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#三角関係
霞花怜
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#イラスト部屋
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
695
最初の一音を紡いだ瞬間、会場の空気が一変した。
ざわついていた広間が嘘のようにしん、と静まり返り――そして、ほんの数小節が進んだところで、最前列にいた若い女性スタッフが「っ、え……!?」と息を呑んだ。
「嘘……ちょっと待って、あそこって……朝倉奏さん、本人、よね……!?」
頭のなかが真っ白になったようにガタガタと震えながら隣の同僚の腕を掴み、信じられないものを見る目でステージを見上げる。その声を皮切りに、かつてテレビや音楽番組で彼の歌声を聴いていた世代の職員たちの目が信じられないものを見たとでも言わんばかりの表情に変わる。
「え、嘘、本物……!? やばい、生歌だし、え、どうしよう、いつも聞いてた音源より泣けるんだけど……っ!」
「ちょっと、ペンライト貸して黒瀬さん! 私も振るから!」
若い女性スタッフの一人はあまりの衝撃に両手で口を覆い、別の職員は完全にテンションが爆上がりしてその場で飛び跳ねそうになっている。
一方、利用者のおじいちゃんおばあちゃんたちも、誰もが一度は耳にしたことのある誰もが知る有名曲のイントロと、その透き通るような歌声にすぐに引き込まれていた。
「おや……いい声だねぇ」
「上手だねぇ、若いのになぁ」
最前列の車椅子に座るおじいちゃんたちは、ゆったりとしたテンポに合わせて体を心地よさそうに揺すり、リズムを取り始めている。隣にいる真理子は、「うちの子よ」と言いたげに、誇らしげに目を細めてステージ上の柊吾を見上げていた。
かすかに震えていたはずの声は、驚くほど滑らかに、すっと喉を通り抜けていく。全盛期の頃のような圧倒的な伸びやかさには程遠いかもしれない。それでも、確かに自分の生きた声が、この温かな空間に響いている。
(……歌えてる。僕、ちゃんと、自分の声で歌えてる……!)
胸の奥からとめどなく溢れる感動を必死に噛みしめながら、柊吾は目の前に広がる景色を見渡した。
どよめきと熱狂に包まれる職員たち。音楽に合わせて体を揺らす利用者たち。
そして、最前列の車椅子から満面の笑みで自分を見守ってくれている母・真理子の姿。
さらに客席の端では、両手に持ったペンライトを狂ったように激しく振り回し、誰よりも目を潤ませている瑞樹の姿があった。
そのあまりに必死で不格好な応援の仕方に、柊吾は思わず吹き出しそうになりながらも、懸命に声を紡ぎ続けた。
サビに差し掛かる頃には、会場のあちこちから小さな手拍子が自然と重なり始めていた。そして、歌い終えたその瞬間――談話室は割れんばかりの盛大な拍手と、若いスタッフたちの黄色い歓声に包まれた。
コメント
3件
私も朝倉奏様の歌声聞きたいよ〜(泣) 克服できただなんて、嬉しすぎて死ぬ 絶対涙出てくるなぞの確信があります!!これからも頑張ってください!!
わあ、かんなさん、この109話、もう冒頭から鳥肌立ちました……。「最初の一音で空気が変わる」って、読んでるこっちまで息を止めて見守ってしまいました。柊吾が「歌えてる」って実感する瞬間、真理子さんの誇らしげな眼差し、そして何より瑞樹さんがペンライトを狂ったように振ってる姿が目に浮かんで、胸が熱くなりました。再起と絆の温かさにじんわり……本当に素敵なシーンでした!