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「それが……」
玄関先で咲良が顔を曇らせた。
背後では、急いで寝間着から着替えたと思われる瑞奈のお父さんとお母さんが、すまなそうな表情を浮かべて立っている。
「病院から帰ってきたっきり、部屋に閉じこもっちゃってて」
私にも事情が分からないんです、と咲良がため息交じりに呟く。
ここでは何だからあがって、と瑞奈のお母さんがリビングへと促してくれた。夜十一時を回っているのに、家にあげてもらえるのは、本当に申し訳ない。
リビングには団欒の余韻があった。でも、前回と比べて、僅かな緊張感もまたあった。瑞奈が部屋にこもっていることが関係しているのだろうか。
お父さんが瑞奈を呼ぶ。
俺が来たことは、瑞奈は既に気付いているはずだ。玄関ドアの手前で瑞奈の部屋を見あげた際に、部屋のカーテンが小さく揺れた。咲良の声も聞こえてきた。晴翔さん来たよお姉ちゃん、とお父さんよりも力強くドアをノックしている。
「ごめんね」お母さんがお茶碗と幾つかの小鉢を載せた木製トレーをテーブルに置く。「お夕飯まだなんじゃない。あり合わせのものだけど」
ありがたかった。
『ファンタジスタ』では何も食べていないし、新幹線乗車時も瑞奈のことを考え続けていたため飲まず食わずだった。それでも空腹レベルまでは達していないのか、動かす箸のテンポが途切れ途切れになる。
二階にいる瑞奈が気になってしようがない。何度か箸を置きかけ、今すぐ二階の瑞奈の部屋に踏み込みたい気持ちに駆られた。
衝動を抑えつつ食事を進めていた時だった。
二階の部屋のドアが開く気配があった。お姉ちゃん、と咲良が声をあげる。
俺は箸を動かすのを止めた。
とんとんとん、と階段をゆっくり降りてくる音がする。揺れる空気が伝播してくるみたいだ。鼓動が速まり、唾を飲み込むと、喉の奥に酸っぱさが残った。
足音がすぐ近くで止まる。
「ばかもにょ、来るのが遅い。へっへっへ」
腰に両手をあてた瑞奈は、破顔していた。