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上野文
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#悲しい
シジミン
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kirisu
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畝澄ヒナ
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『録音データは調査資料として提出してもらいたいが、構わないか?』
『はい』
『では戻る前に、人事担当者のパソコンに音声データを送信してほしい』
『承知しました』
私は篠宮さんの言う通りにしてから、商品開発部のフロアに戻った。
**
そして今、私は涼さんの肩に頬を押しつけつつ、話を続ける。
「……それで帰宅したら、篠宮さんから謝罪のメッセージが入っていたんです。【あの場面では中村さんだけをひいきする事はできず、口頭注意となってしまってすまない。俺も今後、二度と朱里が同じ目に遭わないように気をつける】って」
「うん、そうなるね」
涼さんは私の肩を抱き、頷く。
くっついていると彼の体ごしに声が響いてきて、とても落ち着く。
「ヒアリングっていう事は朱里に盗聴の事がバレる訳で、……私が余計な事をした事も知られて……」
「そんなに悲観しなくていいと思うよ。朱里ちゃんだって、守られるだけの子供じゃないんだから」
「でも……」
「逆に恵ちゃんが誰かに陰口を叩かれていたり、盗聴器を仕掛けられて、朱里ちゃんがこっそり未然に防いでいたとする。水くさいって思わない?」
「……それは、確かに……」
「恵ちゃんに言うべき言葉じゃないかもしれないけど、もっと朱里ちゃんを信じていいと思うよ。君たち、俺が嫉妬するぐらい、お互いの事が大好きなんだから」
「そうですね」
あっさり頷くと、涼さんはガクッと項垂れた。
「……恵ちゃんさぁ……、朱里ちゃんへの愛情については、絶対に躊躇わないよね。俺に対しても、もっとまっしぐらでいいんだよ」
「いや、落ち着きました。ありがとうございます」
私は軽く会釈して涼さんから離れ、いつものようにパーソナルスペースを守った位置に座る。
「いつもの恵ちゃんに戻ってしまった……」
涼さんはソファの上で体育座りをしていじいじしたあと、不意に顔を上げて尋ねてきた。
「シルバーウィークに同窓会があるって言ってたよね?」
「はい」
「その頃に、実家に来てほしいなって思ってるんだけど、どう?」
「えっ!?」
突然な話をされ、私はスックと立ちあがり、広いリビングを歩き始める。
「あっ、ちょっと待って? そこまで悩む事かな!? 以前からなんとなく話をしていたつもりだけど……。あっ、恵ちゃん待って……!」
私があまりにスタスタと早足で歩くので、慌てた涼さんは立ちあがってついてくる。
第一回、三日月邸競歩大会の始まりだ。
「ついて来ないでくださいよ。カルガモの赤ちゃんじゃあるまいし」
「だって、恵ちゃんがどっか行きそうで!」
「考えを整理するのに、体動かしたほうがいいでしょう。別に外に行くって言うんじゃないんですから」
「待ってよ恵ちゃん」
最初はスタスタと無心に歩いていたけれど、そのうち考えが纏まってくる。
窓側の一人掛けソファに腰かけた私は、横向きに座って夜景を眺めつつ言う。
「……別に、反対はされていないんですよね?」
隣のソファに腰かけた涼さんは、胡座をかいてニンマリと笑う。
「当然だよ。反対されてたら、俺はとっくにクーデター起こしてるからね」
「うわぁ……」
冗談で言ったんだろうけど、彼ほど能力のある人が社内クーデターとか起こしたら、とんでもない事が起こりそうだ。
「……それでさ」
涼さんは私を見つめつつ、何だかいつもらしくなくモジモジしている。
「トイレ行きたいならどうぞ」
「そうじゃなくて! …………そ、そろそろ、婚約指輪とかも考えないかな!?」
「…………オウ…………」
いきなりなド直球がきて、私は思わず外国人のような驚き方をしてしまった。
「分かってるよ!? 佳苗さんが言った一年には、まだまだ満たない。でも……、〝約束〟の形があると俺も安心できるっていうか……」
彼らしくなく照れて焦っている様子を見ると、何だかおかしくなる。
「普通、逆じゃないですか? 涼さんが選ぶほうなのに」
「何言ってんの。俺はいつも、恵ちゃんに捨てられないように必死だよ」
まじめな顔で言われ、不覚にもジワッと赤面してしまった。
コメント
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わあ、すごく甘くて温かいお話でしたね😊 涼さんの「捨てられないように必死」っていう真剣な告白、胸にきました…。普段あんなに頼もしい彼が不意に見せる弱さが、二人の信頼の深さを感じさせてくれます。それに「競歩大会」ってタイトルがまさにこのシーンを表していて、思わず笑っちゃいました。恵ちゃんの戸惑いも、涼さんの一途さも、すべてが愛おしい回でした🫶