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#ダンジョン
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――インフェルノ。
暴虐に満ちた理不尽なその世界は、おおよそ生物が生きるには難しい環境である。
人間界のように太陽はない。昼間と言う概念もない。常に夜で、唯一の光源は不気味に赤い月のみ。
だというのに気温は異常に暑く、常にジメジメとしていた。
植物などほとんどない。どこまでも続く荒れ果てた大地と、微かに沸く水がこの世界の全てだ。
当然、そんな世界に食料が発生することはない。
人間界のように植物もないので、それを食べて育つ動物もいないのだ。
では、その世界に住まう者達は何を食べているか。
彼らは皆、『住人』を食べて生きていた。
インフェルノは、流刑の地としてよく利用されている。
あらゆる種族の荒くれ者や罪人が行きつく、まさに地獄だ。
生きるために共食いし、弱者を蹴落とす。
真なる強者のみが生を許される、暴虐の世界。
そこを統べる『破壊の魔王』常に飢えていた。
「不味い……力もない上に、味も悪い。てめぇらの存在価値はなんだ? 雑魚どもが」
どこまでも広がる荒野の一角に、異質な空間がある。
無数の屍が山のように積み上げられたその場所で、屈強な巨人が死体を喰らっていた。
今、インフェルノは魔王の食事時間だったようだ。
隠れることに失敗した弱者は、今日も魔王の血肉となる。
屈強な巨人の魔王は、尋常ではない数の住人を貪っていた。
この世界では繁栄という概念はない。何故なら、住人なら外の世界からいくらでもやってくるからだ。
故に、魔王は殺す。
微塵のためらいもなく、目についた住人に襲いかかる。
そんな魔王から逃げる、あるいは撃退することが、インフェルノにおける生存権の獲得方法だ。
自然、生き延びる者は強者のみとなり、魔王の僕として仕えることを許される。
魔王の隣に跪くエルフも、魔王の僕の一人だ。
エルフの世界で罪を犯し、インフェルノで魔王に認められ、生存権を得た側近に近い男である。
「魔王様、お食事中に申し訳ありません。ご報告があります」
「発言を許す。言え」
「人間界より、人間の侵入者です」
人間。その単語を耳にして、魔王は食事の手を止めた。
「人間……珍しいじゃねぇか」
人間界は魔王が侵略を試みて、何度も失敗を重ねている因縁の場所だ。
人間側は破壊の魔王をへたに刺激しないよう、罪人さえもこの世界に行かせない。禁忌の場所としている。
故に、人間界から侵入者が来たと聞いて、魔王は嬉しそうに笑ったのだ。
「フハハハ……殺す。ちょうど、怪我も癒えてきたところだ。今回の侵入者を八つ裂きにして、ついでに人間界も滅ぼしてやるか」
喰らっていた死体を放り投げ、破壊の魔王は立ち上がる。
「下僕どもを集めろ」
「承知しました。すぐに集めます」
エルフは指示を受け、早速その場を消えた。エルフに伝わる古代魔法である【転移魔法】を使用して消えたのだ。
ちょうど、その時である。
「あ、いた」
「ひぃいい……ちょっ、なんであたしまで!?」
エルフと入れ違いで、二人の人間が姿を現したのだ。
(転移魔法か? 人間が? 何かアイテムでも使ってんのか?)
いきなりの出現に魔王は顔をしかめるが、と見つける手間が省けたので深くは考えなかった。
「死ね」
いつものごとく、冷静に。
息をするかのように、敵を殺す。
そのために、破壊の魔王は『オリハルコン』のハンマーを振り下ろした――
「パンチ!」
――最初、魔王は何が起きてるか理解できなかった。
魔王のハンマーの一撃に、人間の男が無謀にも拳をぶつけた。あまりの愚行に鼻で笑ったところまでは理解できている。
しかし、次の出来事――自分の腕が吹き飛んでいることは、魔王にまったく理解できなかった。
つまり、破壊の魔王の一撃は……たかだか人間のパンチに負けた。
それどころか、パンチの威力に右腕が耐え切れずに、吹き飛んだ。
「な、なんだこりゃぁああああああああ!?」
その事実を理解すると同時に、魔王は混乱と恐怖による叫び声をあげるのだった――