか。それだけ、トラウマになっている。それを今されたんだ。大丈夫なわけが無い。微かに震える手ごと自分が抱いてる感情を誤魔化そうとしてるのを俺が気づかないわけがないだろう。そんなのを許すつもりなど甚だない。弱いと言われればそれまでだ。だが、俺は弱いと認めない。ウェンを否定するのは許さない。醜い執着かもしれないが。
「ウェン、ん」
手を広げウェンを呼ぶ。振り返った瞳は大きく見開かれた。
「な、に…」
戸惑いが浮かぶ瞳は不安定に揺れる。逃げようとしているのは丸分かりだ。絶対に逃げるなんて許さない。
「…こい、」
動かない目の前の存在に最早命令とも取れる声を掛ける。何か言いたげだが、すぐに口を噤んで俺の腕の中に収まった。
「ロウって意外と大胆だね 」
「誰かさんのせいでな」
「誰だろう」
「さぁな、」
胸元に収まった存在は俯いたままだ。声も少し震えて、ウェンの思いが、切なげに伝わる。大丈夫と頭を撫でれば恐る恐る背中に手が回された。
「ウェン、頑張ったな」
「…ぅん、」
落ち着いた声で小さく返事が返ってくる。あやすように抱きしめて、落ち着くまでまつかな。…廊下に入り込む夕日もまだ、温かみを持ってるわけだし、少しの我儘くらいなら大丈夫だろう、
「結局、一緒に帰るやん」
「w、ね」
微かに混じる笑い声に安心する。
「ウェン、早く帰るか」
「…そーだね、今度唐揚げあげる」
「まじ、神やん」
「大げさw」
まだ大人しいが、調子は戻ってきてる。その事実が嬉しいことは秘密だ。ウェンにこの思いを届ける日はこない。伝えるつもりがないからな。…まぁ、本人が聞きたいなら伝えるがな。ふと振り返れば、ウェンに告白してたらしき人物が映る。…軽率な発言はできないからここは黙秘を貫かせてもらうとしよう。とりあえず、いつかウェンが俺にも思いを隠さずに伝えられるようになる日を待つとしよう。下駄箱に差す光は、まだ、温かい。