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バスティン 絡まれる
主がミヤジとフェネスに連れられてお風呂に行くと、落ち着きを取り戻した執事たちは残った仕事を片付けに行ったり、食べている途中で放置してきた食事の片付けをしに行ったりで半数ほどは離脱した。
ベリアンはまだ意識が戻らず、魘されて苦しそうにしている。
「ベリアンさんは大丈夫なんですか?」
ロノが心配そうにルカスの横にしゃがみ込み、問いかける。
ルカスはベリアンの額の汗を拭いてやりながらう〜ん、と何とも言えない返事をする。
「倒れた瞬間を見ていなかったからね・・・。
もし頭を強く打っていたら、しばらくは動けないかもしれないね」
「ベリアンさん・・・」
バスティンも心配そうにベリアンの顔を覗き込んだ。
ロボはマニュアルが使えなくなってしまったため、ファクトリーAIにデータを送ってもらい、組み立てを終わらせた。
転送装置の横に光発電機とバッテリーの充電器が備え付けてあったので、ロボ自身のバッテリーや予備バッテリーの充電に困ることもないだろう。
組み立てが完了したことをファクトリーAIに報告し、早速充電器に予備バッテリーを設置した。
[やりましたね、ロボットさん!
これでそちらの世界に長期滞在できるようになりました!
あ、転送装置用の発電機に使うオイルの件なのですが・・・
今のところ3本ストックはありますが、トリコちゃんに何が起こるか分からないことには変わりありません・・・
なので、もう少しストック用オイルの材料を集めてきてほしいのです。
もちろん、トリコちゃんが寝ている時間とか、ロボットさんの都合の良い時でいいですからね!]
〈頷く〉
諸々の後片付けと掃除を終わらせたアモンとボスキが部屋に戻り、仕事道具の片付けを終わらせたハウレスが入れ違いでやってきた。
「・・・ベリアンさん、まだ意識が戻らないんですか?」
ルカスはまだ魘されているベリアンの頭を撫でてやりながら返事をする。
「うん、そうなんだ・・・
もう少し様子を見て、意識が戻らないようなら治療室に運んでもらおうと思っているよ」
「そうでしたか・・・」
そんな会話をしていると、ベリアンが小さく呻いた。
「う・・・、うぅ・・・ん?」
意識を取り戻したかもしれない、とロノとバスティンが声を掛ける。
「ベリアンさん!」
「ベリアンさん!起きてください!」
「うぅ・・・あれ・・・私・・・?」
薄く目を開き、ぼんやりと周りを見回すベリアン。
皆ホッとしてベリアンの様子を見守る。
「えぇと・・・そうです、転送装置が・・・
それで、足元にむ、虫さんが・・・
そしたら、主様が・・・
は!!
主様!主様は無事ですか!?
バスティン君、主様は!?今どこに!?
まさか死んでませんよね、生きてますよね、そうですよね、大丈夫ですよね!?」
ベリアンは状況を把握し始め、視界の大部分を占めていたバスティンに掴みかかる。
バスティンは驚いてすぐに反応を返すことができず、ベリアンのパニックを助長させてしまった。
「バスティン君!!
答えてください!!
主様は!!??
ご無事なんですよね!?
ねえっ!!??」
バスティンの肩を掴んでガクガクと揺さぶりながら大声で問い質すベリアン。
滅多にないほど取り乱しているベリアンに恐怖を感じながらルカスが間に入る。
「ベリアン、バスティン君が可哀想だよ、一回手を離して、ね?」
「ルカスさん!!今そんな場合じゃ!」
「大丈夫、主様は今お風呂に入っているんだよ」
「・・・死んでませんか?」
「うん。ミヤジとフェネス君が付き添っているから、心配ないよ」
「・・・よかった・・・」
ベリアンはやっとバスティンから手を離し、その場にヘタっと座り込んだ。
「はぁ・・・取り乱して申し訳ありませんでした・・・
バスティン君、本当にごめんなさい」
「だ、大丈夫だ・・・
このくらい、なんともない」(ドキドキ)
バスティンは強がっているが、若干声が震えているし、手の震えも収まっていない。
ルカスはしばらくベリアンと距離を取らせたほうが良さそうだと判断し、ロノとバスティンに主の夜食を頼んで厨房に行かせた。
「くふふ・・・
ベリアンさんもあんな声を出すんですね」
ロノとバスティンが厨房に行ってすぐ、ラトがひょっこりと顔を出した。
どうやら耳の良いラトは地下に居てもベリアンの声が聞こえたらしい。
楽しそうにくふふ、と笑いながらベリアン達の横を通り過ぎ、ロボの前に立った。
「ねぇ、ロボットさん。
いつもトリコにあんなものを食べさせていたのですか?
他にも変なモノを食べさせていたのではないですか?
返答次第では・・・ちょっと壊してしまうかもしれません・・・」
〈怯える〉
「くふふ・・・
大丈夫、バラバラにはしません。
トリコが悲しむのは嫌ですから」
どこからともなくナイフを取り出したラトに、ハウレスとルカスが静止をかける。
「ラト君、壊しちゃダメだよ。
少しでも壊れてしまったら、主様の生活に支障が出てしまうかもしれないんだ」
「ラト、フルーレやミヤジさんが傷つけられたら、許せないだろう?
主様にとってのロボットさんは、ラトにとってのフルーレやミヤジさんと同じくらい大切な人なんだ。
だから、ロボットさんを傷つけたら主様に嫌われるだろうな。
それは嫌だろう?」
ラトはしばらく考えてから、ナイフを仕舞った。
「・・・分かりました。
トリコに嫌われるのは嫌です・・・」
ハウレスとルカスはホッと息を吐いて顔を見合わせた。
後ろに居たベリアンも立ち上がり、ルカスの側に来た。
「・・・でも、そうだね・・・」
「はい、そうですね」
「そうですよね」
「?」
〈?〉
ルカスとベリアンは先程見た怖い笑顔をして、ハウレスは真顔で、ラトは不思議そうな顔でロボットを見つめる。
「さっきのラト君の質問には答えてほしいよね」
「はい、今まで主様に何を食べさせていたのか、教えていただかなくては」
「さあ、洗い浚い吐いてもらうぞ」
「くふふ・・・」
〈焦る〉
[どうしましょう、ロボットさん・・・
逃げられる雰囲気ではありませんよね?
うう・・・
仕方ありません、こちらも腹を括りましょう・・・
執事さん!質問には私の方からお答えいたします!
なので、どうかロボットさんをいじめるのはやめてください!
責任は私にあります!食べさせていいって言ったのは私なんです!]
ファクトリーAIの必死な叫びに4人は少し落ち着きを取り戻す。
「分かった。
じゃあまず、主様が暮らしていた環境について聞いていいかな?」
[はい!
トリコちゃんはテラリウム・・・私達が作ったシェルター内で暮らしていました。
シェルターには汚染物質が入ってこないように【汚染換気装置】を取り付けて、密閉していたのでトリコちゃんはお外に出ることはできませんでした。
テラリウム内は快適に過ごせるように、家具とかおもちゃを作って、少しずつ改装しているところでした。
・・・ただ、私の考えが足りず、トリコちゃんの口にするもの・・・水や食べ物も全て汚染されていることに気づくのが遅れて、トリコちゃんを危険な状態にしてしまったこともあります・・・]
「そうか・・・君たちは機械だから、そこまで気が回らなかったんだね・・・」
[はい、その通りです・・・]
「それで、主様はどんなものを召し上がっていたのですか?」
[はい、それが本題でしたよね。
トリコちゃんにはロボットさんが探索で見つけてきた有機物のうち、食べられそうなものを厳選してあげていました。
大抵はきれいめなキノコとか黒光りする虫とかでしたが・・・
たまに、寄せ集めの苔、へびイチゴ、なにかの触手、緑色のトカゲ、まるまる虫、なぞのにく、目の飛び出た魚、なども食べさせていました]
「・・・それは本当に食べられるものなのでしょうか?」
[・・・トリコちゃんは食べてましたよ?・・・たまに、おえってしてましたけど・・・]
「それは大丈夫なのか・・・」
執事たちはトリコの壮絶なテラリウム生活に軽い目眩を覚え、頭を抱えるのだった。