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│ 第2章 同じ時間、違う場所 │
救急車を呼んだあと、館のロビーは妙に騒がしくなった。
スタッフの男性は意識を失ったまま、担架で運ばれていく。
《命に別状はなさそうです》
救急隊員がそう言い残し、扉が閉まった。
残されたのは五人と、もう一人のスタッフ。
「……ロケ、中止だよな、」
切り出したのは佐野だった。
「そりゃそうやろ」
塩﨑が即答する。
「警察は来るだろうね。事故か、事件か、判断つかないし」
吉田が静かに言った。
「階段から落ちた感じでもなかったよな」
曽野が腕を組む。
「頭だけ強く打ってた」
吉田が言う。
「転倒にしては不自然だった。」
その言葉に、全員が黙った。
警察が来るまで、五人はロビーで待つことになった。
「一応、どこにいたか話しといた方がええんちゃう?」
曽野が言う。
「じゃあ、順番に」
佐野が言った。
「俺と仁人は二階」
「二階の奥の部屋を見てた」
吉田が補足する。
「時間は……二十分くらいか?」
「途中で誰か見た?」
塩﨑が聞く。
「いや」
佐野が首を振る。
「俺らは一階の右側」
塩﨑が言う。
「物置みたいな部屋が多かった」
「誰にも会ってへんな」
曽野が続ける。
視線が、 自然と山中に向いた。
「俺は……」
山中は少し考えてから言った。
「ロビーにいたよ」
「ずっと?」
吉田が聞く。
「途中でトイレに行った」
山中が答える。
「五分くらい」
「その時、スタッフさん見た?」
佐野が聞いた。
「いや…見てない」
その会話を、 誰かがメモしていた。
残っていたスタッフ―― 女性だった。
《一応、警察にそのまま伝えますね、》
彼女はそう言った。
警察が到着すると、状況は一変した。
一人ずつ、簡単な聞き取りが始まった。
佐野は同じことを話した。
吉田も、ほぼ同じ。
だが、
《時間、少し違うね》
警察官がそう言った。
《二階にいた時間、佐野くんは“二十分くらい”》
《吉田くんは“三十分弱”》
「……覚えてないです」
佐野はそう答えた。
「時計、見てなかったし」
《でも、その差は大きい》
警察官は淡々と続ける。
その言葉が空気を変えた。
聞き取りが終わり、五人だけになったロビー。
「……俺、疑われてる?」
吉田がぽつりと言う。
「そんなことない」
佐野がすぐに言った。
「でも、ズレてたのは事実やろ」
塩﨑が言う。
「俺らも、正確な時間は言えてへんし」
曽野がフォローする。
山中は、そのやり取りを静かに聞いていた。
「時間ってさ」
山中が言う。
「意外と、あてにならないよね」
誰も返事をしなかった。
その夜、五人は 近くの宿泊施設に移動した。
ロビーで起きた出来事は、誰も話題にしなかった。
だが、それぞれが別のことを考えていた。
同じ三十分
同じ館
なのに、重なっていない時間がある。
それが何を意味するのか、この時点ではまだ誰にも分からなかった。
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