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追憶の探偵

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追憶の探偵

61 - 4-case07 人工的な星空

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2025年02月26日

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「何か思った以上に広いね、席」

「何でそんな不満そうなんだよ」



プラネタリウムに着いた俺たちは、仕方なく神津の要望に応えカップル席に座ったのだが、神津の想像していたよりも広めに幅が取ってあったため、そこまで密着しなくても座れた。下心丸出しというか、俺とくっつけるものだと思っていた神津は不満そうに口を尖らせている。まあ、暗くなって本格的に始まれば、俺の同意を得ずにくっついてくるんだろうなと想像し、今はこの距離で……と神津を見る。

若竹色の瞳と目が合うと、神津は幸せそうに頬を緩めた。



「春ちゃんから僕のことみてくれた」

「見ちゃダメなのかよ」

「ううん、春ちゃんも僕の事好きだーって顔してて、すっごく嬉しい」

「んな顔してねえよ」



そんなことを指摘されるので、俺は思わず顔を逸らしてしまった。

今日は、素直になるって決めたのにどうしても神津を前にすると素直になれない。この年になっても恥ずかしいという気持ちが消えないのだ。子供の頃ですら、好きと意識し始めてからは神津の顔を見るだけで動悸が激しくなったものだ。そう思えばかなりの進歩だとは思う。

ゆっくり着実に、歩み寄れて、恋人らしくなっていっている。

自分の中で宣言した「愛している」をいう作戦はいつ決行しようかと、頭の中でそればかりがぐるぐると回る。もう早めにいって楽になろうかと思ったが、神津は雰囲気を大切にする人間だし、変に空まわってもう一回とかいわれても嫌だ。ここだ! と思った時にいおうと、俺はチャンスをうかがった。



「春ちゃん、そわそわしてる」



と、神津が吐息を漏らすように呟いた。


バレたか……と、内心焦ったが、平然を装って、何がだよ? と返した。神津はふわりとした微笑みを浮かべながら俺の手に自分の手を重ねてきた。

俺はビクッとして、反射的に手を引こうとしたが、それは叶わなかった。

神津によってぎゅっと握られたから。

その温もりに安心感を覚えると同時に緊張もしてきた。

神津は俺の指の間に自分の指を絡めてくる。いわゆる恋人繋ぎというものをしてきやがった。神津は俺の右側に座っており、繋がれた手に視線を落とせば、先ほど買った銀色の指輪がきらりと光る。



「ごめん、唐突な話をするんだけどさ……初恋は実らないってよくいうじゃん」

「いう……のか?」



いうんだよ。と神津はいうと繋いだ方の手の指を器用にバラバラに動かしながら話を続ける。



「でも、僕達って叶った訳じゃん。僕の初恋は春ちゃんだし、春ちゃんの初恋も僕でしょ?」

「……………ま、まあ」

「けど、こんな話もあるんだ。今世結ばれた恋人達は来世結ばれないって。逆に前世結ばれなかった人達は来世で結ばれるって……何だか可愛そうだなって思って」

「可哀相か?」



と、俺は思わず反論してしまう。


神津は可愛そうだと言ったが、俺は別にそうとは思わない。

何度も、出会って恋に落ちて。結ばれたら、次は結ばれなくて、その次は結ばれて……って。終わりはないかも知れないが、来世でもまた会えるんだって確定しているって事だろ? 何度繰り返しても、いつかは結ばれて。何度だって好きになるんだろう。その時に結ばれなくとも。

神津は俺の答えが以外だったのか、数回瞬きした後こてんと首を傾げた。



「それで? 俺たちは、来世結ばれないっていうのか?今世結ばれたから」

「あ、いや、えっと……そういうわけじゃなくて。そういう話があるんだけど、でも、僕は何度でも春ちゃんを好きになるし、何度転生しても必ず結ばれるまでアタックし続けるよっていう話」

「凄えな、お前の執着」

「そうだよ。春ちゃんが思っている以上に凄いと思う。大衆に認められる才能と、たった一人の愛しの人を天秤に掛けたとき、才能を投げ捨てられるような男だよ?僕は」



そうだったな。と答えてやれば、神津は嬉しそうに目を細めた。

そんな会話をしていれば、室内にアナウンスが鳴り響きだんだんと証明が落ちていく。そして、天井にはキラキラと輝くまるで本物のような星が映し出される。



「……っ」

「綺麗だね」



人工的なものだと分かっていても、息をのむほど美しいそれに、子供の頃神津と見上げた星空を思い出した。

今よりももっと田舎に住んでいたから、余計な明りがなくて、星の光が強くこっちに届いていた。邪魔なものは一切ない。白や時々赤い星が暗い夜空にぶちまけられていて、子供ながらに圧倒されたものだ。あの時、俺は何を思っただろう。


俺は神津の横顔を見た。

彼は俺の視線に気付くとふわりとした笑みを浮かべる。星よりも綺麗なものがそこにある。



「――――好きだ」

「……春ちゃん?」



思わず口に出してしまった言葉に自分で驚いた。

神津はきょとんとして俺を見つめている。

ああ、駄目だ。やっぱり言えない。恥ずかしくて死ぬ。と、思っていたのだが、不思議とすんなり口から出てきた。だが、俺は誤魔化した。



「ほ、星が、すげえ好きって話」

「何それ、可愛い」

「うっせぇな……いいだろ、好きでも」



と、勘違いしてくれた神津に乗っかって、俺は上を見上げる。


星からしたら俺たちなんてちっぽけな存在だろうし、星の光が届くのはそれはもう人間の時間では考えられないもので、俺たちが見ているのは過去の光だ。それを、俺たちは綺麗だって思っている。星は過去によって構築された一種の記憶みたいなものなのかも知れない。そんな過去の記憶の一欠片を、俺たちは奇跡的に出会って一緒に見上げている。


今年の冬は、実家に帰って一度真冬の空を神津とみるのも良いかもしれないと、俺は秋の後に来る冬に思いをはせながら、人工的に映し出された星をもう一度眺めた。ただ茫然と。

背もたれがあるが、それでも首は痛くなるし肩も凝る。けれど、目の前に広がる光景に目を奪われて動く事が出来ない。



「春ちゃん口あいてるよ?」



と、横から唇を抓まれる。


隣に座っている神津が悪戯っ子のような表情でこちらを見ていて、何だか悔しくなったので仕返しに彼の鼻を摘まんでやった。



「ふぐっ! 息できない」

「いや、口呼吸してんだろ」



そんなやりとりを、こそこそと俺たちはしていた。周りに人がいないわけでは無いし、上映中なのであまり大きな声を出せない。神津は鼻を押さえて恨めしげに俺を見る。

俺は何となく勝った気分になって、小さく笑うと神津は仕方がないなあ……みたいな表情を浮べる。そんな風に見つめ合って、そろそろ終盤にさしかかってきたときだった。



ドォオンン――――ッ!



と、大きな音とともに、会場が大きく横に揺れた。


地震かと思うと同時に、館内の照明が全て落ちてしまう。

俺は咄嵯に神津の腕を掴んだ。

真っ暗になった室内でざわめきが起こるが、すぐに非常灯に切り替わり、場内が薄暗くなっていく。



「おさまったか……?」

「春ちゃん、もう~ひっついちゃってさぁ」



などと緊急事態なのに、阿呆なことを抜かす神津を睨みつつ、俺は辺りを見渡した。

地震とはまた違う揺れな気がして、違和感を覚えた。それに、あの轟音、まるで何かが爆発したような音だった。

そんなことを考えていると、場内にスタッフの人が数人入ってきて「今すぐ避難して下さい!」と叫んだ。その言葉を聞いて会場はさらにパニックになる。一体どういうことだろうと思い、神津を見れば、神津は少し考え込むように顎に手を当てて考えていた。

その様子を見ながら、俺は最悪の想像が頭をよぎってしまい、まさかな。とスタッフに誘導され逃げていく客達を見ながら、立ち上がった。



「春ちゃん、警察に任せた方が良いんじゃない?」

「もし、他に爆弾が仕掛けてあったら。それが、駐車場だったら、出入り口だったら。観覧車だったら……色々考えたとき、警察が来る頃には爆発しているかも知れない」

「だとしても、無謀すぎるよ」



と、俺の心中を察した神津が俺の腕を掴んで首を横に振った。


神津も気づいているのだろう。これが、あの連続爆破事件の犯人が引き起こした爆破だと。

どうやって、こんな有名なテーマパークに仕掛けたかは謎だが、きっと一つや二つじゃないだろう。平日の早朝、人が少ない時間に狙ったのも、あの犯人らしい行動だと、俺は思う。



「……でも、ここで止めないと被害が広がる」

「春ちゃん……いったじゃん、危険な事には首突っ込まないって!」



いつもは見せない、焦ったような怒ったような表情で俺の腕を強く掴む神津。

爆弾が遠隔操作なのか、それともこの爆破と騒ぎを近くで犯人が見ているのかは分からないが、兎に角他に爆弾がないか探した方が良いと思った。ないにせよ、爆弾魔の手がかりが掴めるかも知れないから。

だが、神津は俺の腕を放さなかった。いかないでと、腕を掴む力が増す。

会場にいた客達は殆ど出て行き、俺たちだけが残った。すると、会場内に可笑しなアナウンスが流れる。



『ぴーんぽーんぱんぽーん。会場に残っている皆様にご朗報~この会場に一つ爆弾が隠してあります。その爆弾を見つけ出せたら、他の爆弾のありかが分かるかも』



と、気味の悪い機械音声が流れ、俺と神津は顔をしかめる。


こんなに、趣味の悪い爆弾魔だったのかと思うと同時に、やはり爆弾が他にも仕掛けられていたんだと俺は確信する。これが、嘘のアナウンスとは思えない。それに、ここの爆弾を見つけ出すことが出来れば、他に仕掛けてある爆弾も見つけることが出来るかも知れないと。リスクはあるが、爆弾の解体はしたことがあり、自信はある。その腕は落ちていないだろう。



「春ちゃん、ダメ」

「何でだよ。警察が来る頃にはドカンかも知れないぜ?」

「だったとしても、今は逃げることを優先しよう。僕のいうこと聞いて」

「…………爆弾魔は、見ているんじゃ無いか?俺たちのこと」



俺は、そう神津に零す。


神津はえ? と目を丸くし、辺りを見渡す。勿論、そんな近くにはいないだろうが、俺たちだけが会場に残っているのを見計らってか、アナウンスが流れた。俺たちが、事件を調べていることをもしかしたら犯人は知っているのではないかと。あくまで推測だが。

だから、俺たちがここから逃げたらへそを曲げて爆弾魔は他の爆弾を爆発させるかも知れないと。それに、ここの爆弾が解体できて、他の爆弾のありかも分かれば、助けられる命があるかも知れない。きっとパーク内はパニックになっているだろう。皆が皆避難できているわけでもないだろうし。



「頼む、恭。俺と一緒に探してくれ」



そう言って頭を下げれば、神津は困り顔で笑みを浮かべる。俺の性格を知っている神津は、本当に苦渋の決断の末「僕も行くよ」と力強く言ってくれた。



「じゃあ、手分けして探そっか。春ちゃん」

「ああ、爆弾を見つけても俺に言うんだぞ?一人で解体しようとするな」

「え~僕も出来るよ? 海外で、何個解体したと思ってんの」

「お前、警察でも何でもなかっただろ。俺もプロじゃないが……とにかく、見つけたら俺を呼べ、分かったな!」



りょーかい。と神津は返事をして、俺と別れた。

そして、俺はスタッフルームに入り、工具を探す。幸いにも使えそうなものはいくつかあり、もしもの為に鞄の中に入れていたのを含めると十分だろう。



(……最悪だな。神津の誕生日デートなのに)



起ってしまったものは仕方ないし、自分から言い出した手前今から逃げよう何て虫が良すぎる話だ。それに、警察だったときの自分だったら迷わずこうしていただろうという考えの基動いてしまった。悪い癖だと思う。



「さて、俺も探すか。神津にだけは見つけさせねえからな」




――――

――――――――



「矢っ張り、一番はシステム管理室かな……」



明智と別れ、スタッフ達の目をかいくぐりながら神津は爆弾を探して会場外の通路を走っていた。目指すはシステム管理室である。会場は明智に任せ、一番可能性のあるであろうシステム管理室にたどり着いた神津は、慎重にその扉を開けた。開かなかったらピッキングでもして開けてやろうかと、ポケットに入れていた工具に触れたがその必要もなかった。



(何か……可笑しい?)



そんな簡単に開くものなのだろうかと思いつつ、爆弾魔がここに爆弾を仕掛けていると言う可能性も考えられ、犯人の閉め忘れと言うことも十分考えられるため、神津はシステム管理室の中を覗きつつ、誰もいないことを確認し中にはいった。

中には誰もおらず、一番目につくところに爆弾らしきものが置いてある。黒い電子版に赤い数字が表示されおり、それはだんだんと減っていく。



「ビンゴ……取り敢えず春ちゃんと合流して」



そう、神津が振返った瞬間、扉がバタンと音を立ててしまった。出入り口には扉が閉まらないようにと、重しで止めていたはずなのにと、誰かが閉めたとしかいいようのない閉まり方をした。神津は慌ててドアノブを捻ったがびくともしない。外からも内からも鍵がかけられるようになっているが、内側は鍵穴がふさがれていた。この様子じゃ外側も同じようなことになっているだろうと、神津は眉間に皺を寄せる。



「困ったなあ、これは解体するまで出られそうにないや」



そう呟いて神津は、目の前に置かれた爆弾と対峙した。

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