テラーノベル
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魔王恐るべしである。
ニヴルの盆地居住を承認すると同時に向かいの尾根にコボルト5000名程を入植させてしまった。
山羊・ラマ・鳩の生産を生業とするらしい。
その隣にはオークの伐採場も建造が開始された。
名目はニヴルとの交易拠点。
実際にコボルト系商人が来訪し、鳩肉レーションのサンプルを置いて行った。
勿論交易とは口実で《これ以上魔界領内に踏み込むな。》という意思表示である。
やはりオークに高所を取られるプレッシャーは相当なもので、少なくとも今後魔界との外交交渉で軍事オプションをチラつかせる事は難しくなった。
「ま、いいんじゃね。
別に俺達から仕掛ける気もないし。」
『そっすね。
戦争に発展しにくい構造を作ってくれたのはありがたいです。』
俺とガルドはゲルに寝そべりながら、山頂に靡くオーク旗を見上げる。
まあ、落とし所だな。
こんな広い盆地の使用権を無期限で認めてくれただけでも感謝するべきなのだろう。
「それにしてもヒロヒコは負った手傷だけなら歴戦の勇者だな。」
『女にボコられただけですけどね。』
俺は腰骨を、橋本コージは肋骨を砕かれ静養中。
広尾のマンションでワイルド・スピードを鑑賞しながら仲良く寛いでいる。
カネならあるし、ある意味スローライフだな。
次は遠藤の双子を迎える準備。
意義を見出せないながらもインスタ撮影に付き合ってやっている。
(敬一郎氏からのリプライは華麗にスルー)
「おーう、少年。」
『ロキ先生、どもです。』
「ギガント共からトビタ少年宛てに感謝状届いたってよ。」
『え?
何で?』
「ほら、アイツらに贈った風魔石。
元々はオマエが仕入れたものじゃん。
ギガントも困ってたみたいだからな、感謝してたぞ。」
『あ、それは良かったです。』
伝言によるとギガント族は風魔石(大)をニヴルから贈られた事により、滞っていた各種業務を再稼働出来たらしい。
族長の私信曰く
「トビタからの借りはタカハシに返しておく。
仲良く同胞の墓でも作れ。」
とのこと。
苦労人のあの男らしく含蓄の多い伝言である。
「まあ、ウチとギガントが風魔石を入手し終わった事で、今後は市場も安定に向かうだろうよ。」
『じゃあ、しばらくは平和ですね。』
「ふっふっふー。
マーケットに平和なんて来てたまるかよww
次はジャンピングコングの胆嚢が値上がりするって噂だぜ。
ってな訳でワシは一攫千金に行って来るぜ!」
#ファンタジー
うにい
170
3,970
#白い結婚
夕凪ゆな
183
#オリジナル
いも
1
言いながらロキ爺さんはラマに跨って狩猟部隊に合流する。
元気な爺さんである。
やっぱり男はアクション出来てナンボだよなあ。
幾ら相手がキチガイとは言え、女にボコられているようじゃ論外である。
「あれー?
ロキさん、また狩猟?」
『ああ、マグダリオン軍師。
今度はコング狩りだそうですよ。』
「勇猛ですなぁww
トビタ殿は参加しないので?」
『ははは、この身体では不可能ですよ。
まあ、やるとすれば頭脳労働ですね。』
「素晴らしい!
大賛成です!
これからの時代はココですよ、ココ(自分の頭をツンツン突きながら。)
ご安心下さい。
トビタ殿にはこの私のビジネススキームを伝授致しますので。」
『あ、はい。
気持ちはありがたいのですが、俺は学がないので。』
「だーいじょうぶだいじょうぶ♪
今から見本を見せますから♪」
『え?
見本っすか?』
「ふっふっふー♪
尾根向こうのコボルト村が注文していたトレード水晶を配達してくれましたからな。
いやー、便利な時代になった。」
そりゃあ600年近く生きてりゃ時代の変遷にも感慨が深いだろうな。
「じゃーん!!
これがエルフの叡智の結晶!!
トレード水晶です!!
これ一つあれば、いつでもどこでも先物取引が可能ッ!!!」
『へー。』
「ふっふっふー。
前も申し上げましたが…
私は世界一、風魔石の買いポジションを保有している男ですからな!!
いやあ、ついに現金化する日が来ました!!
退職届も受理されたようだし、10年早いFIREです!!」
『え?
会社辞めるんですか?』
「はっはっは。
本当は300歳代で独立したかったのですがね。
不運にも、この歳まで社畜生活ですよ。
しかァし!!
不遇も今日までの話!!!
何故ならッ!!
私は世界一、風魔石の買いポジションを保有している男だからだァあああ!!!」
『へー、凄いっすねえ。』
「トビタ殿、今日までありがとうございました。
このマグダリオン、トビタ殿と過ごした日々は忘れませんぞ。」
『え?
帰るんですか?』
「あっはっはっは。
そりゃあね、今からワンクリックで世界一の大富豪になる事が確定してますから。
あー、大富豪用不動産のパンフレットを取り寄せておいて良かったー。
もうね!
私、知識だけなら世界一富裕層向け不動産に詳しいですから!!
うーん、どこに住もうかなー。
エルリーヒルズとエルハッタン、ふふふ迷っちゃうなー。」
『なるほどー。』
「じゃ、折角ですからトビタ殿にも立ち会って貰うとしますか。」
『え?
立ち会う?』
「はっはっは。
最新式のトレード水晶!!
エルフぺリアのMark7ですよ!
いやあ、結構高かったんですけどねえ。
まあ、成功が見えているからこそ出来る贅沢って奴ですよ。
はっはっはwww」
『ほえー。
流石はエルフ文明。
便利そうですねえ。』
「じゃ、画面開きますねー。」
『おお!!!
起ち上げが早いッ!!!
明らかにスマホの上位互換!!!
これこそ文明の粋ですよ!!』
「はっはっはー。
トビタ殿はお目が高い♪
ま、これからの時代はガジェットとツールを賢く使い倒してカネでカネを転がして行かなきゃね♪」
『ほえー。』
「じゃあ、私のポートフォリオ画面をお見せします!!!
驚愕せよ!!!!
我が膨大な含み益に!!!!!!!!
ポチっとな!!」
9999兆9999億9999万9999エル!!!
『おー、9がいっぱい。
マグダリオンさん大金持ちじゃないですか。』
「…え?」
『ん?
どうしました?』
【追証が発生しています
直近の期日は、エルフ歴29億7011万2025年某月某日です。】
「…あばばばばばばばばばば!!!!!!」
『マグダリオンさん?』
マイナス9999兆9999億9999万9999エル!!!
「あっばじゃああああああああああああああッ!!!」
『マグダリオンさーーーん!!!!!』
未だによく分からないのだが、俺が風魔石を仕入れた事が切っ掛けでニヴル・ギガントが風魔石の買い付け注文をキャンセル。
俺達への転売を狙っていたブンゴロド族が高値売却を断念して備蓄風魔石を放出。
それを見た各機関投資家が顧客に風魔石の上昇トレンド終了の注意喚起メールを送付。
市場はパニックとなり風魔石債は一気に超暴落した。
買い占めにより価格操作を行っていたエルフマンサックス社が政府に対して公的資金の注入を嘆願中とのこと。
まあ、要するに風魔石が大暴落したということだ。
うん、何かゴメン。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『という訳で気まずくなって広尾に意識を戻しました。』
「え?
そのマグダリオンって人はどうなるの?」
『いやあ、分からないっす。
一通り発狂して幼児退行してしまったので。』
「はええ、投資は自己責任とは言え大変だねえ。」
『コージさんは投資で損したりしないんですか?』
「いやあ、不思議とねえ。
僕の持ってる通貨は概ね上がるんだよ。
それを有料情報商材にして販売し終わって、更には売り抜けた頃に不思議と大暴落するんだけどね。」
『マジっすか。
コージさんエルフマンサックスの役員になれるかも。
今、CEO募集中らしいんですけどどうします?』
「素直に政府からの天下りを受け入れろってアドバイスしてあげて。」
『りょーかい。』
壊れたマグダリオンをゲルに寝かせてから、俺は広尾に帰って来た。
そりゃあね、幼児退行したジジーの世話とかマジ勘弁だからね。
「おぎゃあおぎゃあ。」
「いや、こっちもなんだけどね。」
『チャコちゃんさーん。
いい加減に機嫌直して下さいよ。』
「ばぶー! ばぶー! (グーパンチ)」
『痛い! 痛い!
暴力はやめて下さいよ。』
何でも【妖怪チャコちゃん】は|父親《俺》が心を入れ替えるまでは橋本コージの婚活を妨害し続ける妖怪らしい。
先程も橋本がマッチングアプリで知り合った女性との会話に割って入り、デートの予定をブチ壊してしまった。
「きゃっ♪ きゃっ♪」
『チャコちゃんさ-ん。
コージさんに迷惑掛けないで下さいよー。』
「パパー❤ パパ―❤」
『村上さんからも何か言ってやって下さいよー。』
「うーん、橋本社長には悪いけど。
俺としては心のどこかで嬉しさは勝ってるかな。」
『そうなんすか?』
「オマエが正式に親族になった訳だしな。
心置きなく跡を託せるよ。」
『縁起でもない事を言わんで下さい。』
「飛田は気が乗らんかも知れないが…
他の3人同様、チャコちゃんとも籍を…」
『ええ、まあ、子供に罪はありませんから。』
「チャコちゃんにも罪はないバブー!!」
『あ、うん。
土魔法(極)を保険金詐欺に悪用するのはギルティなので…』
「証拠はないよ♪ 証拠はないよ♪
キャッキャッ♪
飛呂彦が愛してくれなきゃ首都直下地震を起こすよ❤」
『えっと、こんな言い方したくないのですけど。
本妻のエヴァは魔法を難民救済に使ってるんですよ。
…それに引き換え。』
「ダー!!!(イヤイヤ期発動)」
エヴァが作り上げた広大な農地には多くの王国難民が住み、早くも最初の収穫が始まっている。
ここで生産される膨大な収穫は、多くの人民を潤し続けることだろう。
保険金詐欺師に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいである。
「で?
飛田はこれからどうするの?
脚が治ったら世界中をまた飛び回る?」
『いや、この脚はもう治らないみたいです。
新たに腰骨が砕けたことで、まともな歩行が不可能になりましたしね。』
「酷い!!
誰がそんな酷いことを!!」
「まあ、海外は治安が悪いしなあ。
その身体での海外出張は控えた方がいいかもな。」
『今はリモートも発達してますし、企画を成功させたことで天国の犬童社長にも顔は立ちましたしね。』
画面には新華社TVの報道特集が流れている。
今回の目玉は一帯一路政策の進捗を称える内容。
習近平がラピスラズリで作られた地球のモニュメントを少年のように燥ぎながらペタペタ触っている。
「そうだな。
無事に着金したし、あの世の犬童社長に顔向け出来るよ。」
『趙社長やバシール家も驚いてました。
こんなに早く企画が成功するなんて思っていなかったので。』
政治的な事情は分からないが、北戴河会議までにどうしても間に合わせたかったらしい。
こちらの掲げた定価+特急料金での発注だった。
まあ、どこでも政治は大変である。
「じゃあ、飛田はこれから落ち着く訳?」
『当面はコージさんの押し入れで寝て暮らしますわ。
これなら一応3人と一つ屋根の下で生活しているタテマエになりますし。』
「チャコちゃんも!
チャコちゃんも!」
「その半透明状態だしな。
当面はおとなしくしとけ。」
『はい。』
村上翁は新宿の店舗を処分した。
元から十分な資産があったし、伊東まゅまからミカジメ料を執拗に要求されていたからだ。
「水岡警部にも相談したんだがな。
伊東はまだ中坊らしくて刑事罰を与えられんそうなんだ。」
『世も末ですねー。』
「いや、俺に言わせれば飛田も似た様なモンだがな。」
そりゃあね。
この歳のジジーからしたら、俺も伊東も似た様なものだよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『どっこいしょ。』
「ん?
飛田君、どこかに行くの?」
『いや、子供も生まれたばかりですし…
父親としての義務を果たして来ます。』
「お。
自覚出て来たじゃなーい。」
『もう、コージさん。
からかわないで下さいよーww』
「『あっはっは。』」
俺は柱にしがみつきながら、力を振り絞って立ち上がる。
「私が飛呂彦の脚になるよ(自己陶酔)!!」
『ははは。』
「その流し方やめてー!!!」
俺はヨタヨタとエレベーターまで進み、沼袋のフロアへ。
分身体はブラギ邸の女部屋前に。
いや、両方半透明だから、俺の本体なんてどこにも無いのかもな。
『『|飛田《トビタ》です。
様子を見に来ました。』』
「あらぁ飛田さん。
今、南を呼んで来ますね。」
「あらぁトビタさん。
今、エヴァを呼んで来ますね。」
『『お義母さん。
いつもありがとうございます。』』
「飛呂彦。」
「ヒロヒコ。」
『『やあ、|飛呂彦《ヒロヒコ》だよ。
キミが心配だからお見舞いに来たよ。
身体は大丈夫?』』
「…。」
「…。」
『『どうしたの?
何か言いたそうな顔をして。』』
「本妻さんにも同じこと言ってるでしょ。
それもリアルタイムで!」
「その眼球運動からしてミナミさんとの汎用台詞だよね?
駄目だよ、女の子にそういう事しちゃ。」
『『…。』』
「…。」
「…。」
『『…じゃ、今日はもう帰るよ。』』
俺のワープはこういう使い道で落ち着く事になりそうだ。
半透明になった身体はしばらく治りそうもない。
なので外の世界に出るには、あまりに目立ち過ぎる。
精々、妻の機嫌を取るくらいの小市民的な使い方。
思う所は色々あるが、チートの運用というのはこれくらいが丁度良いのかも知れない。
少なくとも保険金詐欺や強盗よりも遥かに建設的だ。
『コージさん、ただいまー。』
「早ッ!!」
『父親としての義務を果たして来ました。』
「それ絶対果たしてない奴ーッ!!!!」
やはりガルドの言った通りなのだろうな。
俺の旅は終わった。
コメント
1件
ああ、このエピソードすごく良かったです…! マグダリオンさんの「あばばばばば」のシーン、思わず笑っちゃいましたけど、同時に投資の怖さも感じました。そして何より、トビタさんが「父親としての義務を果たして来ます」って言って戻ってきたのに、橋本さんに「それ絶対果たしてない奴ーッ!!」ってツッコまれるラストがもう…優しくて切なくて、じんわり来ました。半透明体で、それでも家族のところに行こうとするトビタさんの姿がとても印象的です。