テラーノベル
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「間に合ったな」
「間に合ってなかったりします」
ルーザーさんがコボルトロードを仕留めて手を差し伸べてくる。
手を掴み立ち上がるとコボルトロードの死骸が目に映る。あれを一瞬で倒してしまうなんて凄いな。憧れてしまうな。
『レベルが上がりました』
「あ」
経験値が遅れてやってきた。これで僕は3レベルか?
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
「え?」
更にレベルが上がる。それだけコボルトロードが強かったってことか。これで5レベル? 3レベルも上がった。
コボルトロードは本当に強かった。エクスが手も足も出ていなかったもんな。
「ん? ジャネット達は?」
「あ、僕が死んじゃってそれで帰っちゃったみたいで」
「え? 死んだ?」
ルーザーさんが不思議に思って問いかけてくる。素直に答えると彼は目をパチクリさせる。
「おいおい、死ぬってどういうことかわかってんのか?」
「わかってるに決まってるでしょ。だからさっき間に合ってないって言ったんですよ」
「ほんとうかよ……」
ルーザーさんが申し訳なさそうに俯く。
「本当に死んだのか?」
「あ~、はい。胸に穴空いて」
「そうか……」
彼は俯いたままコボルトロードの魔石を探しに行った。落ち込ませちゃったな。
「……ジャネット達がいないからなんだか寂しいな」
エクス達も一緒に魔石を取り出してる。その姿を見て羨ましく思ってしまった。
自分の不注意で死んでしまった。そのせいでみんなが帰っちゃった。ラリもなくなって呼び出せないし。赤い夜は明日にならないと起きない。はぁ~、寂しい。
「コボルト達の魔石も回収しないとな」
「コボルトロードの死骸はここで焼けば大丈夫そう。天井抜けてるし」
エクスの声にエミさんが答えてコボルトロードの死骸を焼いていく。
「あ、ムラタさん。今日は助かったよ」
「ほんとほんと。ありがとな」
「え?」
コボルトロードの最後を見届けているとエミさんが声をかけてくれる。斧を持っている男の人も嬉しそうにお礼を言ってくる。
「あ、自己紹介してなかったね。俺はクナ。君の仲間の赤い髪の女性が命をかけてコボルトロードを止めてくれなかったら危なかったよ。ジャネットって言ったっけか」
「俺はエンシャな。綺麗で強いなんて最強だな。美しい!」
斧を持っているクナさんと剣のエンシャさんか。
二人とも嬉しそうに僕の手を取ってお礼を言ってくる。なんだか嬉しいな。ジャネット達が彼らの為に戦ってくれたのが。
「ふう、重労働だな~」
コボルトロードを葬った後、地上に出てから再度洞窟に入ってコボルトの死骸を地上に運び出した。
ゲームや小説ではアイテムボックスとかマジックバッグのようなアイテムで全ての物をしまえる。だけど、現実は違う。
1匹1匹、手で運ばないといけない。こんなことをしたら死骸で嗚咽することもなくなる。疲れてそんなこと考えられなくなる。
「これで最後! ふう……」
「お疲れ様ですエミさん」
「ん、ムラタもね」
最後の1匹を運び終わるエミさんに声をかけると、彼女は答えてくれる。
「魔石を回収して稼ぎの分配だな」
「はぁ~、ほんと量があると疲れる」
エンシャさんの声にクナさんが項垂れる。これは本当に大変だ。
「77匹のコボルトとロードの魔石2個。これは金貨が動くね」
「ああ」
魔石を取り終わるとエミさんが嬉しそうに声を上げる。エクスは僕の見つめてくる。
「ロードの魔石一つはムラタの物だ。とどめはルーザーさんだが、確かに一度はジャネットが仕留めてたからな」
「あ、ありがとう」
拳程の大きさの魔石を手渡してくれるエクス。受け取ってお礼を言うと笑みをこぼす。
「お礼を言いたいのは俺の方だ。ジャネットがやってくれなかったら、俺が身を犠牲にしないといけない状況だった。本当にありがとう」
エクスは深くお辞儀をしてお礼を言ってくる。
もう【寄生先】なんて言ってきていた彼はいない。僕を対等に見てくれる彼しかいなくなった。なんだか嬉しいな。
「……よし! 埋めるぞ~」
ルーザーさんは感慨深くエクスを見つめると声を上げる。この後も重労働が待っているのでした。
「ハァハァ。は~、疲れる」
「日が落ちてきてるぞ。早く帰って酒飲みてえよ」
エミさんの呟きにエンシャさんが声を上げる。
コボルト達を全部埋め終わると日が落ちてきた。時間があっという間に過ぎ去る。
「戦っている時間の方が短かったな」
「あの量じゃあな。そうなる」
エクスの声にルーザーさんがため息交じりに話す。
みんなでオルクスの町へと歩き出す。やっと帰れるよ。
「それにしても魔道具か。【魔根の球】だったか?」
「はい。術者の命を使って魔物を量産する魔道具です。オルクスを狙った可能性がある」
「ん……。ってことはオルクスで寝泊まりして情報を得た可能性があるな。クリスに言ってギルドで宿屋を調べさせるか」
ルーザーさんが疑問を投げかける。するとエミさんが答えて、彼は考え込んで呟く。
なるほど、オルクスを調べて手薄そうだったから仕掛けたってことか。
魔道都市オルディナだっけ……碌な国じゃなさそうだ。
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