テラーノベル
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彼女はレッドブラウンの長い髪を揺らして私を覗き込む。垂れる髪を耳に掛ける仕草がセクシーだが、その瞳は優しさに満ちている。とても女性を買う人には見えない。その整った顔に思わず見とれてしまう。顔、プロポーション、声、仕草、……、彼女を形成する全ての要素に非の打ちどころがない。私の母はラウンジ嬢だが、母の勤めているラウンジで働いたとしても十分に通用するだろう。
「交渉しても良いかな?」
「え……は、はい。食事なら1.5万円(イチゴ)、大人の関係ならホ別で一発3万円、ただホテルは宿泊でお願いします。」
「随分お安いのね。貴女くらい可愛いのなら、もっと取れそうだけれど……。」
正直、私はここに来たばかりで相場をあまり知らない。ネットで調べたところ、大体その位だと出ていたから、そういう価格にしただけなのだ。
「あ……あの……パパ活に詳しいんですか? その……私……相場とか分からなくて……。私ってもっと高い値段で買ってもらえるんでしょうか?」
彼女は口元に手をあててクスクスと笑う。
「どうかしらね。私もパパ活の事はあまり知らないわ。それに、貴女のテクニック次第だと思うけれど……。とりあえず、貴女の事を買わせて頂戴。」
彼女は私の手に3万円を握らせる。この日、この街に来て初めてまともに女性と会話をした……。彼女が私に3万円を渡すという事は……つまり……彼女と大人の関係を結ぶという事だ……。
彼女は同性からもモテそうな見た目をしている……というか、同性には興味のない私ですらドキッとするビジュアルなのに、何故私を選んだのだろう? それに、セックスは何度も経験したことがあるがレズセックスはまだ未経験だ。私は上手くできるのだろうか……。
様々な不安が私の脳裏をよぎる中、彼女についていくと、今日の宿に到着してしまった。場所は有名な南国風のラブホテル。既に予約をしているようで、フロントからキーを受け取り、部屋の中へと入るとラブホテルとは思えないような広さだった。
通常のラブホテルは部屋に入ると小さなテーブルと2人掛けのソファー。そして部屋の大半をクイーンサイズのベッドが占めている。しかし、彼女の予約した部屋はテーブルを挟んでソファーが2脚あり、それとは別にマッサージチェアまである。ベッドには天蓋が付いており、ベッドの上から2人で大型テレビを鑑賞することも可能だ。
彼女は部屋に入るなり、小さな鞄をベッドの横に置いて、お風呂の準備を始める。
「シャワーは一緒に浴びてくれるの? それともオプションになっちゃう?」
「え……あ……一緒……一緒に入ります。オプションじゃないです。」
「そう言えば、名前、教えていなかったわね。私はアイって呼ばれているの。貴女は何て呼べば良いかしら?」
「名前……? ゆ……結衣です……川端 結衣(カワバタ ユイ)。」
アイさんは眉をひそめながら、困ったような笑顔を浮かべる。
「それ本名よね。駄目よ、こういう所で見ず知らずの人に本名なんて名乗っちゃ。他の人に名前を聞かれた時も本名を伝えたの?」
「いえ、他の人達は名前を名乗ってくれなかったし、名前を聞かれることも無かったので……。」
「じゃあ、他の人に名乗る時の名前を考えないとね。」
初めてのことばかりでペースが乱され続けている。初めて女性に買われ、初めてシャワーがオプションか聞かれた。それに名前も……。
今までのお客さんは部屋に着くなりベッドの縁に隣同士で座り、少し話をした後で服を脱がせて私の身体に貪りついた。シャワーは行為が終わった後……男が帰った後で一人で浴びていた……。
アイさんはベッドの縁に腰を掛ける私の隣に座った。
「アイさん……何で私を買ったんですか? 私より可愛い女の子は沢山いるし、それにアイさん程綺麗なら、女の子を買わなくてもレズビアンの相手を見つけられそうなのに……。」
「私はレズじゃないわよ。まあ、結衣ちゃんみたいに可愛い女の子は大好きだけど。」
そう言うと、アイさんは私に抱きつき頬ずりをしながら、私をベッドへと押し倒した。遂に始まるんだ……と思い覚悟を決めて、目をギュッとつむり唇を少し開く。顎を軽く上げて、アイさんが私の唇を好き放題できるような体勢となった。
するとアイさんはクスクスと笑いながら私の横に寝転がり、腕枕をしてくれた。そして、もう一方の手の人差し指を私の唇にそっと当てる。
「可愛らしいキス顔をごちそうさま。でも、そんなに怯えられたらキスなんて出来ないわ。それに私は本当にレズじゃないから安心して頂戴。」
「じゃあ、どうして……。」
「貴女とお話をしたかったの。昨日お店に来た人が、『大久保公園の”たちんぼ”(※)で、初めて見る可愛い子を買ったんだけど終始辛そうにしていた。良客が多いパパ活グループの話を持ちかけても心ここにあらずといった感じだったから、少し心配になった。』って話していたの。だから、どんな子なのか見に来たんだけれど、本当に可愛い子で驚いちゃった。」
(※)たちんぼ:路上などで客待ちをして性行為やパパ活を持ち掛ける人のこと。
そう言えば、初日に私を買った人がパパ活グループに誘ってくれたような気がする……あまり覚えていないけど……。
「貴女、本当は身体を売りたくないんでしょ? もし良ければ、何でパパ活なんてしているのか教えてくれないかな?」
呼吸が早くなる……胸が――心音がうるさいくらい鼓動が高まり、冷や汗と鳥肌が止まらない……。
思い出したくない……思い出したくない……思い出したくない…………思い出したくない……思い出したくない……。
逆流した胃液を喉の奥でせき止めるが、胃液に混ざり小便の香りを感じる……。
アイさんは慌てて私を抱きしめて、トントンと背中を叩いた。
「話したくないのなら良いのよ。」
私は首を振りながら呼吸を整える。アイさんの大きな胸に抱かれると――なんだか安心する――。私は涙を堪えながら、ゆっくりと口を開いた……。
#ギャグコメディ
トド村
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#ラブコメ
コメント
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うわ、35話読んだ! アイさん、めちゃくちゃ綺麗で優しい人だな……「レズじゃない」って言いながら結衣ちゃんを買った理由が「話したかったから」って、もうその時点で泣ける。結衣ちゃんが過去思い出して吐きそうになるところ、読んでるこっちまで息苦しくなった。アイさんの「話したくないなら良いのよ」って抱きしめる優しさに、私ももらい泣きしそうだったわ。続き気になる……!