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お別れ
紬希さんの葬儀には、大勢の人が集まった。
最期を看取る時に立ち会えた不死川さん、煉獄さん、悲鳴嶼さん、しのぶちゃん、それから私。
任務でそれが叶わなかった、伊黒さん、冨岡さん、宇髄さんの3人も、お通夜とお葬式には参列できた。
紬希さんは神主さんだったけれど、彼女の遺言書に則り、葬儀は無宗教式で執り行われた。
悲鳴嶼さんのようなお坊さんも、日本では多い仏教の家庭の隊士も、クリスチャンの家庭の隊士も、信仰する宗教がない隊士も、誰でも自由に紬希さんとお別れができた。
葬儀の間は紬希さんが好きだったという“オルゴール”の音が流れて、優しい紬希さんらしい、穏やかな時間と空間がつくられていた。
みんな泣きながら、祭壇にお花を手向け、微笑みをたたえて眠る紬希さんの亡き骸に感謝とお別れの言葉を述べる。
私も終始、涙が止まらなかった。
紬希さん。
優しくて綺麗で、格好よくて強い紬希さん。
さらさらの黒髪、硝子玉のように透き通った翡翠色の瞳、それを縁取る長い睫毛、茹で卵のようなつるつるすべすべの白い肌、淡い桃色の頬と唇。
お人形さんのように愛らしく、でも凛とした美しさも兼ね備えた、誰もが羨む完璧な容姿。
何度も私の恋愛相談に乗ってくれて、着物や雑貨を買いに行くのも付き合ってくれて。
お料理も上手で、よく私に外国のハイカラなお菓子を作ってくれたりレシピを書いて教えてくれた。
鬼殺隊内では有名な、特別な力を惜しみなく怪我人や病人に使って、一部の人たちからは“鬼殺隊のナイチンゲール”なんて呼ばれていたっけ。
すごくしっかりしてるのに、たまにお茶目なこともして、場の雰囲気を和ませてくれたりもしてた。
頭もよくて、でも決してそれを周囲にひけらかさない、非の打ち所のない人格者。
みんな、みーんな、そんな紬希さんのことが大好きだった。
なのに、もう二度と会えないなんて。
最期を看取ったけど、ほんとに“眠るように”って言葉が存在するのが納得いくくらい、紬希さんは静かに穏やかに、息を引き取った。
もっとお話したかった。
いつかは、当たるって有名な紬希さんの占いをやってもらいたかった。
美味しいものも一緒に食べたかったし、可愛い小物も買いに行きたかったし、しのぶちゃんも一緒に女子旅なんてものもしたかった。
手づくりのお守りもすごく嬉しかった。
神主さんの紬希さんが自分の手で奉製して、お祈りを込めてくれたお守り袋。
身体がしんどかっただろうに、私たちを想ってひと針ひと針丁寧につくってくれたのが伝わって、あったかくて、嬉しくて。
彼女の遺言書にあった通り、着物や雑貨、装飾品は鬼殺隊内で欲しい人がいただくことになって、私は万年筆を選んだ。
臙脂色に金色の花模様のお洒落な万年筆。これを使って美味しい料理のレシピを書いてくれてたんだと思うと、他の誰にも渡したくないくらい愛おしく感じたの。
それに、お守りと一緒に常に肌見放さず身につけておけると思ったから。
ハンカチがびちょびちょになってしまったので2枚目を取り出して涙を拭うけど、 紬希さんとの思い出が次から次へと頭の中に甦ってきて、涙はちっとも止まってくれない。
紬希さんが度々口にしていた、“上弦の鬼を倒す” “無惨も倒せる”という言葉。
私は信じる。絶対、鬼のいない平和な世界を作るんだ。
しばらくは紬希さんが恋しくて泣いてしまう日が続くだろうけど、少しずつでも前を向いて、彼女の分まで鬼をやっつけるんだ。
紬希さんが限界量の鎮痛剤を使ってまで、私たちの為に捧げてくれた祈りの舞も、ひとりひとりに平等に向けてくれた強い優しさも、決して無駄にはしない。
見ててね、紬希さん。
私、恋柱として、これからも頑張るからね。
つづく