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素敵でした。😭
ゴトッ
ビールのジョッキを机に重たく、全体重をかけるかのように置く。
うん。ダダ漏れなんだよな。
────────
さっきから電話を俺とレトルトはしてるはずなんだが…。
勘違いか?
いや、そんなはずはない。
チラリとスピーカー状態にした携帯電話に目を向けるとその画面には「話し中」という文字が映っている。
「………………。」
俺が口を開けないでいると一緒に居酒屋に来てたガッチさんが喋りだす。
「とんだ茶番劇だね~。」
もうその通りでしかなくて俺は強く頷いた。
「俺らアイツらを、飲みに誘ったはずだったよな?」
「うん。電話を聞く限りではね。」
ガッチさんはもうどうにでもなれと思っているのだろう。
だんだんと面倒くささが酔いとともに、顔に出始めている。
「にしてもなぁ…。」
一応電話に届かないように小さな声で呟く。
「実況の話ではないよなぁ?」
その一言を聞き逃さなかったようでガッチさんは
「この話は流石に、ねぇ?」
「ごまかしもききませんし~」
と、酔いがまわっているはずなのに、ハッキリと内容を覚えてる口ぶりだった。
今回のは確かに。
いつも通りの何気ない会話のようにも聞こえたが、二人のぎこちなさと会話の内容からして甘い雰囲気にでもなってしまっているのだろう。
キヨに関しては声が裏返っていたし。
「あの二人はねぇ。」
俺はこんな電話越しでも伝わるような雰囲気がもどかしくて切ってしまおうかと思っていた。
だが、ガッチさんがその考えを遮った。
「うっしーも知ってるでしょ?」
「………何が?」
「えぇ~…そんな恥ずかしいことをおじさんに言わせちゃう~?」
「…はいはい。」
俺は一旦スマホから目を離してガッチさんの方を見て答える。
「アイツら…両思いってことだろ?」
「いや、うーん、正解なんだけど…」
「正確には二人とも意気地無しってことね。」
「は?」
なにそれ。かすってもないじゃん。適当おじさんどころじゃねーよ。これは。
「ど、どういうこと?」
「意気地無しって。」
そう聞くと、ガッチさんは静かに空になりかけのジョッキを置いてゆっくりと話し出す。
「だってさ、キヨはね。」
「レトさんに好きだって伝えないじゃん。」
「自己防衛ばーっかでさ。」
「まぁ、確かに。」
けど、伝えられないのは普通だと思うんだけどなぁ。
すると、俺が顔に出していたのかガッチさんは「…7、8年くらい前からだよ。」と一言。
「なるほど。納得だわ。」
「ね?」
キヨは伝えたいのに伝えたくないという反芻思考な意気地無し。
そういうことか。
「それで、レトさんはね。」
ガッチさんが話を進める。
「気持ちを認めないんだよね~。」
「こんな気持ちは迷惑だろうからって自分を押し殺して見ないふり。」
「…すげぇ。しっくりくるわ。」
「だって、ほぼ100%で事実だもん。」
レトルトは素直に自分の気持ちを受け止めない意気地無し。
あー…なるほどね。
「…これは…俺達が口出ししてどうこうなる問題じゃねーな………。」
ビールを一口、口にする。
「そゆことだね。」
ガッチさんは光のない瞳で何処か遠くを見た。
理解してんだよ?俺らも。
でもアイツらがアイツらでなくなることの方が見てられないから。
助言してやれないんだ。
あー、俺らも相当な意気地無しだなぁ。
俺とガッチさんは同じタイミングで乾いた笑いを零して。
俺は電話を切った。
「意気地無し」 fin.