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ゆゆゆゆ
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路地裏。
人通りの音は遠くて、
ここだけ少し切り取られたみたいに静か。
「……っ」
距離はもう、ほとんどゼロ。
息がかかるくらい近くて、
さっきまでの我慢なんて、全部どうでもよくなりそうで——
その時。
「——あれ、こっち通れる?」
遠くから、声。
「っ……!」
エリオットの肩がびくっと揺れる。
一瞬で現実に引き戻される。
チャンスも、わずかに眉を動かす。
足音が、近づいてくる。
コツ、コツ、とアスファルトを踏む音。
「……人来る」
小さく、エリオットが言う。
「分かってる」
低く返すけど——
距離はまだ近いまま。
一瞬、どっちも動かない。
(離れなきゃ)
分かってるのに、
さっきまでの空気が残ってて、
体がすぐに反応しない。
「……っ」
エリオットが先に顔を逸らす。
それでやっと、現実に戻る。
ぐっとチャンスの胸を押す。
「離れろ」
小声で。
でも少しだけ焦ってる。
チャンスもようやく一歩引く。
「……悪い」
「今言うな」
即答。
でも声が小さい。
まだ完全に落ち着いてない。
足音が、すぐそこまで来る。
二人とも反射的に壁から離れて、
少し距離を取る。
まるで“何もなかった”みたいに。
でも——
呼吸が、全然整ってない。
「……こっち抜けれるっぽいよ」
通り過ぎる声。
影が、路地の入口を横切る。
エリオットはそっちを見ないようにしながら、
無意識に口元を押さえる。
(やば……)
心臓がうるさい。
さっきまでの距離、
温度、全部がまだ残ってる。
「……」
チャンスも何も言わない。
ただ、横目でちらっと見る。
エリオットの耳が、はっきり赤い。
「……顔」
ぼそっと言う。
「触るな」
即答。
「触ってねぇよ」
「そういう意味じゃない」
でもその返しがもう余裕ない。
通行人の足音が、完全に遠ざかる。
静けさが戻る。
でも——さっきとは違う静けさ。
妙に気まずい。
「……」
「……」
どっちも言葉が出ない。
さっきまであんな空気だったのに。
エリオットが先に目を逸らして、
「……帰るぞ」
小さく言う。
でも、その声は少しだけ掠れてる。
チャンスは一瞬だけ黙って、
「……ああ」
短く答える。
歩き出す。
今度は、ちゃんと距離を保って。
でも——
さっき触れた感覚が、
消えてない。
数歩進んだところで、
「……なぁ」
チャンスが呼ぶ。
エリオットは振り向かないまま、
「なに」
「さっきの」
少しだけ間。
「続き、どうする」
その一言で、
また空気が少しだけ変わる。
エリオットは数秒黙って——
それから、ゆっくり振り返る。
「……帰ってから」
はっきり言う。
今度は、逃げない声。
でも——
ほんの少しだけ口元を隠す。
「……絶対だからな」
小さく付け足す。
チャンスはそれを見て、
ふっと笑う。
「了解」
短く答える。
二人はまた歩き出す。
今度はさっきより静かで、
でも——
さっきよりずっと、
“続き”を意識した距離で。