ロノ 「あーん」する
ミヤジがお風呂から上がり、ホカホカのトリコを抱えて廊下に出ると、ベリアン、ルカス、ハウレス、ラトがファクトリーAIと話しているところだった。
「・・・だからといって、こちらで虫さんを食べさせるのは止めてください!」
「う〜ん、本当によくそれで生きていたね・・・。普通なら感染症ですぐに死んでしまうよ・・・」
「やはり、パセリを食べてもらいましょう。虫さんよりずっと美味しいですし、安全ですし・・・栄養は分かりませんが」
「・・・(吐きそうだ)」
[す、すみません・・・
で、でも、私達だって必死にトリコちゃんをお世話していたんです!
それに、全滅が近づいていた頃はニンゲンは虫も食料に利用していたので、食べさせても大丈夫だと思って・・・]
「「おえっ・・・」」
「大丈夫?ベリアン、ハウレス君・・・
無理そうなら部屋に戻って良いよ?」
ずっと昆虫食の是非について話し合っていたらしく、虫が苦手なベリアンと子供想いなハウレスはかなりのダメージを食らっていた。
とりあえず、ミヤジはトリコが風呂から上がったことをベリアンに伝える。
「ベリアン、話し中に済まない。
主様のお風呂が終わったんだが、これからどうしたら良いのかな?」
「あ・・・ミヤジさん・・・
えっと、主様はお腹が空いているだろうからとロノ君が夜食を作ってくれているそうなので、食べさせてあげてください」
「分かったよ」
ミヤジがベリアンと話し込んでいる間に、ハウレスが癒しを求めてトリコに話しかける。
「主様、キレイになりましたね。
気持ちよかったですか?」
『ん!』(頷く)
「可愛い・・・」
全力で肯定するトリコの笑顔にメロメロになり、優しく頭を撫でる。
ハウレスの撫で撫ではトリコのお気に召したらしく、嬉しそうにハウレスの手にすり寄っている。
それを見て対抗心を燃やしたらしいラトはミヤジに言った。
「ミヤジ先生、私に抱っこさせてください。良いですよね?」
「ラト君?」
「・・・おいで、トリコ。
ハウレスさんより、お兄ちゃんのほうが抱っこは上手だよ?」
「何?俺だって、抱っこは上手い。
それに、妹が居たんだ。扱いも慣れている」
「私だって、ずっと弟を抱っこしていました。それに、今もフルーレと一緒にいるので、負けませんよ?」
トリコを取り合うハウレスとラトに困っていると、夜食を持ったロノとピッチャーを持ったバスティンが上がってきた。
「ルカスさん!夜食できました!
あ、主様!お風呂上がったんですね」
「ロノ君、良いところに・・・
ラト君、ハウレス君、主様はお食事をされるから、離してくれるかな?」
ロノの声に助かった、と言いたげなミヤジがトリコを取り合う2人に声を掛けるが、取り合いは収るどころか激化した。
「ハウレスさんに抱っこは譲りましょう。
トリコ、お兄ちゃんが食べさせてあげるからね」
「いや、ラトのほうが抱っこしたがっていただろう。俺が食べさせてあげます」
遠い目をしたミヤジと言い争う2人、それを面白そうに見ているトリコ。
そんな状況を打破したのはバスティンの一言だった。
「食事の世話は調理と調理補佐の俺たちで良くないか?」
担当の領域で争えば負けることは目に見えているため、ハウレスもラトも残念そうにトリコから離れる。
「俺は子どもの世話はしたことがないから、抱っこがいい。
ロノ、食べさせてくれ」
「指図すんなよ!
・・・まぁ、そうするしかねぇけど」
主の部屋のテーブルセットに食事の支度をしていく。
椅子の高さが合わないため、子供用の椅子ができるまでは執事が椅子に座り、その上にトリコを座らせることになる。
バスティンはロノが食器を並べている間、膝の上にちょこんと座っているトリコの髪をいじっていた。
「・・・すごいな、真っ白で綺麗だ」
「・・・」(カチャカチャ)
「いい匂いだな。
・・・フェネスさんのシャンプーを使ったのか?」
「・・・」(カチャカチャ)
「ちゃんと手入れすれば、最上級の触り心地になるかもしれない・・」
「・・・だーっ!お前なぁ!!
人が仕事してる時に、なんで主様堪能してんだよ!ちったぁ手伝え!」
「むぅ・・・」
『うー?』
「そんなの真似しなくて良いですから・・・
・・・さ、お食事にしましょう!
はい、主様!あーん・・・」
『・・・ぁー?』
トリコは素直にロノのマネをして口を開ける。
すかさずロノがスプーンを口に入れ、スープを飲ませる。
もむもむと口を動かしてスープを味わっているトリコに、バスティンが後ろから話しかけた。
「美味いか?」
『・・・んま?』
「おい、食ってる時に話しかけんなよ」
「・・・すまん、ほっぺたが気になって」
バスティンは後ろから見える、トリコのまあるいほっぺたが動いているのが気になったらしい。
トリコがごくんと飲み込んだのを見計らって、指で柔らかいほっぺたをつつき始める。
「・・・うん、良いな・・・
これは癖になりそうだ・・・」
「おい、やめろって!食事中だぞ!」
「・・・ロノも触れば分かる」
バスティンは口煩いロノの手を強引にトリコの頬に当てた。
「!・・・これは、確かに・・・」
もっちりと柔らかく温かいほっぺたの感触に、ロノも思わずもちもちと揉み始めた。
『・・・むぅ』
2人にほっぺたをもみくちゃにされて、ごはんを放ったらかしにされていたトリコが不満げに呻くと、やっと頬から手が離れていった。
「す、すみません・・・お腹空きましたよね、はい、あーん」
「すまない・・・つい夢中になってしまった」
『んっ』
トリコはロノにスープを飲ませてもらい、満足げに頷いてみせた。
その後、ロノは手際よくスープと一口大のサンドイッチを食べさせ、無事に食事の時間が終わった。
バズティンが食器を片付けに行き、ロノが歯磨きをさせるためトリコを抱えて部屋を出た。
廊下に残っている執事はおらず、静かな洗面所でトリコの歯を磨いてやった。
ロノは明日の朝の仕込みがあるため、他の執事を呼んでくる、ととりあえずベッドの上に乗せられたトリコは、ロボの姿を探してキョロキョロと辺りを見回す。
ロボが近くに居ないと分かると、オセワッチを触りロボに連絡を入れた。
少しして、オセワッチからファクトリーAIがトリコに話す声が聞こえた。
[トリコちゃん、すみません・・・
ロボットさんは今探索に行っているんです。
今晩は執事さんとお留守番してもらってもいいですか?
どうしてもってことならロボットさんに帰還してもらいますけど・・・]
『・・・んーん・・・』
トリコは首を横に振り、ロボのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめている。
[ありがとう、トリコちゃん・・・
寂しい思いをさせて、ごめんなさい]
オセワッチの通信が終わると、トリコは枕に顔を埋め、啜り泣き始めた。
『ひっく・・・すん、すん・・・』
しばらくすると、ドアをノックする音がして誰かが部屋に入ってきた。
誰かはベッドの横まで歩いてくると、トリコの両脇に手を入れて抱き上げた。
「主様ぁ〜!寂しくなっちゃいました?」
襟についたふかふかの飾りにトリコの頭が埋まる。
『!?』
「えへへ〜、ボク、ラムリって言います!
お掃除担当なので、主様のお部屋とかロボ君をピカピカにするお仕事ですね!」
トリコがラムリの顔を見ようと体をモゾモゾと動かすと、ラムリはトリコを一度ベッドに下ろした。
ラムリはベッドの横に膝立ちになり、トリコの目線に合わせて話す。
「ロボ君はさっきあの機械で主様の世界に帰っちゃってましたね」
『・・・ん』
「主様は、暗いの怖くないですか?」
『?』
「う〜ん、大丈夫かなぁ?
まあ、いいや!怖くなってもボクが側にいますからね!」
(こくん)
「あ!そうだ、ボクの名前呼んでください!
ラムリですよ!ラ、ム、リ!」
『あ、ぬ、い?』
「ら!む!り!」
『な!む!い!』
「う〜ん、まぁ、最初ですからね!
そのうち上手になりますよ、うん!」
『なむい〜』
「はい、ラムリですよ〜」
『・・・んっ』
トリコはラムリに向かって頭を下げる。
「?どうしました?」
『ん、ん!』
トリコはラムリの腕に頭を擦り付け、撫でるように催促する。
「ああ、撫でてほしいんですね!
そ〜れ、ナデナデ〜!」
ワシャワシャワシャッ
ラムリはトリコの頭を両手で目一杯撫で始める。
『んひゃ、ん、ふへっ』
トリコは擽ったそうに笑い出した。
「なでなで、なでなで」
『・・・なれなれ?』
「なでなで、って言えば皆撫でてくれますよ!
ほら、なでなで、なでなで」
『なれなれ、なれなれ』
「はい、よくできました〜!
なでなでですよ〜!」
『きゃーっ』
ラムリと遊んでいたトリコだったが、段々と眠くなってきて欠伸が出る。
『・・・ふぁあ・・・』
「主様、おねむですか?
もうおやすみなさいしますか?」
『んー!』
「嫌ですか・・・」
『ゃ・・・』
「でも、ちゃんと寝たほうが良いですよ?」
『や!』
「う〜ん、どうしよう・・・」
『う〜・・・』
トリコはラムリの服の袖をガッチリ掴んで離さない。
ラムリはトリコを一人で寝かせるのは諦め、主様が離してくれなかったから、と言い訳をしながらベッドに上がった。
「ほら、ボクも一緒に寝てあげます!
1人は寂しいですよね・・・」
『!ん、ん!』
トリコは嬉しそうにベッドの中央あたりまで這っていき、ころりと寝転んだ。
「お布団に入りましょうね〜」
ラムリは布団をめくってトリコに掛けてやる。
自分も布団を被り、トリコを抱き寄せた。
「さ、寝ましょうか・・・
大丈夫ですよ、主様を置いてどこかに行ったりしませんから」
『・・・ん』
トリコはラムリの胸に顔を埋め、すぐに寝息を立て始めた。
「おやすみなさい、主様・・・」
そのあどけない寝顔を見ながら、ラムリも眠りについたのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!