「アルス! 遅いと思って迎えに来たら。ただの洞窟じゃなかったのね」
ロードを倒して子犬と共に洞窟まで戻ってくるとシディーさんが心配して迎えに来てくれた。彼女は普通の洞窟だと思っていたみたい。
「遺跡? こんなものがモンドルの近くにあったなんて」
「洞窟との境目が変よ。まるで転移してきたみたい」
ルードとオリビアも心配して来てくれたみたい。洞窟と遺跡の境目を見て二人が不思議そうにしてる。
「まさか!? 遺跡ごと逃げてきたってことか?」
「逃げる? なにから?」
「さ、さあ?」
ルードが推測を話す。オリビアが首を傾げると二人はシディーさんを見つめる。
「はぁ~、そういうことを考えるよりもアルスの心配をしなさい。育て方間違えたかもね。ごめんねアルス」
「アイ!」
シディーさんが二人の頭を叩いて僕の頭に乗ってくる。
まあ、二人が関心を持つのもわかる。不思議な境目だもんな~。
「ワンワン!」
「この子犬は?」
子犬が尻尾をブンブン振って声を上げる。仲間に入れてと言わんばかり。ルードが首を傾げるとシディーさんが彼を見つめる。
「この毛。魔力を帯びてる。もしかして【フェンリル】?」
「え!? フェンリルって。【神獣】ってこと?」
「そうよ」
シディーさんの言葉に驚いて聞き返すオリビア。
フェンリルは僕でも知ってるよ。神話に出てくる狼のことだよね。そんな子がなんでこんなところに?
「ワンワン! クウ~ン!」
「あらあら、アルスに懐いてるのね~。うちで飼いましょうよ」
「え? ん~、まあ食い物は畑で作れるしな。いいんじゃないか?」
子犬がオリビアに抱かれる僕の足に頬ずりしてくる。かわいらしい様子にオリビアが飼いたそうに声を上げるとルードが頷きながら答える。
「ちょちょちょっと。神獣だって言ってるでしょ! そんな簡単に飼うなんてできるわけないでしょ!」
「え? なんで? ただの子犬じゃないか」
「だから子犬じゃないんだって言ってるでしょ。ルード、頭大丈夫?」
簡単に飼うというとシディーさんが困惑して声を上げる。神獣でもただの子犬に見える。ゴブリンに材料にされそうになっていたからな~。それにしてもあの儀式はなんだったんだろう? この遺跡が転移された経緯と何か関連があるのかな?
「とにかく、このままにはしておけないから結界を張っておくわ。お手柄ねアルス。称号も沢山手に入ったんじゃない?」
「アイ!」
「ふふ、可愛い。結果オーライね。でも、本当にごめんなさいね。今度からちゃんと確認してから指示するわ」
シディーさんの声に元気に答えると頭に乗って撫でてくれる。可愛い人に可愛いなんて言われると嬉しくなっちゃうな。シディーさんの方が断然かわいいのに。
「ワンワン!」
「バブバブ!」
子犬に乗っかって一緒に声をあげながら帰路を歩く。後ろで見つめてる三人は微笑んでくれる。
「あの子犬……。って子犬って呼んでたらダメだよな。名前を考えないと」
「そうね。本来ならアルスが考えた方が喜ぶと思うんだけど。言葉は分かっても話せないしね~」
ルードの声にオリビアが考え込む。確かに僕がつけてあげたいな~。
「俺達がつけてアルスが許可すればいいんじゃないか?」
「アルス? それでいいと思う?」
ルードの声にオリビアが聞いてくる。僕は頷いて答えた。いつまでも子犬なんて呼んでても可哀そうだしね。
「フェンリルだろ? フェンなんてどうだ?」
「それもいいけど、リルっていうのもいいんじゃない? 女の子みたいだし」
ルードのオリビアが名前を呼んでみる。僕はどちらもいいと思ったんだけど、子犬は首を横に振った。
「ふふ、二人ともダメね。【フリル】なんてどう? フェンリルのフとリルでフリル。可愛いでしょ?」
「ワンワン!」
シディーさんの提案を聞いて子犬が声を上げて尻尾をブンブン振る。明らかにさっきまでと反応が違うな。
「バブ!」
「アルスもいいみたいね」
僕も声を上げるとシディーさんが僕の頭に乗っかってくる。
「フリル。これからよろしくね」
「ワンワン!」
新たな家族、フリルが加わった。
でもいいのかな。こんなに幸せな家族を得られて。前世の記憶が思い出される。あんな不幸があったから、素直に喜べない。
「ルードさん。お客さんが来ていたよ」
「え? ルサンダさん? お客って誰ですか?」
「お貴族様だと思うんだけどね。あの馬車だよ」
モンドルの村に帰ってくると村の入り口で日向ぼっこをしていたお婆ちゃんのルサンダさんが声をかけてくる。
彼女の指さす方向を見ると綺麗な装飾がされている馬車が見える。とても高そうな馬車、馬も立派でとても凛々しい。
「あの紋章は【クレイトン家】の紋章か?」
馬車の紋章を見てルードが声を上げる。その声に答えるように馬車から人が出てくる。とても綺麗な金髪の女性が外で待機していた赤髪の女性騎士の手を取り降りる。絵になる光景だな。
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