目の前にムササビ……ではなく、両手を広げた刀也さん。
混乱して何も言わずに目をぱちぱちさせていると、恥ずかしくなってきたのか段々と手が縮こまっていく。
伏見「いや、……え??」
状況を整理しようとしていると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。そのまま部屋を出ていこうとする刀也さんを急いで立ち上がって捕まえる。
剣持「ハナシテクダサイ」
右手首をガッシリと掴まれて身動きが取れなくなっていて。片言すぎて外国人みたいな喋り方になっている。
伏見「え、今のって」
剣持「あーーー!!!」
何だったのかと聞こうとすると突然大声を上げて。
剣持「忘れて!忘れてください!!」
喚きながらも此方を見ようともしない刀也さんに少しむっとする。少し意地悪してやろうと思って。
ポケットに目薬が入っていたのを思い出して、こちらを見ていないことをいいことに何滴か目薬をさす。鼻を啜っておけば泣いているように見えないこともないだろう、と刀也さんの反応をわくわくしながら待つ。
何も喋らなくなったのを違和感に思ったのか少しだけこっちを見て。俺が泣いている(フリをしている)のに気がついた途端「ガッくん!?」と近づいてくる。
伏見「……隙アリっ」
油断しきっていた刀也さんを両腕で包み込むように捕まえる。何とか抜け出そうと抵抗しているけど、意地でも離さないという気持ちで強く抱きしめる。
嵌めたな、とか喚いているのが可愛くてつい笑ってしまう。
抱きしめているうちにだんだんともがかなくなっていって、最後には文句を言いながら俺に抱きしめられているだけになっていた。抵抗しない癖にずっとぶつくさ言っているから、また意地悪したくなる。
伏見「そんなに離れたいならいいっすけど、」
そう言って力を緩めると、背中に手を回してぎゅっとしてきて、俺の胸元に顔を埋めたまま何も言わなくなってしまった。ニヤニヤしそうになったのを寸前で抑える。
伏見「…離れたくない?」
そう問いかけると抱きしめたままこちらを向いて。
剣持「……分かってたくせに」
そう言って睨んできた刀也さんが可愛くて、つい笑ってしまう。
剣持「何笑ってるんですか……もうっ」
もう何をしても可愛く見えてきて笑っていると、刀也さんがあちらを向いてしまった。そのまま何も喋らなくなってしまって。
怒らせたかな、そう思って声をかけようとした瞬間。
肩を叩こうとした手をぐいっと引っ張られてよろける。こちらを向いた刀也さんの顔が、まつ毛が触れそうなほど近くにあって。
伏見「……っ」
少しカサついた唇の感触。さっきまでとは打って変わって、ニヤリと妖艶な笑みを浮かべている。
剣持「……隙あり、ですね」
立場逆転。顔を真っ赤にしているのはどちらなのか。
本当にこの男は厄介だ。いつも可愛い癖に、突然スイッチを入れては俺の調子を狂わせる。
さっきまでの可愛さが嘘のように、雄の顔で俺を見つめてくる。手首を握っていた手がするりと絡まってきて。
つい手に意識を集中させていると、もう一度刀也さんの顔が近づいてきて、2度目のキスをされた。
2回すればもう何回でも同じ。角度を変えて何度も何度もキスをされて、じりじりと壁に押し寄せられる。
とん、と背中が壁に着く音がして。
剣持「……もう、逃げられないですね」
絡ませた手を、逃がさないと言わんばかりに握られる。もう一度口を塞がれて、深い口付けを交わす。
酸欠と甘さで脳がとろけていく。逃げようにも後ろは壁で。吐息と少し卑猥な音だけが部屋に響いて脳を支配する。
剣持「ふふ、かわいい」
そうニヤリと笑って。
……全く本当に、この男は厄介だ。そこがいいと思ってしまっている俺も、きっと、同じなんだろう。
Fin
コメント
6件
ムササビてW表し方くそかわええやんw
??「別に固定じゃないから」
大好き