テラーノベル
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『出来ない』
『落ちこぼれ』
『神様の設計ミス』
……そんなの、とっくに分かってる。
ヒーロー活動をして、
ビットマネーを稼いで、
この世界で生きていく。
幸せになること。
普通に暮らしていくこと。
……そして、ほんの少しでいいから、
誰かに愛されること。
ただそれだけを願うことが、
何でそんなに贅沢なんだよ。
「サーティーン!」
俺を見つけると同時に、ニコニコしながら駆け寄ってくる相棒。
まだバトルが下手くそな相棒は、イベントバトル期間ってこともあって、練習がてらコンパスにしょっちゅう滞在している。
「知り合いがいなくて不安だったんだけど、
サーティーンがいてくれてほんと良かった~!」
「寂しがり屋だなァ、お前。俺以外に友達いねぇのかよ~」
憎まれ口を叩きながらも、笑って相棒の背中をバシバシ叩く。
俺と相棒の付き合いは長い。
なんせ相棒が初めてパートナーを組んだ相手が、この俺なんだから。
色んなヒーローがいる中で、わざわざ俺を選んでくれた最初の人間。
バトルは苦手で、いつも他の仲間に助けられながらヒィヒィ言って戦ってるヤツ。
そんなヤツだけど、……俺にとって特別な相棒。
「……そんなことないよ!サーティーンが一番付き合い長いし、何も遠慮しなくていいし」
へへっと照れ臭そうに笑って、俺を見上げる。
「……俺をなんだと思ってんだよ、お前」
コノヤローとばかりに、相棒の髪をぐしゃぐしゃにかき回す。
俺よりだいぶ背の低い相棒は、案の定すぐ餌食になる。
「ちょっと! さっきバトルで乱れたから直したばっかりなのに!」
も~! と文句を言いながらも、本気で怒ってる感じじゃない。
「わりぃわりぃ! 後で飲みもん奢ってやっからよ」
今度はさっきとは違って優しく頭をよしよしと撫でて、肩を組んでカフェテリアに向かう。
俺への信頼も、もちろんあるんだろうけど、
何よりたくさんのヒーローがいる中で俺を選んでくれた相棒は、会うたびに俺の心をざわつかせてくる。
……誰にも必要とされず、当たり前のことが出来ず、
求めていることだって大層なもんじゃない。
それなのに相棒は俺を必要としてくれて、どんなに失敗してもへこたれず、そんなダメな俺と一緒にいてくれる。
相棒にとって当たり前のこと、
――それが俺にとっては特別でしかない。
相棒にはきっと、俺のように深い意味なんてないのかもしれない。
それでも……今この幸せな時間を、
ずっと一緒に過ごしたいと思ってしまう。
……それぐらい、俺の中で相棒は、……大きな存在なんだ。
「この飲み物にする~!」
笑顔でメニューを指差す相棒。
「へいへい」
口ではそう言いながら、ちゃんと買ってやる俺。
この、2人で過ごす時間は穏やかで、幸せと呼ぶことのできる時間だ。
……これ以上の幸せを願うなんて、もう贅沢すぎるだろ。
――俺のこの感情が、どんどん大きくなって、
もう抑えきれないところまで来てることに……
きつく蓋をして、押し込めて、見えないようにする……
「…サーティーン、実はサーティーンに言わなきゃいけないことがあって」
いつものラウンジでくつろいでいると、
急に神妙な顔をした相棒が切り出してきた。
「ンだよ、ずいぶん改まって。
お、とうとう相棒にも春が来たってか?」
頭の中では一瞬、そんなわけねぇだろって思う。
だって相棒、ログイン欠かさないし……
いやいや、あり得ねぇって。
「なんかその言い方腹立つんだけど……なんと正解でーす!」
いぇーい! と両手でピースして笑う相棒。
一瞬で頭の中が真っ白になった。
でも、すぐにスイッチを切り替える。
これは……一緒に喜んでやるべき場面だろ。
「マジかよ! 相棒にもついに春がきちまったかァ~!」
「同じ学部の男の子に告白されちゃって!
だからこれからちょっとログイン減るかも……ごめん!」
相棒の言葉が、耳に突き刺さったまま離れない。
……お、おう。
よかったな。
マジで、よかったよ。
俺は笑顔を貼り付けて、相棒の肩をポンと叩く。
「頑張れよ、相棒。
お前みたいなヤツ、絶対幸せになれるって」
相棒は「えへへ、ありがとー!」と無邪気に笑って、
そのままラウンジの出口に向かう。
俺は動けないまま、ただその背中を見送るしかなかった。
その日から、相棒のログインが減った。
さらに言えば、彼氏とバトルに参加してるのか、女性ヒーローを選ぶことが多くなって、
俺を選ぶ回数が明らかに減っていった……
あの零夜にすら「最近顔色悪いけど、大丈夫かい?」って心配される始末だ。
……うるせェよ、ほっとけ。
たまにバトルで一緒になれば、彼氏と仲睦まじく話してる姿を見せつけられる。
そんな日々が1ヶ月ほど続いて、俺の心がどんよりと灰色に染まるのに、時間はかからなかった。
覚えたくもないのに、彼氏の顔を覚えた頃だった。
コンパス内で、あの彼氏が別の女性と仲睦まじくしてるのを目撃しちまった。
……いや、見間違いかも知れねェ。
首を振って、再度確認する。
ベンチに座って、……キス、してやがる……
その後もいちゃいちゃと密着しては顔を寄せ合い笑っている。
相棒が告白されたって嬉しそうに言ってきた時の「ありがとー!」と笑った彼女の顔が脳裏によぎる。
……俺の気持ちも、相棒の気持ちも、全て踏みにじられた気分だ。
ピコンッと、相棒のログイン通知が鳴った。
それと同時にクソと浮気女がようやく離れ、『また後で』とキスをして別れた。
その後数分で、相棒がクソのところにやってきた。
……もちろん、笑顔で。
怒りで頭がどうにかなりそうだった。
俺の全て、ただ一人の相棒。
大切な相棒が幸せになれるなら、俺の気持ちだって永遠に蓋をしたのに。
「よォ、おふたりさん」
俺は至極冷静を保ちながら、
いつものように2人に話しかけた。
存外、顔のほとんどはマスクで隠れてるし、
笑顔を貼り付けるのも得意だ。
「あっ、サーティーン!」
相棒は2人でいるのを見られるのが恥ずかしいのか、
少し照れ臭そうにしている。
……そいつの前でそんな顔しないでほしい。
ほんの少し前に、そいつはお前以外の女と一緒にいたんだぞ。
……とんだ、クソ野郎だぞ。
そんなやつと別れて、前みたいに、
……俺と一緒にいて欲しい。
離れるなよ、側にいてくれ、
俺にはお前しかいないのに……
全てをぶちまけそうになる。
どろどろとした感情が灰色の心を黒く染めていく。
「今日の約束さ、本当に申し訳ないんだけど、
ちょっとバイト入っちゃって。
今夜またバトアリで会おう!」
また今度必ず埋め合わせするからと、本当に申し訳なさそうに両手でごめんっと謝るクソ野郎。
「ううん、バイトなら仕方ないよ! また夜にね!」
相棒は少し寂しそうだったが、気丈に振る舞っていた。
「……急に、暇になっちゃったな」
相棒が、ぽそりと静かに呟いた。
「あ~っと、……俺っちも暇だし、コンパス内ぶらぶらするか?いつもバトアリ頑張ってるし、
今日はお疲れ様ってことで。飯でもなんでも奢ってやるからよ」
……明らかに沈んでいる相棒を放っておくことなんてできないしな。
「!……サーティーンは優しいなぁ」
驚いたが、すぐに嬉しそうに笑う相棒。
……あぁ、やっぱ相棒はそうやって笑ってるのが一番だ。
いっぱい買い物とかしちゃおうかなぁとニコニコ笑いながら、
隣を歩き出す相棒に、思わず笑みが溢れる。
相棒が、隣にいる。
それだけでこんなにも舞い上がる。
と、同時に、なんであんなやつがいいんだと、
憤りを抑えるのに必死な俺もいる。
……俺の方が、側にいるのに。
相棒だけを、見ているのに……
ぶらぶらとウインドウショッピングを続ける。
「あれ可愛い」「これ着やすそう」なんて、相棒が次々と言いながら、
適当にショップを回っていく。
「……あ、これいいな」
今まで流れるように喋っていたのとは違い、
相棒はぴたりと足を止めて、ショーケースをじっと見つめていた。
赤とオレンジの夕陽が、夜の闇に溶けていく様を水晶に閉じ込めたネックレス。
柔らかな光を放ちながら、静かに輝いている。
「……欲しいのか?」
「いやいやいや、さすがに5000BMは高いって!」
ぶんぶんと首を振って、
「まぁ、いつか買うよ」
そう言いながら、相棒は少し名残惜しそうにその場を歩き出した。
俺はすぐに店員に声をかけ、それを購入した。
小さな箱をポケットに仕舞うと、
そっと相棒に足並みを揃えて、隣を歩き出す。
いつものカフェでドリンクをテイクアウトすると、
俺たちは夕方の静かな公園のベンチでひと休みした。
……渡すなら今しかねェ。
俺は意を決して、先程購入した箱を相棒の前に差し出した。
相棒は「へ!?」と素っ頓狂な声を上げ、
箱と俺の顔を交互に見つめてくる。
「……あー、なんでも奢ってやるって言ったろ?」
……それ、気になってんのわかってたし。
「……うわ、どうしよう、すごい嬉しい」
目をキラキラさせて、ネックレスを夕陽にかざしている。
闇に溶けかけた夕陽の光と相棒の瞳が、まるで一筋の光のように輝いている。
……ああ、すげぇ、綺麗だ……
「せっかくだ、それ、付けてやるよ」
俺は相棒の手から優しくそれを取ると、そっと首に付けた。
俺があげた物を付けてるだけで幸せを感じる。
夕陽が沈み、あたりが薄暗くなる。
……浮気男のことを話すにはちょうどいいだろう。
俺は、意を決して切り出すことにした。
「……なぁ、最近、彼氏とはどうだ?」
まずは、相棒がクソをどう思ってるかだ。
「……付き合った頃はデートしたり、お昼一緒に取ったりとかあったんだけど……」
その、……と相棒は少し言い淀んだ。
俺が「だけど?」と催促すると、
「その、……キス以上を拒んだ時からちょっと、デートをほとんどしなくなって、
昼も一緒に取るのも稀になっちゃって……」
は?
マジクソ野郎じゃねェか。
ぶっ殺。
「は? 相棒の体目当てだったってことじゃねェか」
ど糞野郎じゃん。
俺は怒りで声が震えた。
「……サーティーンもそう思うよね。
私は付き合ってすぐにそういうことはしたくなかったんだけど。
彼はそうじゃなかったみたい」
相棒は切なそうな笑みを浮かべ、目も少し潤んでいた。
「……今の話で確信したぜ。
そいつ、その時から……浮気してやがる」
相棒の目が一瞬大きく見開かれ、少し納得したような顔になる。
俺はさらに畳み掛けるように言った。
「……そいつはとんだクソ野郎だ。
なんせ、今日、相棒と会う前に知らねェクソ女と……キスしてやがったんだから」
俺は真っ直ぐ相棒を見つめ、言い放った。
ーーー相棒は、ちゃんと知るべきだ。
相棒の目からポロポロと、静かに涙がこぼれ落ちる。
「そんな……気はしてたんだ。
はは、……私舞い上がっちゃって、ちゃんと中身見てなかったんだな」
泣きながら「見る目ないなぁ」と笑う。
「……相棒は見る目あるぜ。
なんたって、このスーパーイケてる俺様を最初のパートナーに選んだんだからよ」
俺は相棒の涙をそっと拭い、優しく頭を撫でた。
「……これからは俺がずっと側にいる。俺の方が相棒を大事にできる。だから泣くんじゃねェ」
俺は、相棒をぎゅっと抱きしめた。
「さ、サーティーン?!」
びっくりして動揺してる相棒を、
さらにぎゅっと抱きしめる。
「……誰よりも大事なんだ。
相棒が幸せならそれでよかった。
でも、あんなヤツより、俺の方が相棒を大事できる」
もう、あんなやつに渡すなんて、できねェ。
「……好きなんだ、相棒が。誰よりも」
きつく閉じたのに……蓋は、もう見当たらない。
……溢れた感情は、止められない。
「……サーティーン」
相棒がゆっくりと俺の背に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくる。
「……私のこと、大事にしてくれている人が、こんな近くにいたんだね」
そう言って、優しく笑っていた。
「……私、サーティーンと一緒に、いたいな」
相棒のその声を聞いた瞬間、俺の灰色の世界が……鮮やかに色づいた。
どれくらい抱き合っていただろう。
静寂だった中、プルルルルッと端末が鳴った。
相棒はそっと抱きしめた手を下ろすと、自身の端末を手に取った。
「もしもし、今どこにいる?」
……クソからの電話だ。
相棒との幸せな時間、邪魔しやがって……クソが。
「バイト大丈夫になったから、これから俺の家で会わない?
もうすぐ付き合って1ヶ月だし、そろそろ……してもいいんじゃないかなって」
濁したような言い方だが、「抱かせろよ」と言ってるようなものだ。
「……こればかりは貴方に同意はできない。私には私のペースがあるの」
相手が何か言いかける前に、相棒はきっぱり続ける。
「……黒のワンピースを着た、胸の大きな可愛いあの子に相手してもらったらどう?
この、……クソ野郎が!!」
そう啖呵を切って、ブチっと電話を切る。
すぐさま端末をポチポチ操作して、
「……はい! 連絡先、削除!!」
相棒は少し震えていたが、
やってやったと言わんばかりの顔で笑っていた。
「……はっ、さっすが俺様の相棒だぜ」
俺は相棒の頭を優しく撫でた。
「これからはサーティーンの側にずっといるよ」
相棒はネックレスをそっと触り、優しく俺に笑いかける。
「俺だけの相棒。相棒だけの俺だ。
……誰よりも大事にする」
俺はそう言うと、優しく額にキスをした。
鮮やかに色付いた俺の世界
ただひとりに愛される
当たり前の幸せ
“愛してる”
俺は心の中で、相棒へ呟いた。
コメント
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pixiv版と同じ作品ですが、あまりこちらにアップしてなかったので載せました!