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#怖い話
ごーや
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まず前提として、私はよく寝ている間に幽体離脱をすることが多いから、おそらくその場所もただの夢ではないのだと最初に仮定した上で、この話をするね。
いつも幽体離脱して呼ばれたり飛んだりした時って、気付いたら現世とは明らかに違う空間ではっと我に返って、まず最初に「ここは何処だ?」となるのだけど、今回の話の場所で最初に我に返った時、場所が私の本家だったのね。
もうね、家具とか内装が全部そのまま。リビングにいるのは私の家族そのもの。
現実でも私にとって本家は凄く居心地が悪くて、理由は宗教絡みだったりするのだけど、ここでもかなり居心地が悪くて咄嗟に思ったのが「早く帰りたい」だった。
ちょうどリビングで祖母に何か嫌味を言われた直後だったみたいで、長居したくないからそそくさと自分の部屋に戻った。
自分の部屋といっても本家は部屋数がなくて、母と同じ部屋でスペースを区切って暮らしていたから、それもストレスの原因だったんだよね。
だから最初は、過去の嫌だった記憶が蘇ってるのかな?って少し思った。
でも自分の部屋に戻ってふと「あれ?今ってここで暮らしてないよな?」と自分で気付いたんだ。
さっきも「帰りたい」って強く思ったし、部屋に置かれた私物の少なさからして、明らかにここで生活はしていなさそうだった。
母のドレッサーを見たら、私はスーツ姿。部屋に無造作に置かれたバッグも、明らかにOLが使うようなもの。
現実の私もその時はOLみたいな仕事はしていたけど、私服通勤だからスーツは着ていないし、何より私の幽体離脱の状態って、いつも白いワンピースで裸足がデフォルトだし、なんか変だなって思った。
それに何だかさっきから、自分の意思で思った通りに行動していない気がする。
例えば、喉が渇いたからキッチンに行って飲み物をもらおうと思っても自分の体は勝手に自分の部屋に向かっちゃう、そんな感じ。
階段の窓から外を見たら日が落ちて、もうすっかり辺りが薄暗くなっていた。
さっさと帰ろうと荷物を持って、母の「泊まっていけば?」という誘いも適当に理由をつけて断って外に出た。
多分「明日も朝早いから」みたいな断り文句だったと思う。
外も本当に現実と同じ立地で、斜め向かいには教会があって、隣近所の家もまるで現実そのものだった。
自分の家ってあっちだよなぁ、と思って少し進んだ先の信号の前に立ったら、ここから先、なんだか立地が少し違う。
渡りきったら現実にはない分かれ道があったり、一本道のはずの道路に十字路があったり。
現実だと信号を渡ったらコンビニとスーパーが自宅の最寄りにあるのだけど、何故かここでの私はドラックストアの方面に進んでいた。
こっちだったかなぁ、なんて考えてなくて、自信をもって「自宅はあっちだ」とドラッグストアの方に向かう。
ドラッグストアの最寄りにある三階建ての大きなアパートの、一階左から二番目の部屋に入った。ちゃんと鍵も持っていた。
部屋に入ったら凄く落ち着く空間だと思う反面、何だこの部屋はと思った。
一人暮らしにしては部屋数が多いし、多分誰かと暮らしてはいるようだけど、どうも子供の物が一切ない。
そして夫が使うような物も何もない。どっちかというと女物しかない。自宅ならゲーム機が溢れているはずなのに、ゲーム機が一切見当たらない。
私の趣味じゃない置物も幾つかあったし、歯ブラシも二本立ててあったから、もう違和感しかない。
寝具も箸も二セットずつあるから、どうも二人暮らしをしているのだけは見て分かる。
でも誰と暮らしているのか全然分からない。よく泊まりに来るだけなのかもしれない。だとしたら(実際には叶わなかったが)現実でシェアハウスの予定を組んでいた中学の時の親友かなぁ、と思った。
違和感が満載だから、ここでも更に「帰らなきゃ」とは思うものの、ここが家だし何処に帰るのか記憶が曖昧になる。
色々探索したいのに、私の体は洗面所で手を洗って、冷蔵庫を開けて食材を出していた。
やっぱり動きに違和感がある。目線は私そのものなのに行動と思考がズレている。
幽体離脱だとこれはありえない。視界だけは憑依守護と共有できるから、第三者目線で私が状況を視ることはあっても、思考に反して変な行動になることはまずない。
おかしいなと思っていたら、後ろ髪をギュッと握られ引っ張られる感覚に襲われて、はっと我に返ると現実の寝室だった。
初日は「変な夢だったなぁ」くらいの感想で終わったが、こんな夢が定期的に何度も続いた。
これといって本家に行った日の夜に見る訳でもなくて、本当に突発的に二回目、三回目と本家そっくりな場所で我に返ることがあった。
毎回「帰りたい」「早く自宅に戻らなきゃ」と居心地の悪さにそそくさと帰路につくのだけど、五回目くらいでふと、帰路の立地が時々変わっているなと思った。
あったはずの小さな飲食店が知らない建物になっていたり、アパートの外装の色が変わっていたり。大きな変化はないけれど、細かい変化に気付いた。
そして家に戻ったらやはり毎回無人で、夜ご飯の支度を始めて作っている最中に後ろ髪を引かれる感覚でまた現実に戻ってくる。
変化があったのは七回目くらいの時で、帰ってきたら家の中に子供が二人いた。
知らない男の子と女の子が勝手に家の中で遊んでいて、思考的には「誰だこの子達?」と疑問が湧くのに、私は物凄い剣幕で「出て行って!!」と怒鳴っていた。
そんなに怒らなくてもいいじゃんと思う反面、戸締りしっかりしてなかったのかな?不用心だなと思った。
怒ったまま洗面所に入ったところでまた後ろ髪を引っ張られて戻る。
私は既に三回目くらいの時に現実で起きてから夫に相談していて、最初は「そこあんまり行ったらダメだよ」くらいにしか言われていなかったから、やっぱり幽体離脱してるのかな、なんで行ったらダメなんだろう?くらいの気持ちだった。
七回目を終えた後で夫にまたこの話をしたら、「また行ったの?ダメだって言ってるじゃん」と注意された。
でも何が引き金になっているのか分からないし、行くのも自分の意思ではないから、難しいことを言うなぁって。
何故ダメなのか理由を聞けば「何回も行くと、そのうち帰って来れなくなるから」って。あれはそういう場所らしいのね。
なんでそんなことが分かるのかと聞いたら、なんと「俺も行ったことがあるから」って。
「あの空間にいる人達、本当は俺達から見たら、全部黒い影だよ。世界線が違うから。雪ちゃん入り浸り過ぎて影響を受け始めているっぽいから、普通の生身に見えているかもだけど。基本的に触ってもダメだし。だからね、もう行ったらダメだよ」と注意された。
そして八回目、またいつ飛んだのか分からないうちに、今度は本家からの帰路で気付いた。
ほぼアパートの目の前で、ドアを開けた途端にまた前回の子供達が走り回っている音と遊んでいる賑やかな声がした。
何故か一気に怒りが湧いてきて、息を深く吸い込んで「出て行け!もう来るな!」と私が怒鳴った。
怒鳴られた子供達は、一瞬「えっ?」と驚いた顔をして……それから、ふっとその場から消えちゃった。
内心驚く私。でも体の持ち主の私はどうも驚いてすらいない。ただ疲れたな、という感情があった。
私が驚いた理由は、さっきのが幽霊だとして、この体の持ち主が全然驚かない様子だったこと。やけに慣れてるなぁって。
ため息混じりに玄関に上がった辺りで突然インターホンが鳴った。
そちらに気を取られた瞬間に、ふわっと後ろ髪を引っ張られる感覚がして現実に戻った。
問題はここから。
八回目の例の場所から現実に戻った時に、天井見上げてぼんやりと「あれ、ここ何処だろう?」と疑問が湧いた。
その時寝室には黒兎と夫と娘がいて、更に守護が数人寝室にいるのだけど、それすら誰か分からなかった。
困惑しながら、とりあえず今は何日の何時なのかと、iPhoneで時間を確認しようとして、その時にぶわ〜っと現実の記憶が押し寄せてきて、あっ、こっちが現実だ!と気付いた。
記憶がここまで曖昧になるなんて今までの幽体離脱でもなかったから、非常に興味深くて夫に「変な夢見た!また例の場所で、戻った時に一瞬ここが何処だか分からなくてさ」と言ったら、彼の守護だと思うのだけど急に夫の表面を取って「また飛んだの?ダメだって言ってんじゃん、帰れなくなるよ」と再度念押しみたいに言われた。
流石にもう飛ぶこともないだろうと思って油断した二千二十二年七月の末、九回目にして再び例の場所で気が付いた。
前回から半年くらい経った頃で、完全に変な違和感のある幽体離脱をしていたことすら忘れかけていた。
今回もまた本家のリビングで気が付くのだけど、今回は本家の人達の様子がおかしかった。
どうも私と口論したのか凄く怒っていて、急いで帰らないといけないと今まで以上に強く思った。
本家にあった自分の持ち物全てを大きなバッグに纏めて、逃げるようにいつものアパートに帰宅した。
そこで、鍵を開けようとしてふと、施錠されていなかったことに気付く。恐る恐る部屋に入ったら、中は無人だった。
でも何だか違和感を感じて部屋を巡ったら、今までなかった大きなストーブが設置されていて、上にグツグツと煮えた鍋が保温されていた。
今は秋だったかな?でも積雪もないし、ジャケットも要らない気温だったような……と色々考えながらそっと中身を確認したら、大量の虫が煮込まれていた。蜂やら芋虫やら、色んな虫が煮込まれている。
うわ!!と声を上げて鍋の蓋を放り投げたら、急に背後から「おかえり。食べないの?」と声がかかった。
びっくりして振り向いた先にいたのは、母だったのね。母が見たこともないエプロンをつけて、おたまとお椀を持って立っているの。
でもおかしい。母はさっきまで本家にいた。祖母と一緒に何か分からないけれど、私に対してかなり怒っていたように感じた。
うちの母との喧嘩はいつも長引くから、あんな剣幕で説教していたほんの十分後に、先回りしてうちのキッチンに立って微笑んでいるなんて普通じゃ絶対にありえない。
それにうちの母は料理する時わざわざエプロンなんて身に着けないんだよ。
一気に血の気が引いて、「いやこれ……結構前に作って放置しちゃった鍋だから、中身捨てるね。ごめん。食中毒怖いし」と目も合わせずそう言って中身をシンクに全部捨てたら、背後で「チッ」と舌打ちが聞こえた。
まじでなんなの?と思って振り向けば、母の姿は消えていた。おたまとお椀はシンクの上に置かれている。
……今のはもしかして生霊?こちらから波長を合わせているわけじゃないのに視えるってことは、この体の持ち主は並外れた霊感があるってことだよなぁ、と冷静に考えて、念の為戸締りの確認をした。
玄関には私の仕事用のローファーと、 プライベート用のスニーカーしか置かれていない。
かなりどうでもいいが、現実の私もこちらの私もミニマリストなんだな、とちょこっとだけ思った。
やっぱり母は来ていないよな……と思い直して部屋に戻ろうとしたら、今度は背後でドアをガチャガチャと捻る音がして驚いて振り向いた。鍵が外側から開けられ、いきなりドアが全開になり、目の前に見知らぬ親子が立っていた。
母親は夏らしい服装、娘は何故か防寒具を身に着けていた。
その母親の手には鍵の束が握られていて、「もしかしてその鍵はうちの?」と恐る恐る訊けば、母親は笑顔で「そうだよ!」となんのわびれもなく頷くから、私は凄く焦って「うちの鍵は返してね」と強く出れば、母親はちょっと不思議そうに首を傾げつつも、渋々返してくれた。
すると、傍にいた防寒具姿の娘は「あーあ。隠れる場所ひとつ減っちゃったねぇ」と残念そうに呟いて、母親も「そうねぇ。でもまだ何箇所かあるから」と諭すように鍵束をチラつかせて去って行った。
今までこんなことはなかったから、凄く混乱して座り込んでしまった。
勝手に合鍵を作られて入ろうとしていたのだから通報するべきだと思うのに、あんな単純な警察の番号が分からない。
そして何より、携帯が手元にない。慌てて探すと、大きな荷物の中から出てきたのは、現実で使っているiPhoneではなくて、一昔前のガラケーだった。
パスワードが分からなくてロックが開かない。でもピンクのガラケーには見覚えがあって、多分私が学生時代に使っていた携帯だ。でもなんでまだガラケー?
ふと、私は今までここに帰らず本家にずっといたのか?何でまた本家に滞在?でもさっきまとめた大荷物、これはもはやプチ家出の感じだよね? などと、現実ではありえないことに疑問が浮かんだ。
長期休みだとしても、本家になんて私は泊まらない。唯一お泊まりをするなら、自分の娘だ。
そこではっとした。
娘がいない。夜の九時になるのに娘の姿がないのも明らかにおかしい。
何だか嫌な予感がして家から飛び出すと、見知ったドラッグストアや住宅街が目に入る。付近の公園を通りすがろうとして、偶然娘を見付けた私は立ち止まった。
娘が楽しそうに遊具で遊んでいる。
「なんでこんな時間まで遊んでるの!危ないから帰って来なさい!」と呼び掛けたら、ブランコに乗っていた娘は「はーい!」と元気よく振り返ったのだけど、その顔は全くの別人。
ぎょっとして固まる私に、知らない女の子が近寄ってくる。女の子は公園に居た友達であろう女の子二人組に「バイバーイ!また明日ね!」と手を振って、私の手を握った。
ーーー酷く冷たく固い手だった。
うわっ!と思って女の子の手を振りほどいて、私は家まで全力疾走した。
女の子も追い掛けては来たけれど、元々足の早い私の全力疾走には追い付けなかったらしく、かなりの差がついて私は自宅のドアを開けて中に入り、急いで鍵を締めた。
「お母さーん、お母さーん」と女の子が私を探す声が聞こえる。
戸締りさえしてしまえばもう大丈夫だと、私は安堵してリビングに繋がる内ドアを開ければ、さっきの小さい女の子の形をした真っ黒い影が座っていた。
「オカエリ、オカアサン」とノイズのかかった気味の悪い声で、影が笑った。
こんなの娘じゃない、誰だこの子!と危機感を覚えて咄嗟に口走ったのは「違う、帰らなきゃ」という言葉だった。
それに対して「オウチハ、ココデショ。ナニイッテルノ、オカアサン」とノイズ混じりの声が迫り、急いで自宅を出ようとドアを開き、その瞬間「こんな場所、私の家じゃない!」と、私はそう叫んでいた。
この時ようやく初めて、自分で体を動かして発言もできた。
ーーーそこではっと目覚めたのだけど、目覚めた場所が何処だか全く分からなかった。
明らかに自分の寝室なのに、ハンガーにかけた服、冷風機、ゴミ箱、兎のケージ、モニターに並ぶフィギュア達、それからゲーム機……見知った当たり前の光景があるはずなのに、部屋の構造が夢のあのアパートの内装と違い過ぎて、自分が今何処にいるのか本当に分からなくなっていた。
困惑している私に、隣で寝ていた夫が「なしたの」と声を掛けてきて、彼がさっきの夢の影でない事に安心して、次第にあちらが別世界でこっちが現実だと頭が追い付き、「あー……また変なアパートの夢見てさ、一瞬この部屋の中が何処か分からなくて凄い焦ったわぁ」と笑い話っぽく言ったら、結構キツい口調で「また行ったの?ダメだって言ったのに」と怒られた。
「次で十回目だっけ?十回超えたらそのうち戻って来れなくなるよ。あそこはそういう場所なんだって。だから散々ダメだって言ったじゃん」そう言って私の左側の頭を引っ付かんで「しかも何かくっ付けてるし……」と引き剥がしてくれた。夫の手に、黒い影の塊が握られていた。
「あそこね、多分記憶が混ざるんだよ。あちらとこちらの区別がつかなくて、こっちに戻って来た時に現実の場所が何処だか分かんなくなるの。思い出せなくなるのさ。
今さっき雪ちゃんも少しなってたでしょ。あれ、最後は思い出せなくなるの全部。
だからもう絶対行ったらダメ。呼ばれてるんだろうけど聞いちゃダメなの。ね、分かった?雪ちゃんすぐ飛ぶから……全く……」後半は呆れたようにブツブツ呟いた。
ーーーーーー
ここまでは、小説サイトに一度投稿した内容。これは詳しく書いてなかったと思うんだけど、実は五回目くらいまでは向こうでの視界が少しおかしくて、色味が薄かったの。でも五回目以降はだんだんと色味が濃くなっていた。
それと、自分の体を自分の意思で動かせなかったのに、九回目にしてやっと最後に自分の意思でガッツリ動かせた。
そしてここからは、何処にも内容を投稿しなかった十回目の話ね。
二千二十五年、つまり今年の五月の終わりか六月の始めだったと思う。
まず、最初に本家のリビングでまたはっとして我に返った時に、背中を微かにトンと押された感触があった。
ここでふと思い出したのだけど、この「トン」という感覚に懐かしさがあって、思い返せば毎回この空間で我に返るのは、この「トン」のおかげだったのね。 (戻る時の合図は後ろ髪を引かれる感覚)
うたた寝から目覚める感覚ではなくて、ぼーっとしていたらトントンと肩を叩かれて「はっ!」ってなる感覚。あれ。
今回もその「トン」の感触で我に返ったことにここでようやく気付いて、その瞬間に現実の私の私生活とこの場所がやけにハッキリ「別物だ」と分かった。
そして周囲を見渡せば、全部の色味がハッキリ見える。今まではどこかしら色褪せていたのに。
そして更に、完全に自分の意思で体が動くことにも気付いた。
どうやら今、リビングで家族会議をしている場面だった。
祖父母には「鈴木さんのとこの娘さんはもう二人も子供産んでて~」などと小言を言われ、離婚歴のある母には「もっとまともな価値観のある男と一緒になりなさいよ」みたいな小言を言われている。
「同じ宗教じゃない人と結婚は難しい」など、頭の硬いことを言われている中で私はふと、時計を見上げた。
時間は四時十分くらい。窓から見る景色は夕方だと思う。曇りだったから暗く見えたのかもしれないけど。
あと一時間したら娘が部活から帰ってくるし、夫は今日仕事だったはずだからご飯の用意しなきゃ!とやけに鮮明に現実での私のやることを思い出して、小言が飛び交う中突然立ち上がった。
「ごめんもう帰るわ、話の続きはまた今度ね。娘がもうすぐ部活から帰ってくるから」と当たり前のことを言えば、本家の家族は全員「は?」と困惑した空気になった。
「夫も確か今日早く帰ってくるはずなんだよね。ご飯早めに用意しとかんといけんし、じゃあね」とまだ続きそうな小言を遮って手短に伝えると、祖母が「夫って誰さ?」と眉間に皺を寄せて聞き返してきた。
しかし答えるのも面倒で、私はほとんど無視して立ち上がる。
やはり私の格好は白いワンピースではなくスーツ姿だった。仕事用のバッグも現実では持っていない物だ。
明確に違いを認知して、とりあえず荷物だけ持ってさっさと玄関に向かえば、母が酷く焦った顔で追いかけてきた。
「あんた何言ってんの?疲れておかしくなっちゃったの?」と本気で心配そうに肩を摩ってくる。
「おかしいのはそっちでしょ、うちの本家の人間が娘のこと忘れる訳ないじゃん、馬鹿じゃないの」と切り返す。
唐突に吐かれた暴言に放心したのか、母の手がそっと離れた。
「大体さ、本家なんてもうないはずだよ。みんな去年引っ越したじゃん。なんでまだ住んでるの?ここは知り合いが買い取ったって叔母に聞いたよ」
そう言った時、母は何故か非常に真っ青な顔をしていた。
何度も通った、現実とは微妙に異なる帰路。あのドラッグストアの近くの自宅だと思っていたアパートは、現実にも実際にある。
そしてあそこは二年前、夫と娘と新居を探していた時に目星を付けていたアパートだった。でもオール電化だと知って、電気代で火の車になりそうだからという理由でやめたんだ。
何故今までそれに気付かなかったのか分からないけれど、今回は全てが鮮明に思い出せる。ここと現実の違いがハッキリ分かる。
手にした鍵はやっぱりドラッグストアの最寄りのアパートのもので、この体の持ち主の自宅に入ったらまた知らない子供達が遊んでいる。
でも今回は一人増えている上に、三人共大怪我をした容姿で血塗れだった。
なんだ、やっぱり幽霊だったのか。この体はよく肉眼で波長が合うんだなと、今度は驚きではなく、やけに納得してしまった。
洗面所の鏡の前に立つと、私の顔だけど現実の私とは異なる髪型、異なる眼鏡のデザイン、全部少しずつ違う。
やつれた様子の私は鏡の中の自分に向かって「……もう死にたいな、誰か代わってくれないかなぁ」と心の中で念じていた。
でも私の意思ではない。一つの体に幾つかの霊魂が共同で入るのは現実でもやっているから、今まで感覚が麻痺していて気付かなかったけど、これはどうも私の意識が別の私の体に憑依しているようだった。
こんなの私じゃない、とはっきり拒絶の意思を持った時、また背中をトンと叩かれる感覚がした。
その瞬間、いつものあの後ろ髪を引かれるような感触があり、我に返ると自分の寝室だった。
目の前に黒兎のケージがあって、黒兎がやけに怒っていて。
草がないのか、変な霊体が来ていたのか、どっちかだなと思いながら起きて撫で回したのだけど、今回は「ここは何処だろう」とはならなかったんだ。
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あおいです、読み終えました……! この「パラレルワールドの私」、第2話もすごく引き込まれました。"自分じゃない自分"の体を借りて、意思と行動がズレる感覚、めちゃくちゃ怖いのに目が離せない。特に「娘だと思ったら別人の影」のシーン、鳥肌立ちました。夫さんの「十回超えたら帰って来れなくなる」も、現実と混ざる感覚の描写も、雪さんの体験談みたいな生々しさが効いてます。続き、すごく気になります……!