テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ははあ、とオーマが感心した声をあげた。
「そう言われると、何だかそんな気もしてきますねえ。それはそうと——お次はどうするんです?」
「ラジオには、この市場でモリヤオサムとナカムラソウゴ——お前達二人の武器を揃えろと言われた。残るはお前だ」
ナギが蒼梧に視線を移して言う。
「武器、か……」
蒼梧は頭を掻きながら尋ねた。
「具体的には?」
しかし、ナギの返事はそっけないものだった。
「それに関しては指定がなかった」
「雑だな、おい」
「まあ、否定はしない」
苦笑しつつ、ナギが続ける。
「私も時々、お告げの言葉足らずな箇所に苛立つことがあるが——そういう時は、心の声に従えば上手くいく。幸い、金貨も三枚残っているしな。買える範囲内で、好きな武器を選べばいい。確か、すぐそこに武器屋が——」
「あそこはダメだよ。粗悪品しか置いてない」
割って入ってきた声の方を向くと、編笠を被り徳利を持った、信楽焼そっくりの狸が立っていた。
酔っているらしく、頬がほんのりと桜色だ。
「アンタらさあ、刀やら拳銃やら、随分と物騒なもん持ち歩いてるけども——親の仇でも取ろうってのかい?」
「ああ。〝宵闇〟の魔女を殺すつもりだ」
ナギの答えに目を丸くする狸だったが、きっと冗談だと思ったのだろう——すぐに大声で笑い始めた。
「そうかい、そうかい!だったら、ここからずーっと向こうの、広場の端っこの店がおすすめだよ。綺麗な姉ちゃん——いや、兄ちゃんなのかな?——まあとにかく、えらく顔の整った堕天使がやってる店があるからさ」
「堕天使、ですか?」
聞き返す僕に、狸が頷く。
「そうそう。品揃えはいいんだけど、場所が悪いんだよなあ」
大きく溜息をついてから、狸は語り始めた。
「以前に若い悪魔が〝風の子供〟を瓶詰めにして売ってたんだけどね。そいつ、接客態度が悪かったせいで客と揉めちまってさあ。それ以降、悪魔はみんな出禁になっちまったんだよ。堕天使ってのは悪魔と近しい間柄だから、その武器屋も巻き添えを食いそうになってね。ま、なんやかんやあって出店は許可されたけど——いろいろ肩身の狭い思いをしてるみたいだねえ」
「そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」
お礼を言い、話を切り上げようとした僕だったが、
「まったく、一人がルールを守らないと、みんなが迷惑するっていう良い例だよ。アンタらもそう思うだろ?」
狸はもはや、こちらの話を聞いていないようだった。
とろんとした目で虚空を見つめながら、徳利の酒をぐびりと煽る。
「他の悪魔連中も可哀そうになあ。古書店やってる爺さんとか、人当たりが良くて俺は好きだったんだけどねえ。まあ、『内容が悲しすぎて読むと自殺しちまう本』とか、売ってるもんは物騒だったけどさ。ああいうところは、やっぱり悪魔だな」
「は、はあ……」
まともに付き合うと、長くなりそうだった。
蒼梧が小声で、
「行こうぜ」
と僕に囁く。
「えっと……それじゃあ、失礼します……」
「正直なところさ、俺は運営は厳しすぎだと前々から思ってたんだ。ここだけの話、ついこの間だって——」
僕らは喋り続ける狸を残し、こっそりとその場を離れた。
狸の言葉通り、そのテントは広場の端にあった。
隣接する林のすぐ隣——他の店から、明らかに距離をおいて設置されている。
「いらっしゃいませ!」
テントに入ると、オレンジ色の髪をショートボブにした堕天使が、嬉しそうに近づいてきた。
服装は白のローブ。
中性的な声と顔立ちの持ち主で、狸の言っていた通り性別不詳だ。
外見は見惚れるほどに美しく、態度も朗らかであったが、頭の上に天使の輪はなく、背中の翼は黒に染まってしまっている。
「なかなかお客さんが来なくて、暇してたんですよー!いろいろあったせいで、場所が悪くって——」
「ええ、さっき事情は聞きました。悪魔と一緒くたにされて大変でしたねえ。ところで——」
同情を示した後で、興味津々といった口調でオーマが尋ねた。
「——どうして堕天なんかしちゃったんですか?」
「ちょっと、オーマ」
慌ててたしなめる僕だったが、当の堕天使は、
「なに、構いませんよ」
と可笑しそうに笑った。
「お恥ずかしい話、私はこの通り、武器が大好きでして」
「武器が好きなのは、いけないことなんですか?」
きょとんとするオーマに、いえいえ、と堕天使が首を振る。
「決してそんなことはありませんよ。悪しき者と闘うのも、天使の使命の一つですから。己の武器に愛着を持っている者も沢山居ます。ただ——」
「ただ?」
「——より正確に言うと、私は武器を使うのが大好きなんです」
堕天使はどこか狂気じみた、恍惚とした表情で囁いた。
「様々な武器を用い、相手の肉を裂き、骨を砕き、命を絶つ——そうした瞬間にですね、はしたない話で恐縮なんですが——フフ——凄くね、興奮してしまうんですよ——」
次第にその息はハアハアと荒くなり、口の端からは涎が垂れ始める。
「そうした記憶を反芻しながら——ああ——罪深くも、毎晩の様に自らを——」
「わ、わかりました!もう大丈夫です!」
何だか見てはいけないものを見ている気分になり、僕は堕天使の告白を遮った。
「おっと——いけない、いけない」
手の甲で涎を拭い、堕天使が微笑む。
「いろいろと取り揃えておりますので、どうぞお手に取ってご覧ください!鞘から引き抜くと絶叫する魔剣に、伝説の殺人鬼が愛用したナイフ!殺した相手の血をすする妖刀に、悪霊の取り憑いたウィンチェスター銃!あとはそうですね——とある世界において、歴史上初めての殺人に使われた石ころなんかもありますよ!」
言葉通り、テント内の机には古今東西の様々な武器が置かれている。
そのどれもが、禍々しいオーラを発しているのが僕にはわかった。
「〝心の声に従う〟って言ってもなあ……武器なんて今まで、金属バットくらいしか……」
と——蒼梧はそこまで言って、不意に黙り込んだ。
蒼梧の視線は、ちょうどバットくらいの大きさの、黒々とした金棒に注がれていた。
その金棒は、他の武器が霞んで見える程に邪悪で濃いオーラを纏っていた。
「……これは?」
「ああ——それは大昔に、地獄の獄卒が使用していたものですね」
金棒の棘をそっと指でなぞりながら、堕天使が言う。
「よく言うでしょう?〝親より先に死んだ子供は、賽の河原で石を積まされる。しかし石の塔が完成に近づくと、鬼がその石を崩してしまう〟——ってね。まあ、流石に最近はそんな酷いことはしていないようですが——当時は子供達の泣き声を聞きつけて、先祖の霊達がこぞって河原に押し寄せたらしいですよ。そうした霊を、この金棒で追い払ったんだとか」
そこまで言って堕天使は、ふう、と溜息を一つついた。
「まだお若いのに目利きですね、お客さん。これは確かに凄まじい妖力を秘めていますが——実は一つ、問題がありまして」
「何だ?」
「由来が関係しているのか、使い手は何故か、先祖の加護が受けられなくなってしまうんです。店に並べておいてなんですが、正直おすすめは——」
「決めた」
「え?」
ポカンとする堕天使をよそに、蒼梧は重そうな金棒をひょいっと片手で持ち上げた。
ニヤリと口の端を歪め、凶暴な笑顔で呟く。
「俺にピッタリの武器だ」
よし、と頷き、ナギが堕天使に尋ねた。
「そいつは幾らです?金貨で払いたいんですが」
「は、はあ——そうですね、この世界の金貨ですと——まあ、先程言ったような問題点もありますし、お勉強させて頂いて——」
少し考えてから、堕天使が言った。
「——三枚、ってところでしょうか」
「でしょうね」
金貨を袋から取り出しながら、ナギはふっと笑った。
「何となくですが、それくらいじゃないかと思ってました」
#学園生活
耐え内
196
阿炎快空
123
コメント
1件
ああ、今回も面白かったです!堕天使の武器屋の店主、最初は綺麗な人だなと思ったら、武器で♡♡♡快感に興奮するタイプでギャップがすごかった(笑)。オーマが遮るシーン、タイミング良すぎて吹きました。蒼梧が選んだ金棒の因縁話も重くて、でも「俺にピッタリだ」って即決するところが彼らしくてかっこよかったです。ナギの「それくらいじゃないかと思ってました」って台詞も、彼女の勘の良さが出てて好きです。続き、気になります!