テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第9話:奪われる側
雨上がりの夜。
濡れたアスファルトに街灯の光が反射し、街全体がゆらめくガラス細工のように輝いていた。
ユイナはビル街の裏路地を歩いていた。
背中のホルダーには、回収した10枚のマスク。
その重みと引き換えに、彼女の身体と視界は鋭く進化していた。
だがその夜、彼女の背後に静かな“気配”が現れる。
「それ、見せてくれない?」
声と同時に、暗闇から影が飛び出す。
フード付きのマントを着た少女――髪は水色のショート。
細い身体にミリタリージャケット、両手にはトンファー型の装置が装着されている。
名前はノア。
“奪い屋”と呼ばれる存在で、回収者を専門に狙う強奪者だ。
彼女のマスクは薄いグラス型。目元だけを覆い、情報処理とスピードに特化した“ハッキングマスク”。
ユイナが反応するより先に、ノアは足元へスモークを展開。
視界が一瞬で白に染まり、直後、背中に冷たい衝撃が走った。
(マスクホルダーが狙われてる…!?)
ユイナは跳ねて距離を取ろうとするが、既に“位置座標”を読み取られていた。
ノアのトンファーが連撃で襲いかかる。
その動きは視認不可能なほど早く、しかも打撃後にマスクの接触コードが仕込まれている。
一撃ごとに、“奪われる恐怖”が皮膚を走る。
ユイナはすかさずマスクチェンジ。
黒と赤のマスクが装着され、人格が切り替わる。
「戦闘ユニット“セカンド”、起動」
無感情な声とともに、彼女の動きが変わった。
着地と同時に“重力逃しステップ”で軌道をずらし、ノアの連撃を紙一重で回避。
そのまま反転して肘打ち、膝蹴り、打点の連打。
ユイナの攻撃がノアを押し返すが、相手は“奪うこと”に特化した存在だった。
ノアのマスクが点滅し、視線がユイナのマスクの構造を解析していく。
「君の戦闘人格、いいね。1枚もらってく」
その瞬間、ユイナの視界に“奪取コード”の予告表示が浮かぶ。
――奪われる。
このままでは、10枚目の戦闘人格が吸い取られる。
焦りの中、ユイナは咄嗟に身体を反転させて自ら仮面を解除。
回避行動として“装備解除”を選んだ瞬間、感覚が一気に鈍くなる。
ノアはふっと笑い、マントを翻して離脱した。
「……じゃあ、次は逃がさないよ、“視える子”」
その場に残されたユイナは、膝をついて肩で息をした。
はじめて“奪われる側”に立たされて、彼女は理解した。
マスクの回収とは、奪うこと。
奪われる可能性がある限り、絶対の安心など存在しない。
奪ったマスクの数だけ、狙われる。
だがその恐怖の底で、ユイナは小さく笑った。
(――これでいい。ようやく、同じ土俵に立てた)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!