テラーノベル
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息抜き作品。多分シリーズ化します。
「……日本。何だ、これは。」
会議後の部屋に、ドイツさんの声が響く。
お怒りモードの低い声に呼ばれたのが珍しい人物だったからか、珍しくざわめきが収束する。
「へ………?」
間の抜けた声を漏らした日本は、わずかに肩をすくめて振り返った。
その輪郭からゆっくり血の気が引いていく。
「え、えっと……その………。」
「……これは何だと聞いている。」
トントンとインク跡を叩くドイツ。
直前まで日本と話していたイタリアは、諌めるようにふたりの間に入った。
「まぁまぁドイツ、落書きくらいみんなしてるんよ。」
メガネの上の眉が跳ねる。
「ほぉ。自首か?イタリア。」
「うぇっ!?今日はしてないんよ!!」
「………今日『は』。」
自身の失言に気付いたイタリアが、青ざめた笑顔で日本を振り返った。
「にっ、日本!あの落書きなぁに〜?ドイツがすっごく気になるみたいなんよ!!」
そっと置かれたドイツの手の重みに、決死の形相で迫るイタリア。
日本は顔を真っ赤にしながらも、観念したように口を開いた。
「……相合傘、です…………。」
「アイアイガサ………?」
イタリアは首を傾げた。
ドイツも見知らぬ単語に興味をそそられたように、何だそれは、と繰り返す。
「えっと……改めて問われると難しいんですが………。」
日本は手近にあったホワイトボードに駆け寄った。
さらさらと描かれたのは、棒が刺さった二等辺三角形。奇妙なことに、その頂点にはハートがちょこんと乗っていた。
アートの片鱗でも感じたのだろうか。フランスがふたりの横に並ぶ。
「じゃあさ日本。『アイアイ』って何なの?」
アートの片鱗でも感じたのだろうか。フランスがそう尋ねた。
「ふたりで何かをすること、から転じて『恋人同士』という意味を持っています。」
日本はそこで恥ずかし気に視線を落とした。
「つまり相合傘は、『恋人同士が一つの傘を共有すること』を指すんです。」
「おい日本!それって………!」
「何アルか、美国………うるせぇ奴ネ。」
爆音を響かせて立ち上がったアメリカに、中国が眉をひそめる。
「ったく……。ほっんと落ち着きがねぇな…。」
同調するように言葉を重ねたロシアの方を向き、アメリカはバカにするような笑みを浮かべた。
「はっ、その様子じゃ気づいてねぇみたいだな。」
「お前がヤク中だからうるせぇって話にか?」
即座に返したロシアに、違ぇわ!とアメリカが吠え返す。
ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した大国を眺め、イギリスはため息を吐いた。
「………日本さん、気にせず続きをどうぞ。」
日本は小さく頷くと、ペン先をキュッと鳴らしながら自分の名前を傘の下に書き入れる。
そして、名前ひとつ分の余白を示しながらこう言った。
「ここに、僕の………こ、恋人の名前を書くんです。」
瞬間、ピアノ線のように部屋に満ちた空気がピンと張った。
細い指先の示す、ただの真っ白な空間。
全員の視線がぴたりとそこに吸い寄せられている。
戦いの火蓋を切ったのは、不敵な笑みだった。
「それじゃあ日本。我の名前を貸してやるヨ?」
低く柔らかな声が響く。
それが意味することに、誰もが気付いた。
「あ゛ぁ?」
アメリカが苛立ったように目を吊り上げる。
「何勝手なこと言ってんだクソコミーーーー!!」
「我と日本は長い付き合いアル。既成事実のひとつやふたつ……」
「かっ、勝手なこと言わないでください!?」
酸性に反応する試験紙の如く、急速に顔色を変えた日本に中国は薄く笑う。
「本当か日本っ!!!」
「んなわきゃないでしょう!?」
コホン、とイギリスが咳払いをした。
「全く……早い者勝ちなんて品のない………。」
「おいブリカス。そのペンは何だ。」
「チッ。」
電光石火のスピードでフランスがボードの前に立ちはだかる。
「はいはいはーーい!ioも書きたい!書く書く〜!」
ふわりと笑って手を上げたイタリアに、日本は困惑したようにたじろいた。
「……いいだろう。」
チェロのような声が響き渡る。
「なら、公平に決めようじゃないか。」
「期限はこれから1カ月。その間各々が日本にアピールし、ひと月後、この場で日本が選んだ奴のみが権利を得る。」
「……あの、ドイツさん………?」
いいな、と面々を見渡すドイツ。
「いいぜやってやんよ!」
「ふん、我が有利で悪いアルなぁ。」
「お祭りなんね〜」
「領土侵犯はアピールに含んでいいか?」
「全くもって美しくない手ですね。」
「お前が言うわけ?」
様々な反応ながらも、出た結論は同じなようだ。
日本はただ、まともな人物の消失に深く心を抉られていた。
(続く)
コメント
4件
これはとても面白そうなシリーズ物ですね…日本くん、1ヶ月も全力アピールされちゃうんだ。しかも7国から。心が持つか見所だなぁ…この提案をドイツくんがしてるってのが良い。これから各国がどんなアピールをするのか楽しみです。けど…領土侵攻はやめようね、ロシアくん。
へへ…これから楽しみだあ☺☺