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ある日、私は暇なので黄昏ホテルを散策していた
〇〇)阿鳥先輩、こんな所に突っ立って如何しましたか?
遥斗)お客様が変な物見つかるの嫌みたいなのでここで待機してます
〇〇)暇ですか?
遥斗)まぁ暇だね
〇〇)私も暇です。お喋りしてください
遥斗)お客様が急に来たらどうするの?
〇〇)ん〜…謝って適当にやり過ごせば大丈夫だと思いますよ
遥斗)接客業やった事ある?
〇〇)あると思います?
遥斗)ちょっとはやった事あるんじゃない?料理以外は手際よく仕事してるし
〇〇)したことありませんよ
遥斗)本当?
〇〇)本当です
遥斗)やっぱり飲み込みが早かったのか…
〇〇)だから阿鳥先輩の教え方が上手だからですよ
遥斗)そうかな?
〇〇)そうですよ
遥斗)ありがとう
〇〇)こちらこそありがとうございます
お客様)話してる所すみません
遥斗)お客様…?
お客様)名前を思い出しました。塚原 音子、これが私の名前です
〇〇)塚原様ですね。塚原様はご自身が生きているか死んでるか分かられましたか?
音子)それがですね、そこだけ思い出せないんですよ
遥斗)あらら…
〇〇)私達と同じですね
音子)そうなんですか?
遥斗)そうなんですよね
〇〇)ゆっくり思いましていきましょうか
音子)ちなみにテレビとパソコンってありますか?
遥斗)ございません
音子)ならなにか暇をつぶせるものは…?
〇〇)ダーツとビリヤードがございます
音子)もうちょっと電子機器的な物は…
遥斗)ラジオがございます
音子)自分が死者かわかる前に暇死にしそうです
遥斗)私も3日目で発狂しそうになりました
〇〇)私は2日目で肩と腰が凝って動けなくなりそうになりました
音子)だから従業員になったんですか?
遥斗)はい
音子)高校生でも働けるんでしょうか?
〇〇)少々お待ちください
遥斗)支配人に確認をとってまいります
そうして音子ちゃんは私達の後輩となった
音子)動きづらいですね、△△先輩
〇〇)慣れたら大丈夫だとは思うよ。私は数日で慣れたから
音子)そうなんですね
〇〇)まぁでもこれで誰かを背負投するのはキツイかなぁ
音子)背負投ですか?
遥斗)できるの?
〇〇)実践しましょうか?
遥斗)是非ともサボってる支配人にしてほしいね
〇〇)支配人、ですか…抵抗されたらひとたまりもない気がするんですけど…
音子)たしかに…意外と強そうですよね
ルリ)やめなさいよ!
瑪瑙)随分物騒な話ね
遥斗)瑪瑙さん。瑪瑙さんは背負投できますか?
瑪瑙)さぁ、どうでしょうね
音子、遥斗、ルリ、〇〇心の中)これ以上聞いたら駄目なやつだ
瑪瑙)〇〇ちゃんはできるんじゃない?
〇〇)一応できますよ
遥斗)男の人ならできないんじゃない?力の差とかあるし
〇〇)どうでしょうね。中3で柔道やめちゃったので…
音子)柔道やってたんすか?
〇〇)小さい頃からやってたよ
阿鳥)なのに筋肉質じゃないんだね
〇〇)中3から柔道も、筋トレも一切してなかったから…
音子)本当にそれだけですか?
〇〇)え?
音子)だって△△先輩、基本1食しか食べないじゃないですか
〇〇)お腹、あんまり空かないからね
遥斗)それでも体に悪いよ。せめて2食にしてほしい
瑪瑙)それに夜食べる時、ちょっとしか食べないものね
ルリ)せっかく作ったのに…
〇〇)ごめんなさいね、ルリちゃん先輩。けどそんなに少ないでしょうか?
瑪瑙)そうよ。もう少し食べないと…いつか倒れるわよ?
???)そのままだと〇〇、倒れるぞ!
あれ、なにこの記憶?
誰に言われたっけ
多分男の人で、心配されてる?
音子)△△先輩、どうしたんですか?
〇〇)なんか誰かにこのままじゃ倒れるぞって心配されてる姿が頭に過ぎって…
遥斗)現世の記憶かな?
〇〇)如何なんでしょうか。顔はぼやけてて見えなかったし、心配してくれるような男性、私にはいませんし…
瑪瑙)あら、〇〇ちゃんは彼氏いないの?
ルリ)いなさそう。見た目派手過ぎだし
〇〇)いやぁ、それが大学卒業近くまで彼氏いたんですよね
音子)本当ですか!?
遥斗)なんで別れたの?
ルリ)気になるわ!
〇〇)相手の浮気で別れました
瑪瑙)そいつの奥歯ガタガタ言わせてやりましょう!
ルリ)瑪瑙、さん…?
〇〇)未練なんか無いんで大丈夫ですよ
音子)△△先輩、美人なのにどうして浮気したんでしょうね
遥斗)たしかにね
〇〇)阿鳥先輩は見た事ありますけど、他の人達は見たことないでしょ?
瑪瑙)なにをかしら?
〇〇)私のマスクとチョーカーと手首の包帯の下
ルリ)それがなんだって言うのよ
音子)マスク美人ですか?
〇〇)そうだよ
遥斗)え、違うくない?だってそんなに酷い顔じゃ無かったよ
〇〇)一般的に言えば私の顔は平均的な顔です。けど私は醜いんですよ。まぁ見せるのはちょっと嫌ですけど、見ますか?
瑪瑙)いいの?
〇〇)全部、自分のせいだから…
〇〇がマスクとチョーカーと包帯を外す
ルリ)引っかき傷に、縛った痕に…切り傷
音子)全部自分のせいだからって事は自分でやったんですか?
〇〇)そうそう。ストレス溜まっちゃうと体中掻きむしっちゃって
遥斗)それじゃぁ首の痕と手首の傷は?それも自分で
私は阿鳥先輩の言葉を被せるように言った
〇〇)自分でやったよ
瑪瑙)それもストレス?
〇〇)まずは睡眠薬のODから始まりました。眠れなくって、沢山飲みました。その次はリスカです。全然依頼が来なくて、食べる物にも困って苦しくて、辛かったけどもっと苦しくて辛い思いをしないといけないと思ったからリスカを始めたんです
ルリ)なんで苦しまないといけないの?
〇〇)なんでだったけ…?あ、そうだ。両親の期待に応えられないからだった。そう、そうだった。こんな私なんか苦しめばいいって思ってた
遥斗)かなり精神が不安定だったんだね
〇〇)………。そうだったかもしれない
音子)自分を苦しめるほど追い詰められる状態ってなかなか無いような気がするんですけど…
〇〇)うん、多分これからは此処にいたら無いと思うよ。今はちょっとずつ、無くなってるから
ルリ)ちょっとずつってあんた、まさかまだリスカとかしてるんじゃないの!?
〇〇)自分の体を引っ掻く程度で治まってますよ
瑪瑙)まぁまだましね
〇〇がマスクとチョーカーと包帯をする
〇〇)けどもし生きてたらまた自分を苦しめるんだろうなぁ
遥斗)どうして…
〇〇)ちょっと売れ始めてもやっぱり生活が厳しいからです
瑪瑙)現世も大変ねぇ
〇〇)まだ諦めたくないから続けますけどね
遥斗)諦めたくない…?
音子)あの〜質問良いですか、△△先輩?
〇〇)如何したの、音子ちゃん?
音子)△△先輩の現世の仕事ってなんですか?
〇〇)イラストレーター
ルリ)イラストレーターって収入不安定って聞くけど本当なの?
〇〇)本当ですよ、ルリちゃん先輩
音子)大変ですね
〇〇)これが私が選んだ道だから最後まで突っ走りたいな、とは思います
遥斗)〇〇ちゃんはそれで後悔するかもしれないって怖くなった事はないの?
〇〇)自分で選んだ道だから後悔なんかしないですよ。自分が選んだ結果、死ぬ事になってもいいんです。それが私が生きた証だと信じていきたいから
瑪瑙)強いわね、〇〇ちゃんは
〇〇)そうでしょうか?
ルリ)強いんじゃない?自分を追い込む時点で弱い奴はいないわ
音子)自分を追い込んで強くあろうとする時点で強いんですよ
〇〇)これで物理的にも強かったらなぁ…
遥斗)え?
〇〇)物理的に強かったら、かっこよくないですか?
音子)たしかにかっこいいですね
瑪瑙)そうね
この日、少しだけ、本当に少しだけ自分を許せた気がする
強くあろうとした自分を労る、その為に神様は此処に私を来させたのかもしれない
もし生きて現世に戻れたなら、自分にご褒美をあげよう
今まで頑張って両親の期待に応えようとした努力にご褒美を
ご褒美をなににしようかと考えながら数日過ごした
〇〇)お客様、チェックアウトでしょうか?
敦宏)あぁ。世話になったな
〇〇)また来ない事を願います。お気をつけて行ってらっしゃいませ
敦宏)ありがとな
そうしてお客様がまた一人いなくなったが…
〇〇)あの人、誰なんだろ…
音子)安藤 敦宏様ですよ。元パチンコ頭の
〇〇)あぁ、あのお客様ですか。また来なければいいですけど…
遥斗)そうだね。生きてお母様と会えればいいんだけど…
〇〇)お母さん、か…
音子)△△先輩のお母さんってどんな人ですか?
〇〇)瑪瑙さんみたいに美しい人だよ
遥斗)そうなんだ
音子)羨ましい…
〇〇)強くて、優しくて………
とてもいいお母さん
そんなお母さんの期待に応えられなくて…
音子)△△先輩、どうしましたか?
〇〇)私はつくづく親不孝者だなって思っちゃった
遥斗)俺もまだ親孝行できてないなぁ
〇〇)生きてたら私はどんな顔して会えばいいんだろうなぁ
音子)一緒には住んでないんですね
〇〇)大学卒業と一緒に居場所を教えずに私が出て行ったの
遥斗)そうなの?どうしてそんな…
〇〇)ただ、一緒に暮らすのが辛かった
音子)辛い?
〇〇)失望した顔を見るのが辛かった。私が失望させてるから私がいなくなれば両親が失望する事も無くなっていいかなって思って出て行ったの
遥斗)心配されるんじゃないの?
〇〇)如何でしょうね?私には分からないです
音子)まともな親なら探偵でも何でも使って探し出す筈だとは思いますけどね
〇〇)探しだ、す?
???)どれだけ探したと思ってるの!?
また…いや、今回は女の人だ…
〇〇)誰なんだろう、この人達
遥斗)なんか思い出せた?
〇〇)女の人が私を探したと言ってましたね。前と一緒で顔がぼやけてて誰か分からないです
音子)両親か友達じゃないですか?
〇〇)友達か両親…。あれ、私の友達と両親ってどんなのたっけ?
遥斗)友達は知らないけど、両親の事はよく喋ってるじゃないか
音子)お母さんは優しくて強くて瑪瑙さんに似ているってさっき言ってたじゃないですか。もうボケ始めましたか?早いですよ、△△パイセン
〇〇)そう。そこは分かってるねどね、顔と声が思い出せない…
遥斗)まだ思い出せてない所があるんだね。もう一回部屋探そっか?
音子)私も探したいです!
〇〇)皆で探しましょうか
そうして私の部屋を探す事になった
音子)始めても△△先輩の部屋入りましたけど、1言いいっすか?
〇〇)どーぞ
音子)汚くないですね
遥斗)あれ、前片付けてなかった?
〇〇)そうなんだけど…キャンバスが大量に増えてる…
音子)増えたんですか?
〇〇)また片付けないとだー!
もう、如何してこんなにもキャンバス増えるのよ!
遥斗)足場が少ないね
音子)まずは足場の確保の為にキャンバスとか片付けますか
〇〇)そうだね
音子、遥斗、〇〇が部屋を片付け始める
音子)おぉ。流石イラストレーター。絵がうまいですね
〇〇)そんなことないよ。上手だったら今頃売れてたから
遥斗心の中)これ、手帳?なに書いてるんだろう
遥斗が手帳を開く
遥斗心の中)なんだ、これ…
音子)あれ、これ…
〇〇)音子ちゃん、何か見つかった?
音子)これ阿鳥先輩じゃないですか?
遥斗)え、俺?
遥斗が咄嗟に手帳を隠し、音子の方を見る
〇〇)阿鳥先輩?
音子)ほら、この絵。阿鳥先輩だと思うんですけど…
〇〇が音子が持ってるキャンバスを見る
〇〇)あ、本当だ。阿鳥先輩だ。けど…なんでたっけ?
遥斗)たしかに俺の横顔だね
音子)絵でもイケメンですね、阿鳥パイセン
遥斗)これは〇〇ちゃんの努力だよ
〇〇がエプロンのポケットからスマホを取り出す
音子)なんでスマホ持ってるんすか!?
〇〇)なんか部屋にあったの。アルバムになんかあるかも
前まではGoogleしかできなかったけどアルバム、いけるかな?
アルバム、いけた
〇〇)阿鳥先輩の写真…?
遥斗)あ、本当だ。これは大学だね
音子)大学一緒だったんですね
〇〇)そうそう。私が後輩。あ、思い出した。私、阿鳥先輩を盗撮したんだった
遥斗)え…
〇〇)彼女さんらしき人と喋ってる横顔、綺麗だなって思って描きたいなって思ったの。だけどずっとそのままで居てもらうのも無理だから写真撮って、その写真を見ながら描いたんだ
音子)なるほど
〇〇)この絵ね、初めてのコンクールで賞取れたの。佳作でね、多分私はこれ以上綺麗な絵を描けない
遥斗心の中)本当にきれいな絵だな
遥斗がチラッと〇〇の顔を見る
遥斗心の中)絵に恋でもしているような横顔だなぁ…
音子)△△先輩って阿鳥先輩の事、どう思ってるんですか?
〇〇)んー…綺麗な横顔な先輩かな。会ってまだ日にちそんなに経ってないし
音子心の中)にしては絵を見てるときの目、表情は恋してるような顔だった気がするんだが…
〇〇)そ~いえば私、何度も阿鳥先輩の事見てたな
遥斗)そうなの?
〇〇)綺麗なものは何度見たって綺麗ですからね
音子)それで△△先輩が此処に来たのは思い出せましたか?
〇〇)んー…分からいな
遥斗)もう少し探そうか
音子)そうですね
遥斗心の中)さっき見つけた手帳はまだ見せないほうがいいよな
〇〇)inゼリーとカロリーメイトのゴミばっかだなぁ
音子)△△先輩って生活習慣悪そうですね
遥斗)1日1食生活してるような人が生活習慣がいいわけないでしょ
少しだけ怒りを含んだ声を阿鳥先輩は発して私は少しだけビクッとした
〇〇)まだマシですよ。現世ではinゼリーか、カロリーメイトを2日に一回ぐらいしか食べない生活してたので
音子)わぁお
遥斗)まぁマシにはなったけど…そんな食生活ここでも続けてたら死んじゃうよ?
音子)あ、そっか。ここで死んじゃったら生きていても死んじゃうんですよね?
遥斗)そうだよ
〇〇)食べれたら食べます
音子)△△先輩はあんまりお腹が空かないのですか?
〇〇)お腹は空くよ
遥斗)じゃぁなんで食べないの?
顔は笑ってるけど目は笑ってない阿鳥先輩って怖いなと思いつつ自分の思っている事を口に出した
〇〇)お腹が空いてても食べようとは思えなくて。前に無理して食べちゃったら吐いちゃったからそんなの食べ物勿体無いなぁって思って食べれるって思った時しか食べないようにしたんですよ
音子心の中)△△先輩、なんか闇深そう…
次回、犯罪者と対面