テラーノベル
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「わかりました。調べておきますね。皆さんありがとうございました。オルクスの危機を救ってくれて」
冒険者ギルドに帰ってきて報告するとクリスさんが満面の笑みでお礼を言ってくれる。少しはオルクスの為になることが出来たかな。
「よ~し! 宴だ宴だ! 俺のおごりでみんなで飲むぞ! ロードの魔石は金貨10枚。全部飲んで使わせてくれよ~!」
「げぇ!?」
魔石の換金を終えるとルーザーさんがそんな声を上げる。ギルドにいた別の冒険者達も喜んで声を上げてる。
僕は思わず怪訝な声を上げてしまった。そんな声を上げたらルーザーさんに目を付けられるというのに。
「おいおい、ムラタ~。俺の酒が飲めないっていうのか?」
「そ、そそそ、そういうわけじゃないんですけど~。お酒は酔わないくらい飲むのが好きで~」
「はっはっはっは……。酒は記憶を飛ばす薬だ。嫌なことをぶっ飛ばすな!」
「え!? ちょっと!? なんでもう手にエールが? うぷっ!?」
無理やりエールを僕の口に注いでいくルーザーさん。
エクスが彼にエールを手渡していたみたいだ。ニヤニヤしながら僕らの様子を伺っている。
「ちょっとルーザーさん! ムラタさんに酷いことをしない!」
「ん? なんだなんだ? クリスはムラタの何かなのか?」
「そ、そういう話をしているんじゃなくて! お酒がそんなに得意じゃない人もいるっていう話です!」
酔いでクラクラする中、クリスさんの抗議の声が聞こえてくる。
彼女はルーザーさん達と違ってお酒から生まれてきた異世界人じゃないみたいだ。僕を助けてくれる。
「大丈夫ですかムラタさん」
「あ、はい~……。らいじょうぶでしゅ」
疲れた体にすきっ腹、お酒がすぐに回ってくる。呂律が回らなくなってきた。
「……少し休みましょうね」
「え……」
その場で寝転んでしまった僕に膝枕をしてくれるクリスさん。とても柔らかい感触で睡魔が襲い掛かってくる。
「く、クリスしゃん。ね、眠くなってきてしまって」
「ふふ、じゃあ寝てもいいですよ」
優しいクリスさんの声に心を許してしまう僕。お言葉に甘えて目を閉じる。
「ははは、甘えん坊のムラタが沈んだ~。次は誰がつぶれるかな~」
ルーザーさんの声を最後に僕は意識を手放した。
『私が。私がオルクスを落とすんだ。それで研究成果を得るんだ。そうしないとルナが』
「……ここは? コボルトロードのいた洞窟?」
眠ったはずの僕はエコーのかかる声で目を開ける。そこは見覚えのある場所、僕の死んだ場所だった。
『魔根の球。これに私が命を捧げれば魔物が生まれる。それで妹のルナが助かる……。ルーンお姉ちゃんがあなたを助ける』
「……なんでこんなものが見えるんだ?」
洞窟と一人の少女の声。僕は何を見せられているのかわからずに呟く。
『あ!? ううっ。……ふふ、ごめんねルナ。また会うことが出来なくて』
魔根の球を胸に押し付ける少女ルーン。彼女は見る見るうちに白骨化していく。
白骨死体……これはあの白骨死体の記憶? なんで僕がそれを見てるんだ?
『ギャンギャン!』
魔根の球から沢山のコボルトが生まれ始める。これは今回の騒動の始まりの話? でも、なんで僕が見てるんだ?
「……朝? あれ? ここはハヤブサの宿の僕の部屋?」
朝日に気が付いて目を覚ます。するといつもの宿屋のベッドだった。
確か僕はルーザーさんに無理やりジョッキいっぱいのエールを飲まされて、クリスさんの膝枕で癒されて眠っちゃったんだよな。
「ん~、あ、ムラタさん。起きたんですね」
「ええ!? クリスさん!? どうしてここに!?」
体を起こすと隣で誰かが眠っているのに気が付いた。
恐る恐る布団を剥いでみるとクリスさんが寝ていた。僕は思わず服を着ているかどうかを確認する。大丈夫だ着てる。というか臭いな……。
「ん~? なんだなんだ? うるせえな~」
「って!? ルーザーさんも!? よくみたらエクスもいるじゃないか!? どうなってるの?」
ベッドだけじゃない。床にも寝ている人がいた。エクスとルーザーさんだ。
「どうなってるもなにもねえよ。早々につぶれたお前を運んで来たんじゃねえか。クリスがやれっていうから運んだんだよ。お陰で酒場でドンちゃん騒ぎが出来なかったんだぞ!」
「まあ、代わりにここでやったんだけどな」
ルーザーさんの抗議の声にエクスが付け足す。なるほど、ここで宴会をしたわけか……。ルルさんには謝らないとな。
「とにかく体を洗いたいな」
「と思ってもってきてやったよ。まったく、うちの客を巻き込んでのどんちゃん騒ぎ。金があるからいいものの」
体の匂いを嗅いで呟くとルルさんがお湯を入れる桶を持ってきてくれる。
洗濯もしてくれるみたいで服も手渡すと笑顔で答えてくれる。
「今日は休みだな。はぁ~、酒場にいって飲みなおすか」
「昨日は大変だったからな~。ギルドで犯人の調べがついたら更に忙しくなりそうだ」
エクスの声にルーザーさんが呟く。彼らは立ち上がって伸びを始める。
変な話だけど、夢の話をした方がいいかな。鮮明なうちに話しておきたい。
「その犯人の話なんだけど、おかしな夢を見て」
僕はそう切り出して話し出す。寝耳に水な話に三人とも首を傾げる。
「魔法使いの少女ルーンが妹ルナの為に魔根の球を使ったか……」
「恐ろしい話……」
「え? 信じてくれるんですか?」
ルーザーさんとクリスさんが納得して話を飲み込んでくれる。僕が思わず呟くと二人は真剣な表情で見つめてくる。
「当たり前だろ? もうお前は俺のパーティーメンバー、仲間なんだからな」
「ギルドとしてもムラタさんは信用のある方ですから」
ルーザーさんとクリスさんは素直にそう答えて頷いてる。エクスも同意して大きく頷いてるな。
「ということは魔道都市が関わっているのは確定か?」
「いや、まだわからない。その名前で調べてみないと。髪の色とかわかるかな?」
「えっと金髪のロングですね」
エクスの声にクリスさんが首を横に振る。彼女の質問に答えるとすぐに立ち上がって部屋の扉に手をかける。
「では皆さんはゆっくりしていてください。調べるのは任せてください」
「はい! お願いします!」
クリスさんはそう言って部屋を後にする。仕事のできる女性って感じでカッコいいな~。
「……ほんと不思議な奴だな~。ムラタは」
「ああ……」
エクスの呟きにルーザーさんも同意して呟く。二人は何も言わずに部屋を出て行った。何も聞いてこない二人に思わず笑みが零れる。普通は気になって聞いてしまう話なのにな。
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