「…お邪魔します。」
「どうぞー、散らかってるのは堪忍してなー」
そう言われて入った家は別に散らかってるわけではなかった。3人で住んでいるという家は丁度いい広さで温かい雰囲気が流れていた。
「今日誰がご飯担当だっけ?」
「今日は康二だろ。」
「せやったなぁ。何作ろ…」
楽しそうに喋っている3人を見ていると自分が邪魔に思えてきて、部屋の隅っこに体育座りをして顔を膝にうめる。すると、そんな俺の様子に気付いた3人がこっちに来る気配がした。
「舘さん?どうしたの?頭痛い?」
「…」
「…舘さん?大丈夫すか?」
「…」
「宮舘くん?言わな分かんないよ?」
「……ま…ゃな、い…すか?」
「ん?何て?」
「…俺邪魔じゃないですか?」
「「「…はい?」」」
困惑した声を出す3人をよそに続ける。
「…3人とも楽しそうだったから。邪魔にならないようにって思って…でも邪魔でしたよね。俺帰るんで…っ」
「ちょ、待って舘さん!」
目黒さんの制止を振り払って勢いよく立ち上がると、強い頭痛の波が襲ってきた。
「~っい゙ぃっっあ゙…」
あまりの痛さに膝から力が抜けて地面に倒れ込む。床のひんやりとした感覚が肌に伝わった。目の前が暗くなる。周りがうるさい。気持ち悪い。痛い。…痛い痛い痛いっ…
「目黒さ…ラウー、ルさんっ…向井さ、ん…」
助けて欲しくて必死に手をのばすと触れる温かい手。俺の手は僅かにカタカタ震えていてそれを包み込むように手を握られる。その感覚に酷く安心して、俺は意識を飛ばした。
寒気で目を覚ます。体は震え、歯がカチカチと音を立てた。寒いはずなのに暑くて生理的な涙が溢れる。そしてやっぱり頭が割れるように痛い。床で倒れたはずなのにベッドの中にいる。外は真っ暗で太陽すら昇っていない。ここまで絶不調になるのは久々で、恐怖すらある。必死に寒気や頭痛に耐えていると、横から静かな声が聞こえた。
「…あ、起きました?」
「…目黒、さん…?」
「はい。体調、どう悪いか言えますか?」
「…っ…」
言わないと。言わないといけないのに生理的な涙が邪魔して声が出せない。
「…言えなさそうですね。…一旦熱はかりましょうか。」
そう言って目黒さんは俺の脇に体温計をさしこんだ。そして手を俺のおでこにあてる。
「あちぃな…これで震えてるとなると…」
目黒さんがぶつぶつ何か言っているが、回らない頭では処理できない。そうこうしているうちに体温計がなり目黒さんがそっと取り出した。
「…うっわ…どうしよ…」
「…っ、めぐ、ろさ…」
「…!舘さん、喋れます?」
「…しゃべれ、ますっ…」
「じゃあどこがきついか教えてください。」
「…頭、痛い、寒いっ、熱ぃ…」
「…ありがとうございます。…うーん、どうしよ…」
目黒さんが固まっていると、後ろから2人がきた。
「めめー、舘さんどう?」
「あ、ラウールと康二。今起きてるよ。」
「ほんまや。宮舘くん…って泣いてんなぁ…」
「…っぅ…むかい、さん…ラウール、さん…」
「…舘さんキツそうだね…」
「体調は?」
「やっぱり頭が痛いみたいで、後寒いのと暑いって言ってる。」
「重症やな。…夜間病院行く?」
病院。その言葉を聞いた俺は慌てて向井さんの手を掴んだ。
「…っ、やめてっ…」
「ちょ!?宮舘くん!?」
「お金、かかるか、ら…っ…」
「お金とかいいから!病院行こ?」
「やだ、やだっ…~っゔっ…」
必死に抵抗していたが、頭痛のせいで突然きた吐き気に抗うことも出来ずそのまま戻してしまった。
「ゔ、ぇっっ…お゙えっっ…」
「ちょ、ま、ラウ!拭くやつ持ってきて!」
「うん!」
「舘さん、落ち着いて。そのまま吐いていいから。ゆっくり息をして。」
「え゙っ、ごほっ…ゔぇっ…はー…はー…」
「きついなぁ。大丈夫大丈夫。」
「お゙えっ…ごほっごほっ、は…ぁ…」
「…落ち着いた?」
優しい声で聞く向井さんにむかって頷く。顔をあげると頭痛が酷くなりそうだったから下見たままだけど。
「良かったぁ…けど、まだ顔色悪いな…」
「康二くん、拭くやつ持ってきたよー」
「お、ありがとラウ。」
そう言って向井さんはラウールさんからタオルを受け取り、嘔吐物で汚れた俺の手や顔を拭いてくれた。
「とりあえず移動しよか。俺ここ片付けるからめめ運んだって。」
「了解。舘さん、ちょっと動かすよ。」
そう返事したかと思ったら、目黒さんは俺を持ち上げた。抵抗しようとしたが、そんな体力は残ってなくてされるがままになった。暫くするとまた違うベッドに降ろされる。
「…ここ…」
「あ、俺の部屋です。嫌ならラウールの部屋行きますけど。」
「や、ちがっ…」
「めーめ?言い方きついって。」
「あ、すみません。嫌じゃないかなーって心配で。」
「やじゃない、です…」
「なら良かった。」
「…」
「ねぇ舘さん。」
「…はい。」
「病院行こうよ。心配だから…」
「…いや、ですっ…」
「…」
「病院行って、お金払う、くらいなら…このままでいいっ…」
「…いや、良くないやろ。」
声のする方向を見ると、少し怒った様子で向井さんが立っていた。
「…っ、」
「…宮舘くんは、自分を大切にしなさすぎや。」
「だって…大切にされる必要なんて、ない…っ」
「…は?」
「…っ、ぅぅ…だっ、て…ひっ、く…」
とうとう本格的に泣き出した俺を横から目黒さんが撫でた。
「舘さん泣かないで、熱あがっちゃう。康二も、少し落ち着いて。」
「…あっ、ごめんなぁ宮舘くん…泣かせるつもりはなかったんよ…」
「…ぅ、ひ、く…」
「俺は宮舘くん自身を大切にして欲しかったんよ。」
「…ぅ…」
「…お金はどうとでもなるから。お金より命の方が大切だから。宮舘くんだって、金貰うか友達助けるかやったら友達をとるやろ?」
「…は、い…」
「それと一緒。お金がかかるとかそんなことより俺らは宮舘くんの方が大切なの。」
「…」
「だから、病院行こ?な?」
「…やぁぁ…」
「頑固やなぁー…よし!めめ、ラウ!強制連行や!」
「「はーい!」」
「…え、や、だぁ…っ」
弱々しく抵抗するのも虚しく、目黒さんに持ち上げられ、ラウールさんが夜間病院に連絡し、向井さんが車を運転して、病院に連れていかれた。
コメント
1件
ありがとうございます😭 舘様大丈夫?! 続き楽しみです!