テラーノベル
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あなたが村を出てから、二度目の夏が来ました。
拝殿の縁側に座って、この手紙を書いています。川のせせらぎが聞こえます。下流から吹いてくる風に、ほんの少しだけ街の匂いが混じっているような気がして、何度も深呼吸をしてしまいました。きっと気のせいでしょう。この盆地を囲む山々は、夏の湿気をたっぷりと溜め込んで、空を低く押し下げています。
あなたが川沿いの道を下り、街の高校へ進学してから、もう二年が経ちました。先月もらった手紙に同封されていた写真のあなたは、セーラー服のリボンがよく似合っていて、少し背が伸びて、大人びた顔をしていました。誇らしいような、けれどどこか遠くへ行ってしまったような、複雑な気持ちになりました。
私はあの日誓った通りに、中学校を卒業してそのまま神社に残り、父のもとで神主の見習いをしています。朝は境内の掃除から始まり、夕方には鳥居のしめ縄の手入れ。あなたが去ったあとも、この村の時間は変わらず静かに流れている――そう見えるかもしれません。
でも、本当は違うのです。
この手紙を書いたのは、近況報告のためだけではありません。あなたと離れて二度目の夏を迎え、私の中で一つの決意が固まりました。あなたが知っている「私たちの村」の姿と、私だけが知ることになった「この村の本当の姿」について、すべてを明かそうと思います。
長い手紙になってしまいますが、どうか最後まで読んでください。これは、私がなぜあのとき、あなたと一緒に街の高校へ行く道を選ばなかったのか――その本当の理由でもあります。
まずは、あなたも幼い頃から嫌というほど聞かされてきた、我が村の「公式な歴史」から振り返りましょう。小中学校の郷土学習の時間に、父が語り部として何度も教室に来ていましたよね?
今からおよそ八百年前の平安時代の終わりごろ。諸国を巡っていた高徳の神職・顕慶が、この深い山々で道に迷い、悪天候の中で困り果てていました。立ちすくむ神職の前に、突然、闇を切り裂くように光り輝く巨大な「大蛇」が現れたと伝えられています。
大蛇は神職を導くように山肌を滑り、やがて険しい岩壁を砕いて、山々に囲まれた温かい隠れ里――つまり、いま私たちが暮らしているこの丸い盆地へと導いたのです。
神職は大蛇の霊性に深く感謝し、この地に留まってお社を建て、大蛇を瑞祥の神「白蛇大明神」として祀りました。それが我が神社の始まりであり、神職の弟子たちが代々「神官」としてこの地を守ってきたのが、私の家の成り立ちです。
外の世界から遮断された盆地。上流からは澄んだ山水が注ぎ、下流へ伸びる一本の川沿いの道だけが、外界とのつながりを保っています。私たちは閉鎖的ではあるものの、肥沃な土地と豊富な水に恵まれ、大蛇の加護のもとで数百年の平和を享受してきました。
「神聖なる大蛇が鎮まる隠れ里」
それが、あなたも、村の誰もが信じているこの村の正統派の歴史です。
ですが――。
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あなたが川を下り、村の外へと旅立ったあの日。私は父から神社の最奥にある倉庫「禁足庫」の鍵を渡されました。神主を正式に継承する者だけが閲覧を許される、我が家に代々伝わる文書『白蛇陰秘録』を開くために。
そこに記されていたのは、あなたが知る美しい伝承とはあまりにもかけ離れた、目が回るような「おかしな真実」でした。
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