テラーノベル
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無事に金棒を購入した僕らだったが、いざテントを出ようとしたところで、ナギの差している刀に堕天使が気がついた。
「そ、それ〝闇斬り〟じゃないですか!?ちょっと見せてください!——おおおお、この刀身の妖しい輝き——今までにこれで、誰か斬りました!?不死の魔物も殺せるって本当なんですか!?」
——結局僕らは、追い縋ってくる堕天使を振り切るようにして市場を後にした。
ナギは僕達を、公園のすぐ近くにある、蔦《つた》にびっしりと覆われた建物へと案内した。
側面に設置された非常階段を利用し、僕らは八階建ての建物の屋上へと登った。
遠くの空には、魔女の棲家である立方体が浮かんでいる。
どうやってあそこまで行くのかを尋ねると、ナギは懐中時計で時間を確認しつつ、
「もう少し待て」
とだけ言った。
「蒼梧さん、その金棒、重くないですか?私が預かっておきましょう」
オーマはそう言って口内から蔓を伸ばすと、金棒を『森』へと収納した。
「便利なもんだな」
と、蒼梧が感心して呟く。
「薬を買えたのもオーマのおかげだしね。ありがとう、大切な宝物を手放してくれて」
僕があらためてお礼を言うと、オーマは笑って、
「なあに、コレクションはまた集めればいいだけですから。もう一度次元の門が開くのを、気長に待ちますよ」
と答えた。
「なんだったら僕らが帰る時、一緒について来ない?たぶん、うちで面倒見てあげられると思うけど」
「なんと!それはありがたいですが——私がうっかり喋っちゃったりしたら、ご家族は腰を抜かすのでは?」
「まあ、最初はビックリするだろうけど、なんだかんだ受け入れてくれるんじゃないかなあ。もしくは——僕や蒼梧以外には正体を隠すか、だけど」
僕がそういうと、オーマは、ふーむ……と考え込んだ。
「大変魅力的なお話ですが……もしも死んでしまった場合、そちらの世界の土に埋められたのでは、蘇ることができないんですよねえ……」
「ああ、そう言えばそうだったね」
「こっちの土なら、何度でも生き返れるのか?」
蒼梧の質問に、いいえ、とオーマが首を振る。
「そちらの世界にも『猫に九生あり』なんて諺があるそうですが——こちらの猫は、本当に命の数が九つなのです。つまりキチンと埋葬さえされれば、最大で九回は復活できるということですね」
「ふうん。ちなみに、お前の命は残り幾つなんだ?」
「ええと、この前そちらの世界で車に轢かれたので——あと四つですね」
「結構死んでんだな」
「えへへ、うっかりさんなものでして」
コツン、と自分の頭を叩き、オーマが続ける。
「まあ、黒猫なんかはまた話が違ってくるんですけどね。あいつらは不死なんで」
「不死?」
「ええ。ナギさんの刀でも使えば、殺せるかもしれませんがね」
ナギの刀——〝闇斬り〟。
不死の存在でも殺めることができると、堕天使も言っていた。
「そういやあのナハトとかいう黒猫、口から蔓を何本も出して、自在に操ってたな。やろうと思えば、お前にもできるんじゃないか?」
そう尋ねる蒼梧に、オーマは情けない声で、
「勘弁してくださいよ。同じ猫だからって、魔女の飼い猫と比べないでください」
と返した。
確かにね、と僕はオーマに同意した。
「同じ人間だからって、僕も運動神経を蒼梧と比較されたらたまったもんじゃないし」
「俺の場合は、そもそも人間かも怪しいしな」
「おや、そうなんですか?」
首を傾げるオーマに、
「もしかしたらその内、化け物に変身しちまうかもよ」
悪戯っぽい口調で蒼梧が言う。
はぇー、と目を見開き、オーマは僕へと視線を移す。
「もしそうなったら、修さんはどうします?」
「そうだね……ゴキブリの姿だったら、殺虫剤をかけるかな」
真面目ぶった顔で答えた後で、僕は笑って続けた。
「冗談だよ——別に見た目が化け物だって、蒼梧は蒼梧だろ?」
「ゴキブリでもですかあ?」
「まあ、時間をかけて、何とか慣れるよ」
僕の言葉に、
「そりゃどうも」
と苦笑しつつ、蒼梧が肩を竦める。
「いいですねー!なんかこう、友情、って感じですねー!」
オーマは僕らの顔を交互に見て、にこにこと満面の笑みを見せた。
「まあ、ついつい話が脱線してしまいましたが——残りの命が一つになったら、思い切ってそちらに永住するのもいいかもしれませんね。私はそちらの世界が大好きなんです。会う人会う人、みんな声をかけたり、頭を撫でたりしてくれますし、空も青くて綺麗ですし——あれで車さえ走っていなければ——」
と、オーマがそこまで言った時だった。
ピンポンパンポ―――――ン……
屋外のあちこちにスピーカーが設置されているのだろう。
境界街に、アナウンス音が鳴り響いた。
『——あと一時間で、〝夜〟が訪れます——暗くなるので、気を付けましょう——』
ザアザアとノイズの混じった女性の声が、赤い空に木霊する。
「時間だ——」
少し離れたところに立っていたナギが、パチン、と懐中時計の蓋を閉めて言った。
「——始めるぞ」
ナギは小瓶の栓をあけ、〝新月の秘薬〟をぐいっと飲み干した。
(ナギが屋上に放った小瓶を「ポイ捨てはいけませんよお」と言いながら、オーマが『森』へ収納した)
見たところ、特に変化はない。
「効果が現れるには、少し時間がかかるらしい」
僕の心を読んだかのように、ナギが言う。
「薬の効果が確かだとして、お前一人が透明になっても意味ないんじゃないか?」
「ていうか、そもそも魔女の棲家にはどうやって辿り着くの?」
口々に尋ねる僕と蒼梧に、ナギは、
「慌てるな」
と答えると——唐突に、着ている服を脱ぎだした。
「わっ!?」
「うおっ!?」
「わお」
僕と蒼梧は慌てて目を逸らし、オーマは興味津々といった風にナギを見つめた。
ふぁさり、と服と毛皮のマントが地面に落ちる音が耳に届く。
続くカチャン、という音は、きっと刀を置いたのだろう。
「お前達、さっき『変身』がどうとか言っていたな?」
ナギの声が、僕らに問いかける。
断片的にしろ、こちらの会話も一応聞いてはいたようだ。
「見せてやる——」
メキメキメキ、という、骨の軋むような音。
ひえええええ、という、オーマの驚く声。
そして、それらが止んだ後で。
「——これが本当の『変身』だ」
ナギの言葉に、そろそろと顔を向けた僕は、その変わり果てた姿に、思わず息を飲んだ。
「す、凄い……!」
そこに居たのは、一匹の竜だった。
【第二部・異界探索異界探索 完】
#怪異
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#ダークファンタジー
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コメント
1件
わあ、第57話、読み終わりました! ナギがまさか竜に変身するなんて……「変身」というタイトルがここで効いてくるんですね。オーマとの会話で「ゴキブリでも友情」なんて和やかな空気があったからこそ、最後の変身シーンの衝撃が際立ちました。第二部完結、お疲れ様です。次がどうなるのか、もう気になって仕方ないです🌷