ノア「…全然寝れなかったな。」
アリィ「スエッタエ!!」
ノア「え!?なんて!?」
ノアは簡易設営したテントから顔を出し、外の様子を見る。
傾「のっぽ、お前…他の奴らの言語は分かるのに、スラングは分からないんだな。 」
ノア「スラング?というかまた喧嘩?朝から元気だねほんと…。」
傾「止めないのか。」
ノア「寝不足で疲れてるんだよ…。」
アリィ「…ごめん、騒いで起こしちゃって…」
ノア「起きてはいたから大丈夫。昨日はなんだか中々寝付けなかっただけだよ。にしても…山の朝って寒いね…。 」
傾「この山は高度が低い。今のうちに慣らしておけ。飯を食ったら出立する。早くしろ。」
ノア「食べてないのボクだけ? 」
アリィ「うん。」
ノア「うーん正直、ジハードに余剰分を貰ったわけだし毎回食事する必要はもうないんだよね。」
アリィ「でもそこから多少は減ってるでしょ?」
ノア「まぁ…緊急性は無いけど…」
アリィ「だったら食べるべきだよ。食べれる時に食べないと。」
ノア「アリィがそこまで言うなら…」
傾「今回ばかりは気色悪いが意見の一致だな。遭難しないとも限らんしな。 」
ノア「ボクら遭難する可能性あるの??」
傾「無いとは言いきれん。」
ノア「怖…。」
アリィ「夜朝と、2回連続干し肉…なんか口当たりの優しいものがそろそろ食べたい…。」
傾「お前はまだ人間だからいいだろう。」
アリィ「アンタ人間じゃないの?」
傾「人間では無いな。のっぽ以外の他の奴らに言うのはやめておいた方がいい。」
アリィ「なんでって聞いたところで、答えたりしないよね。」
傾「よく知ってるじゃないか。」
アリィ「はぁ…。ノア、食べ終わった?」
ノア「うん。待っててすぐ拠点を片付けるから。」
アリィ「私も手伝うよ。」
アリィはノアの元へ、駆けていく。
傾「……。」
ノア「終わった終わった。少しは手伝ってくれても良かったのに…」
傾「悪いな、俺は重たい物が持てなくってね。」
アリィ「その見るからに重たそうな武器を持ってるのに?」
傾「これは特別だ。それより」
ノアとアリィが傾の言い分に訝しんでいると、傾が突如話を切り出す。
傾「お前達普段どうやって戦っている?」
アリィ「悪魔に対してなら…私が囮役をやって、ジークが弓で急所を狙って倒してるよ。」
傾「テオスはジークという名前なのか。」
ノア「君、『羊』から聞いてなかったの?」
傾「必要性を感じなかったからな。3人で戦ったことは?」
ノア「そういえば無いね。」
アリィ「ノアは戦ったの、トスク国に行く前の1回だけだったよね。」
ノア「最近になってようやくまともに人型に戻れるようになったからね。」
傾「のっぽはどう戦う。」
ノア「チャクラムを投げて戦うよ。でもアリィと2人で戦ったこともないし…」
傾「巻き込みかねんな。相当テオスの腕が良かったらしい。ということだ、ガキ。より素早く動けるようにしろ。」
アリィ「十分早いと思うけど…」
傾「走り方が悪い。早く行くぞ。」
アリィ「アドバイスをどうもありがとう。言葉が足りないって、私散々言ったんだけどね。」
傾「面倒だ。自分で考えろ。」
アリィ「へぇー。文句言いたいだけで、実力がないから言えないんだ。」
傾「そんな訳ないだろう。俺はわざわざお前が自力で成長する機会を与えてやったんだ。それともこんな簡単なことも考えられないのか?見た目以上に低俗なおつむだな。」
ノア「2人ともいい加減にして。よく喧嘩しながら登山できるよ…。」
傾「俺は鍛えてるからな。今日中にある村に着きたい。速度を上げるぞ。」
ノア「今日中ってかなり無理するけど…もしかして食料が無くなったの?ボクらの分多少は渡せるけど…」
傾「違う。黙って俺に付いてこい。」
アリィ&ノア「?」
ノア「あ、そこ危な…」
アリィ「あ。」
ノアの指摘は間に合わず、アリィは枝に足を引っ掛け転ぶ。
傾「先が思いやられるな…。」
ノア「大丈夫?」
アリィ「擦りむいただけだから平気。」
ノア「それなら良かった。 」
(…同族嫌悪…。アリィと傾は全然違う。性格が似てるとも思えない。何をもって同族だなんて言ったんだろう。)
ノア「…あ。」
(思えばボク、テオスのことは知っていても、アリィのこと、ジークのこと、全然知らない。 )
ノア「…ジークなら意味が分かったのかな。」
アリィ「ジークがどうかしたの?」
ノア「ううん。こっちの話。」
(そういえば…ジークが俺離れ出来るように〜みたいなこと言ってたような…まさか…)
ノア「…ねぇアリィ、少し聞いてもいい?」
アリィ「うん?」
ノア「…ジークのことって好き?」
アリィ「そりゃ好きじゃなかったら、一緒に旅なんてしないし好きだけど…いきなりどうしたの?」
傾「なんだ恋バナか?」
ノア「恋バナ食いつくんだ…。」
アリィ「別にそういうのじゃないよ。」
ノア「ジークの前ではさ、すごいざっくりした言い方になるんだけど…良い人に見られたりしたい?」
アリィ「まぁ…うん。」
ノア「ありがとう、すっきりしたよ。」
アリィ「よく分かんないけど良かった。」
ノア(こ〜〜〜れは……)
傾「そこ崩れるぞ。」
ノア「うわぁっ!」
傾「鈍臭いヤツらだ。」
アリィ「そうだよ、私達はあいにく鈍臭くてね。忠告だけじゃなくても助けてくれてもいいんだよ?あぁでもその武器より重たい物は持てないんだっけ。」
アリィは傾に嫌味を言いながら、ノアが落ちた場所へ行き上から手を伸ばす。
アリィ「掴まれる?」
ノア「うん、ありがとう。」
アリィ「引っ張るよー。」
アリィは軽々と傾の前で軽々とノアを引き上げる。
傾「怪物じみた腕力で。」
アリィ「ガキの腕力に負けるアンタには怪物に見えてるようで。」
傾「腕力だけの能無し。」
アリィ「んなっ…!」
ノア(なるほどね…。アリィは、今までジークが近くにいたから猫被ってただけで…ジークはその猫被りに気づいてたと…。ボクの前でも隠そうとしないのは嬉しいような、複雑なような…。 でもなんで傾はすぐに分かったんだろう…同族… )
ノア「…これからでも知っていけばいいか。」
アリィ「やっと着いた…。よくこんなとこに村なんて作ったね。」
傾「大体こういった辺鄙な場所にある村は、因習だか呪いだかがあったりする。」
ノア「やばいじゃん。」
傾「ただの妄言だ。気にしなくていい。」
アリィ「で、着いたはいいけどどうするの?」
傾「この先の休憩地点はかなり遠い。1度ここで休む。俺はある場所に行かねばならん。3人泊まれる宿を探していてくれ。…ああ悪い、お前の背じゃカウンターに届かないな。配慮が足りず悪いな。」
アリィ「別に届くし…」
傾「へぇそりゃ驚いた。背が低い人用にカウンターが作られていたとは。」
アリィ「第一アンタだってチビでしょ。」
傾「俺よりチビな奴にチビって言われても説得力がないな。」
アリィ「ほんっと…ムカつく…!!」
ノア「宿は探しておくから用事済ませてきて。」
傾「はいよ。」
ノア「は〜〜〜…。さ、宿を探そう。」
アリィ「人に聞いた方が早いかも。あんまり大きくない村だし、宿があるとしたら1箇所くらいだと思う。…そもそも無い可能性もあるけど。 」
ノア「まぁ傾も馬鹿じゃないみたいだし、最悪野宿は考えてると思う。」
アリィ「だといいんだけど。…村かぁ。」
ノア「どうしたの?」
アリィ「私の生まれた場所は町じゃなくて、村だったんだ。でも村を出てからまともに立ち寄った村ってベツさんのいた所位で、ほとんど町によっていたんだよね。ベツさんのいた所もあれは、村って呼んでいいのか怪しいくらい整備されていたし…」
ノア「あそこ、かなりしっかり管理されてたよね。」
アリィ「だからね…こののどかさと静けさがね…すっごい落ち着く。」
ノア「…それは良かったね…!」
アリィ「ま、アイツさえ居なければなんだけど…すみません、少しいいですか?」
アリィは横切った金髪の少女に声をかける。
金髪の少女「えぇ、なにかしら?…ってもしかしてアリィ?」
アリィ「…イリア?」
イリア「ええそうよ。イリアよ。」
アリィ「まさかここでまた会うなんて!」
イリア「私もびっくりよ。貴方達はもうとっくにもっと遠い場所へ行ったと思っていたわ。」
ノア「時の国で足止め食らってたからね。 」
イリア「ノア…貴方…」
ノア「色々あってね。今はかなり元気だから心配しなくていい。」
イリア「時の国の噂は色々聞いてるわ。今政治戦争中なんでしょ?大変だったわね。 」
アリィ「私達はあいにくそこまで…1番大変だったのは多分ジークなんだよね。」
ノア「ボクらと違って眠ってないしね…。」
イリア「?」
アリィ「ごめん、こっちの話。」
イリア「積もる話もあるでしょうけど…何かあったから私に声をかけたんでしょう?どうしたの?」
ノア「ボクら、宿を探してて…」
イリア「ああそれなら、この道をまっすぐ行ったところよ。」
アリィ「ありがとう、イリア。そういえば…シリルは?」
イリア「前にシリルには持病があるという話をしたのを覚えてる?それで今、持病の発作をシリルは起こしていてね…。宿屋で休ませてるの。」
アリィ「そうだったんだ…。」
イリア「心配しないで、命に別状はないから。ジークは今どこに? 」
ノア「…ジークは…」
言い淀むノアに対し、イリアははっとした顔をし、何かを察する。
イリア「…そう。ごめんなさい。私肝心な時に役に立てなくて。」
アリィ「イリアのせいじゃないよ。寧ろイリアが居てくれたら、ジークも事前に前情報を入れられたんだから。多分内部を引っ掻き回すくらいはすると思う。 」
イリア「どうしてかしら。突拍子もない話なのに、何故か納得してしまうわ…。」
アリィ「ジークならやるって思っちゃうんだよね、不思議。」
イリア「そうだ、虫のいい話だけれど…良ければシリルの様子を見ていてくれない?私シリル用に必要な調合薬の材料を買い出していてすぐには、どうしても戻って来れないのよ。」
アリィ「どうせ今日はここに泊まるしいいよ。」
ノア「傾はどうするの?」
アリィ「あれも多分すぐに戻ってこないよ。じゃなきゃ、別行動させたりしないと思う。後で癪だけど迎えに行こう。」
ノア「分かった。」
イリア「ケイ?新しい仲間?」
ノア「そんなところ。」
イリア「私達は階段を上がって右から2番目の部屋よ。お願いね。」
アリィ「うん。 」
カーテンが風にゆらゆら揺れるのを眺める。
シリル(…どんなに体調が悪くても、必ず眠りにつけるわけじゃないのは厄介だな。でも体を動かす元気もないし… )
コンコンとノックの音が聞こえる。
シリル「イリア?…ちょっと待ってて。」
のそのそとベッドから上がり、扉を開ける。
シリル「おかえ…アリィちゃん?なんでここに…」
ノア「顔真っ赤だね…!?」
シリル「熱が酷くて…」
アリィ「起こしちゃってごめんね。ほらもうベッドに戻って。」
アリィはぐいぐいとシリルの背中を手で押し、ベッドに戻す。
アリィ「イリアに頼まれて様子を見に来たんだ。まだイリアは帰ってくるまで時間がかかると思う。」
シリル「…そっか。また会えるなんて思わなかった。」
アリィ「偶然ね。無理して喋らなくて大丈夫。」
シリル「ううん、無理はしてないから…喋らせて欲しいな。眠れなくて…」
アリィ「分かった。隣のヒト、誰か分かる?」
ノア「だーれだ。」
シリル「ふふ…もう気づいてるよ。君は記憶の守り人ノアで…ポルポルちゃんでしょ?」
アリィ「絶対分からないと思った…。なんで分かったの?」
シリル「ポルポルちゃんとしての姿ならまだしも…ノアとしての姿はあまりにも有名だからね。」
アリィ「そうなの?」
ノア「ここでは違うけど…フィヌノア国では、かなり有名だろうね。なんせ、テオスを誘拐した大罪人なんだから。でも驚いた。そのことを君が知ってるなんて…。」
シリル「イドゥン教の休憩地点に、トスク国は選ばれやすいから…噂として残ってたんだ。人間ということになってるから、生きていないだろうってだけで…」
ノア「そう。分かった。素顔で行動するのは避けるようにするよ。」
シリル「ポルポルちゃんには…戻ったりしないの?」
ノア「あっちの方が楽だし寝てる時とかはそうしてるけど…あれ記憶が曖昧になるから…」
シリル「そっかぁ残念…。 」
アリィ「シリルの発作ってどんなものなの?」
シリル「…ええと…まずとにかく熱が高いかな…それと…全身痛くて…関節を動かすのがキツイかな…。」
アリィ「た、大変だね…。」
ノア「……。」
シリルの症状を聞き、ノアは考え込む。
アリィ「どうしたのノア?」
ノア「少し…思うところがあって。シリル、聞きたいんだけどさっき言ったので症状は全部?」
シリル「うん…そうだね…。」
ノア「シリルってどこの国の生まれなの?」
アリィ「あ、そっか。知らないよね、ノアは。シリルは記憶喪失に1回なってるから分からないよ。」
ノア「そうなの?」
シリル「そうだけど…なんで知ってるの?」
アリィ「イリアが前に話してたんだよ。」
シリル「いつの間にそんなことを…ごめんね、役に立てなくて…」
ノア「ううん、大丈夫。 」
シリル「あんまり役に立たないかもだけど…覚えている最初の記憶は…崖だったよ。 」
アリィ「崖?」
シリル「うん。…頭から血が流れてたし、多分崖から転落がきっかけで記憶喪失になったんだと思う…。その後は…馬車に乗ってたし外の様子は見えなかったから、分からないかな…。 」
ノア「そっか。教えてくれてありがとう。 」
シリル「どういたしまして。」
コンコンと扉を叩く音がする。
シリル「あ…鍵閉めてたんだった…」
そう言い、シリルは起き上がろうとするが、ノアに抑え込まれる。
ノア「病人は寝てなきゃダーメ。」
アリィ「ちょっとまっててねー。」
代わりにアリィが扉の鍵を開ける。
イリア「ただいま。」
シリル「イリア…おかえり。」
イリア「顔がかなり赤いわね…。2人ともシリルのことを見てくれていてありがとう。」
ノア「ボク達は特に何もしてないよ。」
アリィ「うん、お喋りしてただけだから…」
イリア「それでいいのよ。ヒトは体が弱ると誰かの温もりを求めたくなるものよ。少なくとも、貴方達のおかげでシリルは寂しい思いをしなくて済んだ。」
シリル「本人の前で言わないでよ…。」
イリア「ふふ。すぐ薬を作るわ。」
アリィ「じゃあ私たちはもう行くね。」
イリア「いいの?」
アリィ「本当にいいの?色々…聞きたいって顔、2人ともしてるわよ。」
ノア「…聞いてもボクのは誰も得しないような話だよ。」
イリア「別にいいわよ。…ちゃんと詳しく話していなかったし…多分貴方達が思ってる疑問は共通よ。 」
アリィ「じゃあ…当ててみて。」
イリア「何故私はノアの頼みを聞き、ジークの味方についたか。リスクだらけにも関わらず、でしょ?」
イリアは慣れた手つきで薬の材料を混ぜながら、答える。
アリィ「…当たり。ノアは?」
ノア「当たりだよ。…でも聞くべきじゃないとそう思ってしまって…君がボクの頼みを聞いたのは罪悪感からだよね?でもボクには君がボクに何をしたのか分からない。」
イリア「…長時間会話をしても問題ないほど、体が回復したいみたいだし全部ちゃんと…話すわ。」
シリル「…イリア。」
イリア「いいの。私は逃げるだけのヒトにはなりたくないの。」
ノア「その心構えは素晴らしいと思うけど…」
イリア「…私ね、『パラディソス』を滅ぼした張本人なの。」
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