のだわな 光に包まれて
暖かく幸せな朝
(ほとんど喋ってない。文章だけ)
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ぽかぽかと暖かく、けれど風の運ぶ空気は澄んでいて、スッとした清涼感のある背筋の伸びるようなそんな気候。
空は高く、青く、白い雲がよく映える。
床に射し込む陽の光はじんわりと室内を温めてくれる。
小春日和
その言葉がしっくりとくるような日だ。
野田と和中が同棲を初めて早2ヶ月。
漸く、二人の休日が重なった。
この日は二人揃っていつもよりも遅い時間に起床した。
けれどベッドの中から出ることはしなかった。
決して小柄ではない大の大人で、しかもそれが二人という事もあり、二人が堂々と寝転がっても少し余るサイズの大きなベッドが置いてある。
この大きなベッドの上で身を寄せあい、時に離れ、本を読んだり雑誌を見たり、思い思いの時間を過ごす。
久しぶりの、穏やかで和やかな時間を2人は存分に噛み締めていた。
時刻は10:30過ぎ。
和中は、上半身を起こし座って雑誌を読んでいた野田の胸元に身を預け、彼の読む雑誌をぼんやりと眺めていた。
時折頭を撫でられる感触が心地良く、そのまま再び眠りに落ちそうになってしまう。
そんな甘い誘惑を振り切り、和中は一つ伸びをしてベッドから降りた。
野田は、触れていた温もりが消えた事に寂しさを覚え、チラと和中に視線を投げかける。
和中はいつもの鮮烈な赤とは違う、シンプルな白のシャツを取り出すとラフに羽織っていた。
白い肌に色素の薄い金色の髪、そこに白いシャツを纏う彼は透けるように美しく、彫刻を思わせるかのようだった。
しかし彫刻とは違い、柔らかさと温かさのある彼は幸せの象徴のように思えた。
和中は野田を見つめると小さく微笑んで、そのまま寝室を後にした。
それから後を追うように野田が洗面所に行くと、和中は洗濯機を回し始めていた。
野田は洗顔を済ませると、リビングへ向かった。
トーストを焼き、軽い朝食の準備を済ませる。丁度テーブルに並べ終える頃、和中もリビングへやってきた。
互いに言葉はないまま朝食をとるものの、それは刺々しい張り詰めた空気ではなく、時折目が合えば柔らかく笑い合う。そんな朝のまどろんだ空気のままのゆったりとした時間だった。
食器たちを食洗機に任せ、コーヒーを淹れると、二人分のマグを持ち、ソファで寛ぐ和中の隣に腰掛ける。
ぽつりぽつりと会話をしながら、なんとはなしに点けていたテレビを眺めていると、隣からスースーと小さな寝息が聞こえてくる。
こちらに凭れ掛かるようにして眠りに落ちた和中はいつもよりあどけない表情をしていた。
和中の座る側と反対の手を伸ばしその頬を撫でると、スリスリとその手に頬を寄せてくる。
その姿がなんとも愛おしく、野田は指で優しく頬を撫で続けた。
ピーピーという機械音が聞こえてくる。
洗濯が完了した事を告げる音だ。
野田は和中を起こさない様そっと離れると、ブランケットを掛けてやり、洗面所へと向かった。
カラカラと窓を開けると、ふわりとカーテンが揺れる。
部屋に入り込んだ風は心地良く、胸に深く吸い込むと身体中に染み渡る。
晴れた秋空に洗濯物を干してゆく。
はたはたと風に揺れ音を立てる洗濯物たち。
こんな当たり前の日常でさえ、自分達にとっては当たり前ではなくて。
あと何回こんな当たり前の幸せを感じる事が出来るのだろうと、野田は柄にもなく感傷的になった。
振り返り、ソファで眠る和中を見つめる。
ーーそれでも、こいつがいれば
真っ当な人間の幸せとは形が違うかもしれないが、こいつとなら、どんな時間も幸せに違いない。
そう結論づけた野田は網戸を締め、和中の額に一つキスを落とした。
その後、大きな音を立てない様に部屋の掃除を軽く済ませ、ベランダへと続く窓の脇に置いてある観葉植物に水をやる。
そのまま窓際の床へと座り込むと、外の景色を眺めた。
外の景色といっても見えるのは先程干したばかりの洗濯物と空のみ。
それでもそのままぼぅっと眺めていると、背中に重みと仄かな体温を感じる。
野「起きたか」
和「んぅ…」
野「眠いならベッドで寝るか?」
和「んー…」
否定とも肯定とも取れないが恐らく否定だろう。
ぐりぐりと野田の背中に額をこすりつけた和中は、野田の横へと移動し、同じように床に座った。
手に持っていたブランケットを自分と野田の足に掛ける。
半ば抱き着くような形で野田に身を寄せた和中はチラリと上目遣いに見上げる。
目が合うと『ふふ』と小さく楽しそうに笑い、更にくっつこうと身の置き場を探し、そして、落ち着く場所を見つけたらしく、野田の肩口に頭を乗せるとそのまま動かなくなった。
野「なんじゃあ。今日はくっつき虫か」
和「たまには構わないだろ」
野「今日だけじゃなくいつでもウェルカムじゃあ」
和「…ん」
こう言っても和中はきっと甘えてこない。
それならば、こうして彼が甘えたい時位、思う存分甘やかしたい。好きにさせてやりたい。
車の音、鳥の声、元気に走り回る子供の声
そしてトクトクという互いの心臓の音。
なんの変哲もない、日常の音がそこにはあった。
和中の瞳は空を映していた。
紅い色が涼やかな色を帯び、陽の光にキラキラと光っている。
野「和中」
和「…ん?」
彼を呼ぶと空を見上げたまま返事が届く。
野田は少し身体をずらし身を乗り出すと、彼の視線を遮るように口付けた。
唇が離れると至近距離で瞳がぶつかる。
その瞳には自分だけが映っていた。
そのまま彼の頬に手を添え、再び口付けを落とす。
ちゅっ、ちゅとリップ音を立てながら唇を堪能していると、そっと和中の手が野田の手の上に添えられた。
キスを求め軽く上を向いている和中の白い首筋がまばゆく、ツーっとそこに指を這わす。
ビクリと肩が揺れる。
ゆらゆらと揺れる瞳に淡い期待を見つける。
野田は和中の唇を塞ぐと、そのままゆっくりと共に床へと倒れ込み、その身体を優しく抱き締めた。
和「…野田」
野「なんじゃあ?」
和「その、さすがに…」
野「わあっとるわ」
和「ん、そうか…」
陽の光が射し込むそこで互いの温もりを、存在を感じながら微笑み合う。
今この空間には2人だけ。
世界の何者にも干渉されない二人だけの時間。
淡く穏やかでシャボン玉のように軽やかで。
そしていつかパチンと弾けてしまいそうな、そんな危うさを予感させるような時間。
季節の移ろいとそこにある当たり前の音を感じながら、二人にとって大切で幸せな、心安らぐ今という時間を噛み締めた。
コメント
3件
言葉のセンスがハンパないですね…