暫くの間を置いて庵が口を開いた。
「ダメって言ったらしないで。嫌って言っても。」
嫌よ嫌よも何とやら、という言葉が浮かんだが司狼は何も言わず頷くだけにとどめた。
「……あと、僕の事は、庵……って呼べよ……お、お前にしか呼ばせてないし……それに
「好きだよ、庵」
「……はぁ?!今言う?!馬鹿なの?!ねぇ?!」
「だって今思ったし俺だけの呼び方とかえろいじゃん?」
えろい、という言葉に体が反応する。今まで自分をそう表現されたことがなかった恥ずかしさと直前の告白によって体の感度はかつてなく敏感になっていた。逆に司狼は今まさに下着を脱いで始める体制を整えていた。
初めて見る好きな人の裸。今まで一緒に入浴もしたことのなかった、相手の体を見るだけでも精一杯なほど純情な庵であっても、この先起こる展開は想像できてしまった。いつの間にか庵はベッドの横の床に座らされ、ベッドに腰掛けた司狼と見つめ合うような体制を取っていた。しかし幾ら拒んでも、目線は自然と下の方に流れてしまう。
「……ガン見するほど見たかったか?」
「そ、そんな訳!ないだろ!」
「ムキになんなよ。咥えてみるか?」
クワエル。加える?くわえる……。現実逃避を試みるも出来なかった。既に顔は目の前まで迎えに行き、唾液が首を伝うほど溢れていた。
「……庵って意外とむっつりなんだな、変態。」
この時庵は初めて自分が司狼の好きなように汚されていくことを求めている事に気づいた。言葉で罵られ、自由を奪われた状態で強引に求められるその蹂躙感、自分という存在全てを司狼に屠られる感覚。行為が始まる前から、庵は完璧に被食者としての快楽を求めていた。
「……その……しろーが……動かし、てよ……」
司狼は庵のねだる言葉に興奮を抑えられずにいたが、それ以上に庵を調教したい、自分のいいなりにしつけたい。そう思えてしまった。
「お願いする時にそんな言葉遣いでいいのか?」
「うっ…… その……僕を……好きにつ、使って……ください……」
「何濁してんだよ……どうして欲しいかちゃんと言ってみ?」
既にキャパオーバー気味の庵だが、お預けを食らったままのもどかしさと見上げた時に見える司狼の陰った笑顔に抗う事など不可能だった。
「ぼ、僕を……ぉか、犯して……下さい」
顔を真っ赤にしながらも目はちゃんと合わせる庵のマゾ体質に司狼の理性は機能しなくなった。
「もうなんて言おうが止めらんねえからな」
そう囁くと同時に司狼は口の中にねじ込んだ。頭を両手で掴み、まるで玩具のように自らのためだけに使われているにもかかわらず、庵は時に喉まで攻め入る彼の事を気持ちよくしたい、という考えと痺れるような快楽に溺れていた。慣れない動きで舌を動かすと司狼の顔つきが徐々に色気に包まれてゆく。やがて限界に達するところで離され、頭から顔にかけて司狼の色に染められた。
「へへ……ゲホッ、どう?気持ち、よかった……?」
「まだまだだな……俺が手本、見せてやるよ」
そういうと庵を軽々と持ち上げ、寝かせた状態で司狼が庵の下着に手をかける。
「な、なにしてんの?!あ、汚いよお風呂入ってないし……」
「でも俺のはイケたじゃん」
それを言われると何も言い返せない、と言わんばかりに顔を赤らめた庵は、ただなされるがまま身を捧げた。司狼も意地が悪いため徐々に脱がそうと考えていたが、何も言わずに庵が腰を浮かせたのですんなり脱がせてしまった。
「……やっぱ庵は変態だな」
今まで罵倒を快感に覚えたことなどなく、苦痛の象徴でしかなかった庵にとって、このような感情は初めてであった。もはや司狼の言葉は道具よりも快楽を与えるものになってしまうほどで、そんな官能的な声に脳が奪われているといつしか司狼の頭は自分のヘソ下まで来ていた。
「ちょ、何して……まさか、やるの?!」
「そうだk 「汚いってホント!お風呂!せめてお風呂!」
口では文句を言い拒みつつも体は正直だった。既に準備を整えていた伊織の正直な部分に司狼は食らいついた。司狼もこういった事をするのは初めてだったが、持ち前の器用さで難なくコツを抑えていた。庵は終始、司狼の額に手を押し当てて離そうとしていたが徐々にその力も弱まっていき、最後は情けなく悶え果てた。司狼は、顔を両手で閉ざしてうずくまる庵にそっと背中から抱きしめ、思いつく限りの愛を囁いた。庵も負けじと小さな声で張り合ったが、自分の吐息と喘ぎにかき消されてしまって届かないので言い返そうと振り向くとまた舌を絡められる。
「んっ……馬鹿!自分ばっかりいいやがって!僕だって……僕だって……!」
「“僕だって”……なんだよ」
懸命に抗おうとする庵を面白がりつつも、司狼はどうしてもその言葉を庵に言わせたかった。
「司狼のこと大好きなんだからな!!」
欲しかったし想像していた陳腐な答えだったが、やはり庵に直接言われると破壊力が高い。少し休みを入れてやろうと考えていた司狼の頭と体は再び情欲の奴隷と化した。
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