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妖刀鬼神丸〜蛇骨長屋戦闘記

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妖刀鬼神丸〜蛇骨長屋戦闘記

44 - 第44話化け猫との決着

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2025年10月16日

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化け猫との決着

化け猫との決着


調理場に駆け込むと怪猫が後ろ足で立ち上がって唸っていた。斬られた前足はちゃんと繋がっている。

床にお信が蹲っており、忠吉がお信を庇うように抱きかかえていた。

「タマ、やめて!」

登勢は怪猫の懐に飛び込んで行った。白い胸毛に顔を埋めて必死に訴える。

「お願い・・・お願いだから二人を殺さないで!」

唸り声が止んだ。

「登勢は悔しくないのか・・・?」

頭の上から声が落ちて来た。地の底から響くような声だ。

「ずっと、ずっと苛められて、たった一つの心の支えまで奪われて、登勢は悔しくないのか?」

「悔しいよ、ずっと悔しかった。でも、あんたに人殺しをさせたくないの!」

「もう・・・遅い」

「ううん、まだ遅くない!今ならまだ間に合う!」

「いいや、私は悪魔に魂を売ってこの姿になった」

「悪魔って?」

「黒船に乗って西洋からやって来たメフィストフェレス、私の望みを叶える代わりに人間の魂を二つ持ってくることを約束した」

「そ、そんな・・・」

「どけ登勢、どかぬならお前の魂をもらう!」

「だったらその代わりにおっ父さんを助けて!」

「登勢・・・」忠吉が顔を上げて登勢を見た。

「駄目よ、お登勢ちゃん!」

お紺の声が飛んで来た。見ると志麻と一緒に調理場の入り口に立っている。

「そんなやつに魂を渡したら、絶対浮かばれないわ!」

怪猫が勢い良く向きを変えて二人を見た。

「キャッ!」

小さく悲鳴を上げて登勢が土間に倒れると、忠吉が駆け寄って抱き起こす。

「登勢、大丈夫か?」

「おっ父さん!」

二人は抱き合って壁際に寄ると、怪猫の背中をジッと見詰めた。


*******


「あっちはあんたの事気に入っていたんだけどねぇ」お紺が怪猫を見て言った。「あの猫踊りは中々のもんだったよ」

「うるさい、全部お前達を騙すためにやった事だ」

「そうかねぇ、結構楽しんでるように見えたけど」

「どうでもいい事だ。そうだ、この際だからお前たちの魂もメフィストの土産にしてやろうか?」

「狼は死んだ!」志麻がズイと前に出た。

「お前がここにいると言う事はそういう事だろうねぇ・・・いいさ、ただのメフィストの飼い犬だから」

「お前の前足を取り返してくれたんじゃないのか?」

「別に取り返してくれと頼んだわけじゃない、ほっときゃいずれ生えてくるものを・・・」

「タマ、あんたがそんなこと言うなんて・・・」登勢が思わず声を上げた。「もっと優しい猫だったのに・・・」

「昔の話さ」

「お登勢ちゃん、こいつはあんたの知っているタマじゃ無い。もう、すっかり妖怪になっちまっているんだよ!」

お紺が怪猫を睨みつけながら叫んだ。

「今度はこの前のようには行かないよ」

怪猫はお紺を無視して志麻に視線を向ける。

「決着をつけようじゃないか」

志麻は刀を正眼に構えた。

『鬼神丸、私一人でやる』

志麻は鬼神丸に手を出さぬよう釘を刺すと、ジリジリと間合いを詰めて行く。

怪猫は背中を丸めて逆毛を立てると、威嚇の姿勢を示した。

「みんな安全なところへ隠れて!」

怪猫を牽制したまま、皆が水瓶の後ろや竈門の陰に隠れるのを見定めてから、志麻は構を変えた。

さっき狼を倒した時に取った構だ。一般的な構えから見ればとても有効な構えとは思えない。

それでも怪猫は何かを感じたのか攻撃を躊躇っている。

志麻は右に移動した。怪猫を隅に追い詰めて攻撃を誘わねばならない。

だが、怪猫は中々誘いに乗って来なかった。動物的な勘で危険を察知しているようだ。

志麻は思い切って前に出る事にした。

「ヤァ!」

剣を回して左袈裟から逆袈裟に斬りあげる。

怪猫は巨体に似合わず俊敏に動き、志麻の剣を掻い潜って背後に回った。

志麻が振り返ると同時に牙を剥き出しにして襲いかかる。

牙は躱したものの爪を避けきれず、右の肩口を引き裂かれた。

血が腕を伝って流れ落ち、土間に溜まっていく。

「志麻ちゃん!」

お紺が水瓶の後ろから飛び出した。

「来ないで!」

「でも!」

「私に任せて!」

志麻の気迫に圧されてお紺は立ち尽くす。

怪我を負ったが、今の攻防で立ち位置が逆転した。怪猫は狭い入り口の通路に立っている。

志麻は再び左入身に構え剣を寝かせ切先を落とした。

「デヤァァ!!!!」

怪猫に向かって突進した。怪猫は引く事も左右に躱す事も出来ず志麻に向かって真っ直ぐに飛んだ。

「機!」

身を沈めて剣を立て、その下を潜るように躰を捌く。

切先に手応えを感じる。

そのまま引き斬った。

怪猫は着地することも出来ず、頭から竈門に突っ込んでそのまま動かなくなった。

「志麻ちゃん!」お紺が駆け寄った。「大丈夫!」

「ええ、なんとか勝てた・・・」

志麻の肩からは血がとめどなく流れ出していた。

「大変、傷の手当てをしなきゃ!」「お登勢ちゃん晒しを沢山持って来て!それからお湯を沸かして針と木綿糸を用意して!あ、焼酎もね!」

「は、はい!」

それから、慌ただしく時間が過ぎていった。


*******


「これでよし・・・と」

お紺はお湯を張った木桶で血のついた手を洗った。

「お医者に見せるまでの応急処置だからね」

「うん、ありがとう」

志麻は上半身に晒しを巻かれて布団の上に寝かされていた。

「志麻さん痛みますか?」枕元に膝を折って登勢が訊いた。

「うん、少しね」

「タマが・・・ごめんなさい」

「ううん、お登勢さんの所為じゃないわ」

「でも・・・」

「化け猫は・・・いえ、タマはどうなった?」

登勢は少し寂しそうな顔をした。

「元の姿に戻って・・・」

「死んじゃったのね」

「はい」

「私の方こそごめんなさい、タマを助けてあげられなくて」

「そんな・・・」

「でも、タマの魂を救ってあげることはできるかもしれない」

「え・・・?」

「そういえばタマは、メフィストなんとかって言う悪魔に魂を売ったとか言ってたわね」

お紺が思い出したように言った。

「そう、だからそいつを倒せばタマの魂は解放される」

「その躰じゃ無理よ!」

「だから今日のうちにやるの」

「なんだって・・・?」

「明日になったら本当に躰が動かなくなる。今ならまだ動ける」

「でも、何処に行けばいるのよ、そいつ」

「きっと山寺の猫石の所です。タマを捨てたのはそこですから」

登勢が言った。

「お登勢さん、案内お願いできる?」

「ええ、私、タマの魂を救ってやりたい」

「じゃあ、決まりね」

志麻はゆっくりと立ち上がる、足を踏み出すと少しよろけた。

「本当に大丈夫、志麻ちゃん?」

「ちょっと眩暈がしただけ、すぐに良くなるわ」

志麻の着物は使い物にならない。仲居のお仕着せである浅葱色の麻の単を着て尻を端折り、その上から袴を穿いた。

「行きましょう」


登勢を先頭に宿を出て、街道の脇道を山に向かって歩き始めた。



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