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「ねえ、ルシンダ嬢は生徒会を手伝ってるんだろう? よかったら見学させてもらえないかな?」
あと数日で夏休みというある日の放課後。
これから生徒会室に向かおうとしていたルシンダは、エリアスからそんなことを頼まれた。
今まで生徒会に興味があるような雰囲気はまったく感じなかったけれど、どうしたのだろうか。
「もちろん、大丈夫ですよ。でも、急にどうしたんですか?」
「ああ、時間は限られてるからね。これからは関わる機会を積極的に増やしていこうと思って」
そう言って艶やかに笑うエリアスを見て、ルシンダはハッとした。
きっとエリアスは一年間の留学期間中にどんどん学園のことに関わって学びを得たいと考えているのだろう。
「エリアス殿下、ご立派ですね……! そういうことならお任せください」
ルシンダはぎゅっと拳を握って自信満々に請け負うと、「なんだか誤解してる気がするけど……まぁいっか」と呟くエリアスを生徒会室へと連れて行くのだった。
「みなさん、お疲れ様です!」
ルシンダが意気揚々と生徒会室のドアを開ける。
それを嬉しそうに出迎えた生徒会長のユージーンはじめ役員一同は、ルシンダの隣で笑顔を浮かべているエリアスを見て一様に表情を固くした。
「ルー、彼はたしか……」
「はい、マレ王国から留学に来ていらっしゃるエリアス殿下です。学園のことに積極的に関わりたいとのことで、ぜひ生徒会を見学していただきたいのですが、よろしいですか?」
ユージーンもクリスもアーロンもライルも、全員がエリアスの動機を疑う。しかし、きらきらした笑顔でお願いするルシンダに反対できる者など、ここには誰一人としていなかった。
「はぁ……仕方ない、見学を許可するよ」
「ありがとうございます! では私が案内しますから、皆さんは引き続きお仕事を……」
さっそくエリアスを案内しようとするルシンダをユージーンが止めた。
「いや、アーロン。ルーの代わりにお前が説明して差し上げろ」
「はぁ!? 私がですか?」
「お前もクラスメイトだろう。同じ王族同士だし、遠慮なく説明してやってくれ」
「いや、ですが……」
「ルーが付きっきりで説明することになってもいいのかな?」
「……はぁ、分かりました」
そう言われてしまえば引き受けるしかない。
げんなりした様子のアーロンに、ルシンダが気遣わしげに声をかける。
「アーロン、もしかしてお忙しかったですか? 急にお願いすることになってすみません……」
申し訳なさそうに眉を下げるルシンダを見て、アーロンが慌てて表情を繕う。
「いえ、全然問題ありませんよ。私もエリアス王子のやる気に感心しました。彼には私からみっちり遠慮なく嫌になるくらい説明しておきますから、ルシンダはいつもどおりみんなの手伝いをお願いします」
「それならよかったです。よろしくお願いします」
「任せてください。ああ、そうだ。この書類を仕分けておいてもらえますか?」
そう言ってアーロンがルシンダの手を取り、書類の束を手渡す。
「……アーロン、今わざわざルシンダ嬢の手を取る必要があった?」
「……エリアス王子、私がゆっくり説明して差し上げますから感謝してくださいね。ではまず、見学者の方は必ず身に付けなければならない、このタスキをつけていただきましょう」
アーロンがどこからか『本日の見⭐︎学⭐︎者』と書かれたド派手なタスキを取り出す。
「はぁ!? 必ず付けるだなんて絶対嘘だろう!? というか、なんでこんなものが用意してあるんだよ」
わいわい言い合いながら見学ツアーを始めるアーロンとエリアス。
(ふふ、お二人とも臨海学校でずいぶん仲良くなった気がする)
賑やかな二人を微笑ましそうに眺めつつ、ルシンダは書類の仕分けへと取り掛かるのだった。
それから二時間ほど経った頃。
そろそろ今日の仕事も終了の時間だと、机の上を片付けようとしたルシンダは、隣に座るユージーンの様子がおかしいことに気がついた。
右手に持った万年筆を深刻な顔で見つめている。たしかあれは、ユージーンの弟からの誕生日プレゼントだったはずだ。
「ユージーン会長、大丈夫ですか? 万年筆がどうかしたんですか?」
「ああ、ルー。万年筆というよりも、その……」
どうも歯切れが悪い。そういえば、仕事中もたびたび溜め息をついていた気がする。仕事が忙しいせいかと思っていたが、別の理由があるのかもしれない。
ルシンダは声を落として囁いた。
「お兄ちゃん、何か困ってるなら言って。水くさいよ」
「ルー……」
ユージーンは万年筆をぐっと握りしめると、何かを決心したようにうなずいた。
「……実は、弟の様子が変なんだ──魔王に取り憑かれているのかもしれない」
「えっ……!?」
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