「俺はやっぱりノーマルが好きですかね…」
「ノーマル?シンプルすぎじゃない?」
「そう言うリュロスさんは何が好きなんですか?」
「やっぱり僕はこれが一番かな〜」
そう言いながらリュロスさんが指差した先に
あるのは薄い水色の雲。
さっき俺も食べたけど、
感想を一言で言うのならば『口の中が騒がしかった』で済むことだと思う。
この雲は外側にパチパチとした口の中で弾けるキャンディーがパラパラと降り掛かっており、
中にはホイップクリームが嫌という程にたっぷりと敷き詰めてあった。
こう見えてリュロスさんって結構甘党なのかもしれない。
そう思いながらリュロスさんを眺めていると
「何?恥ずかしいんだけど…」
と照れくさそうに顔を隠していた。
「そういえば音寧ちゃんが言ってましたけど、雲って乗れるんですか?」
微かに俺が気になっていたことだった。
食べれるってことは乗れもしそう。
そう思ったからである。
「もちろんだよ?」
「乗ってみる?」
乗ってみたい…
が、俺はあいにく高所恐怖症なんだ。
「いや、遠慮しとく」
「そう?」
そう言いながらリュロスさんは
俺の顔を見てにこにことしている。
しばらくすると
「朔斗〜!!」
「音寧ちゃんが雲選び終わったから次のとこ行こ〜!!」
次のとこ行こって…
音寧ちゃんはどうするのだろうか。
「そこのおにいさん!!」
「わたしはだいじょーぶですよ!!」
「このくもにのってひとりでかえります!!」
そう言いながらへへんと威張るような仕草をする。
「さっきからこう言って聞かないからそれ通りにしよっかなって…」
珍しい。
灯が引くなんて。
「別にいいけど…」
「ていうか2人は何してたの?」
「え?普通に────」
俺が喋り始めようとしたその時、
リュロスさんの手が俺の口を塞いで
続きを喋れなくした。
「秘密です」
そう言いながらリュロスさんは自身の口に
人差し指を当てる。
「…怪しい」
ジトリとした目で灯は俺を睨みながらも
「次の家行っちゃおうっか」
と言う。
「じゃ、音寧ちゃんばいばーい!!」
「ばいばいです!!」
なぜかソリに乗る際、
俺と0番さんの席が入れ替わることになった。
原因はリュロスさん。
しかもソリの移動中、
ずっと俺の手を握っている。
男同士でこんなこと…
なんか嫌だ。
「リュロスさん、そろそろ離してくれませんか…?」
「うーん…、呼び方変えてくれたらいいよ?」
にこりと笑いながらそう言う。
が、
呼び方なんて早々、変えれるものではない。
しかも年上相手になんて。
「例えば『リュロスさん』じゃなくて『リュロス』とか」
「同い年なんだから別にいいでしょ?」
は?
同い年?
「え?」「やっぱり勘違いしてた?」
「僕、朔斗くんと同じ高校一年生の16歳だよ?」
勘違いも何も…
全然大人っぽすぎて何が何だか…
「じゃあ…リュロスで……」
「それがいいよ朔斗くん!」
ていうか俺に呼び捨てで呼ばせといて自分はくん付けとかずるいだろ。
そう思っていると
「あ、間違った」
「朔斗だったね」
と言う。
キラッキラな笑顔を俺に向けながら。
とんだ悪魔だ。
天使の化けの皮を被った悪魔。
「こんにちは!!僕は夏津って言います!!」
壁を通り抜け、
家に入ると玄関に立っていたのは夏津という
名前の元気いっぱいな男の子。
「こんにちは!」
「頼んだのは確かスライムだったよね」
「あとファンタジー世界の魔物を飼いたいだったっけ?」
そう灯が聞くと
「そうです!!」
と満面の笑みで答えた。
「じゃあ行こっか創造獣園に」
「そうぞーけものえん?」
夏津くんの頭の上に何個ものハテナが
浮き出されているように夏津くんは灯の言葉をオウム返しする。
創造獣園に着くと
「まず、この鍵とこのタグをあげるね」
そう言って灯は夏津くんに言った通りのものを渡した。
「この鍵、回してご覧?」
そう灯が言うと夏津くんは言われた通りに
小星型十二面体のキーホルダーがついた鍵を
空間に差し込み、回した。
すると予想通りに空間には歪みが現れた。
「これ、何…?」
不思議そうにする夏津くんに灯は
「夏津くんだけのスペースだよ!!」
と言いながら歪みに夏津くんを押し込んだ。
「わっ!!」
中はだだっ広い草原があり、
夏津くんの足元にはファンタジー漫画の世界で見るようなスライムが居た。
「わぁ!!スライムだ!!」
「もしかしてこれがプレゼント?!」
「これ “ だけ ” じゃないよ」
二カッと歯を見せる灯。
「夏津くんにはこのスペースの管理人の権限をあげるよ」
「まぁ、簡単に言うと創造獣園の管理人だよ」
「本当に?!」
「うん」
「やったぁ!!」
その後、
色々と説明した後あのスライムの名前は『パニ』に決まった。
「本当にありがとうございます!!」
そう言いながら夏津くんは灯の手を握る。
今回、俺は特に何もしてない。
けど、何だかいい気分だ。
「これで最後かな〜」
リスト表を見ながら灯は寂しそうに呟く。
「次って何だっけ?」
そう俺が問うと
「魔法本だよ」
と返される。
「私の番だね!!」
『やっとか』と言わんばかりに嬉しそうにするルーナさん。
「ほわぁぁ!!!本当の魔女だ!!!」
興奮気味にしながらルーナさんに抱きつく流海くん。
「魔法使えるんですか?!」
「見せてくださいよ!!」
ルーナさんの裾を引っ張りながら催促する。
「えっと…」
ルーナさんは『どうすればいい?』とこちらに目で訴えていた。
「流海くん、初めまして」
「私はサンタさんだよ」
「今から魔法本を探しにこの、本物の魔女であるルーナさんと一緒に図書帝国に行かない?」
そう灯が言うと
「行く!!絶対行く!!」
と飛び跳ねながら喜んでいた。
「じゃあ着いてきてね」
そう言った後、
灯は本のキーホルダーがついた鍵を空間に差し込み、歪みを露わにする。
「一緒に行きましょ!!」
ルーナさんにメロメロになってしまった
流海くんはルーナさんと手を繋いで歪みに中へ消えていった。
ちなみに俺の左手を繋いでるのはリュロス。
さっきまでソリで待ってるっていう
雰囲気だったのに、
急に『心変わりした』とか言い出してきて…
歪みを通った先は『図書帝国』という名に
相応しいほどの大きさの図書館の姿があった。
「朔斗!!私とルーナさんで流海くんの対応してくるからリュロスと好きにしてて!!」
そう言って灯たちは遠くへ行ってしまった。
さっきからやけに俺とリュロスを一緒にしてる気がする。
意地悪的な…
そんなことを考えながら横目でリュロスを見ると
俺に微笑みを向けるリュロスの姿があった。
「朔斗もせっかくだから魔法本探しに行こっか」
そう言いながら俺の手を引っ張って
どこかへ連れていく。
「これとかどう?恋の魔法本」
「恋とか別に…」
「じゃあこれは?天気魔法の本!」
「自由自在に天気を変えれるって!!」
「天気変えても別にな…」
「じゃあこれは?!」
なんかやたら本を勧めてくる気がする。
ふと棚にあったある本に目が留まる。
『鍵の本』そう表紙には書いていた。
「鍵の本?へ〜、不思議だなぁ…」
そう言いながら俺が持ってた『鍵の魔法本』を手に取ってページをペラペラとめくる。
「鍵ね…」
俺の顔と鍵の本を交互に見ながらそう呟いた。
「朔斗はなんか魔法本借りたの?」
「いや、借りてないよ」
「ふ〜ん…」
聞いといて興味無さげに返事しないで欲しい。
「流海くんは何貰ったの?」
そう俺が聞くと
「これだよ!!見て!!」
そう言って俺の顔面0距離で本を見せてくる。
「ちょ…」
そう俺が言ったと同時に
「魔法図鑑じゃん!懐かし…」
と言いながらリュロスがその本を取って読む。
「懐かしい…?」
「あ、何でもないよ」
「こっちの話」
こっちの話…
ちらりと灯を見るとリュロスを少し睨んでいるような気がした。
リュロスってもしかして口が滑りやすい?
流海くんと別れた後、ルーナさんは帰った。
そして俺達もフェリスキャリーに帰った。
「ふー…、疲れたね〜」
そう言いながら灯はソファに腰を下ろす。
「今がいいんじゃない?」
そう耳元でリュロスに言われ、
「灯、あのさ…」
と話を切り出した。
「ん?」
「俺、欲しいものがあって…」
「あ、そういえば朔斗の欲しいもの何って聞いておこうと思ってたんだよね〜!!」
「朔斗、何が欲しい?」
「勇気…」
「勇気?」
「うん」
「まぁいいけど…」
「そんなんでいいなら…」
「じゃ、目瞑って?」
そう言われ、俺は目を瞑る。
と、灯が何かを唱えているような声が聞こえる。
とほぼ同時に俺の心の奥が仄かに温かみを帯びた気がした。
「いいよ、目開けて」
「どう?」
いまいち変わった気はしないな。
「分からない…」
「ていうかクリスマス、終わっちゃったね〜」
「朔斗、帰る?元の世界に」
あぁ、もうお別れか…
何だか時間が経つのが早かったな…
「送ってくよ」
「あ、その送るやつ僕がやってもいいかな?」
急にリュロスがそう言い始め、
俺も灯も目を丸くして驚く。
「え?別にいいけど…」
「じゃ、朔斗ばいばい!!」
そう言いながら俺を抱きしめる灯。
なんだか気恥ずかしい。
あの日、
灯と出会った道までリュロスが送ってくれた。
「ここら辺でいいよ」
俺がそう言うと
「じゃあ、これ、貰ってくれる?」
そう言って猫のキーホルダーがついた鍵を
俺に渡した。
「これ首に付けれる鍵だからさ…」
そう言いながらそれを俺の首にかける。
「これなんの鍵?」
そう俺が問うと
「いつか分かる日が来るよ」
と言いながら笑う。
その後、リュロスは姿を消した。
魔法で消えたように。
𓈒𓂂𓇬
俺は高校二年生になった。
あのクリスマスの日はいつまでも忘れられない思い出となっただろう。
「仁草 朔斗です。趣味はスノボです」
俺は言えなかった自分の趣味を言うことに
成功した。
それから運が良かったのか、
俺の新しいクラスにはスノボ好きが多く、
友達もいっぱいできた。
あの日、
あの時、
関わった人全員に感謝しないとな。
それと、この鍵はいつまでもお気に入りだ。
「朔斗〜?何してんだ?先に行っちゃうぞ〜!」
「ごめんごめん〜!!今行く〜!」
そう言って俺は友達の方へ走って行った。
__𝐹𝑖𝑛.