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朝のチャイムが鳴る。七瀬は教室の隅に座り、机の上に両手を重ねて深呼吸をする。
今日も、あの「影」が近くにいる――そう思うと、胸がざわつく。
悠真が少し前に教室に入ってきて、軽く手を振った。七瀬は小さく返事をするだけで、目を伏せる。
美咲のことを考えると、悠真にまで迷惑がかかるのではないかと、緊張が止まらない。
授業中、スマホはバッグの奥に隠す。通知音が鳴るたび、心臓が跳ねる。
『今どこ?』
『誰と話してるの?』
すぐには見ない。七瀬は沙也加との約束を思い出す。
「今日は強くなるんだ」と自分に言い聞かせる。
しかし休み時間、教室を歩く美咲の姿が目に入った。友達と笑いながらも、目が七瀬を探している。
「……まただ」
恐怖と怒りが入り混じる。周囲の視線も気になり、息が詰まりそうになる。
美咲はクラスメイトに話しかけ、七瀬の行動を探っているのだ。
昼休み、沙也加と二人で屋上に逃げるように上がった。
「やっと一息つけるね」
七瀬は笑顔を作るが、心の奥はまだざわついている。
悠真の存在も気になる。美咲の仲間に話が伝わっているかもしれない――それが怖くて、何度も背後を振り返る。
「七瀬、大丈夫?」沙也加の声に、七瀬ははっとする。
「うん……大丈夫」
でも、教室に戻ると、またスマホが震えた。見ると、美咲からの未読メッセージが何件も。
《今、誰と話してるの?》
《悠真と話したの?》
《ねえ!!返事してよ!!見てるんでしょ!!》
七瀬は震える手でスマホを閉じる。返事はしない。
今日はもう、誰の連絡にも答えない――それが自分を守る唯一の方法だと思った。
放課後、教室のドアを開けると、美咲が窓の外を見ているのに気づく。まるで七瀬を監視しているかのように、視線が鋭い。足がすくむ七瀬。
「……やっぱり、逃げられない」
沙也加と帰る途中も、七瀬は何度も振り返る。背後にいるかもしれない影。
美咲は諦めていない――その事実が、七瀬を恐怖に突き落とす。
家に帰ると、七瀬はベッドに倒れ込み、涙がこぼれる。
「もう、誰も信じられない……」
けれど、心の奥で小さな声が言う。
「でも、私は逃げない。沙也加や悠真を守るためにも、強くならなくちゃ」
七瀬は震える手でスマホを握りしめ、深呼吸をする。
まだ戦いは続く――でも、逃げずに立ち向かう覚悟を固めた瞬間だった。